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雨上がりに僕らは駆けていく Part1  作者: 平木明日香
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第12話



 どうなってんの?



 ますますわけがわからない。



 時間感覚がおかしいとか、そんなレベルじゃない。



 …夢でも見てる?



 …まさか、そんなわけないよね。



 呆然と立ちすくんでいる後ろで、ありふれたクリスマスのBGMがテレビから聞こえてきた。


 …いやいや、だからおかしいでしょ


 まだセミが鳴いている時期だよ?


 夏休みが明けたばっかりなのに、いくらなんでも気が早すぎる。




 なんで部屋に暖房がついてんの?


 なんで、厚手のセーターを妹は羽織ってるの?


 暑苦しいからそれ脱いでよと迫ってみたけど、



 「それなんの嫌がらせ?」



 とキョトンとされておしまい。



 はい、そうですか……。



 もういい。


 私の降参!


 私の負け!


 どうせなにかのイタズラでしょと騒ぎ立てても音沙汰無し。


 誰も何も言ってくれない。


 チクタクチクタクと時計の針が何事もなく私の横を通り過ぎるだけ通り過ぎ、まるで私がおかしいみたいに冷ややかな視線を送られた。




 ひどくない?



 リビングのガラス戸は外気との温度差で結露し、冷たい水滴を垂らして寒がっていた。


 エアコンは轟音を立てながら、一生懸命家を温めていた。


 設定温度28度。


 どう考えても場違いな設定温度にビビり、慌ててリモコンのスイッチを押す。




 ここまでくるともういてもたってもいられなくなった。


 リビングを出て靴を履き、玄関のドアを思いっきりこじ開けた。


 それと同時に、外の冷え切った冷気が一斉に家の中へと流れ込んできた。


 冷たく、凍える空気。



 「冬」だ。



 それに間違いない。



 私の稚拙な頭でも、その「空気の正体」が、冬の季節の物だというのがわかる。



 街の交差点に降り積もる雪。


 信号機の上にかぶさる雪。


 薄暗い空の下のビルの色。


 雪をかき分けて削れた道路の地面のタイヤ痕。


 曇天の空の下で紙吹雪のように舞う白の結晶。



 ドアを開けると、まごうこと無き銀世界の情景が、頭の奥へいっぺんになだれ込んできた。


 いくら考えたって追いつかない非現実的な映像が、一直線に意識の中に割り込んできて、多少の疑問などねじ伏せるかのように世界の「全て」を変えていた。


 暑苦しく注がれていた昨日までの夏の日差しは消え、ぶ厚い雲に空が覆われている。



 手のひらにこぼれる雪。


 ひとひらの雪。





 12月?



 ハッ。




 スマホを開いて電話をかけた。



 ばかみたいじゃないか。


 一人焦って外に出て、わけもわからず空から落ちるひとひらの雪をキャッチし、ブラックアウト寸前の頭を必死に整理しようと努めてみるけど、これじゃあ私がおかしいみたいじゃないですか。



 ふざけないでよそんなわけないでしょ。



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