第102話
「時間」が止まった。
「空間」が止まった。
しかしそれが、その「現在」と「現在」の境界が一瞬のうちに融解していく時間の流れが、意識では追えないほどの速度となり、目まぐるしい「現在の変化」を引き起こす。
なにが起こったのか分からなかった。
この手についたものが「血」であるにしても、なぜそれが「血」であるかの理由を探せなかった。
おぼつかない視点。
動けなくなる体。
亮平はなぜか動かない。
視線の先で、感じたことがない気配。
すぐ目の前にいるというのに、なぜか、亮平が遠くに感じる。
名前を呼ぼうとした。
亮平!って、呼びかけようとした。
でもなぜか、声が出ない。
喉から、何も出てこない。
呼吸もままならないほどに。
カツンカツンッ
展望台の上の鉄製の地面を歩く足音が、明かりの向こう側から聞こえた。
夜の暗がりと、光の当たる場所の合流地点に、ヌッと現れた人影。
その影は、ゆっくりこっちに近づいてきた。
明かりの下にその影が入った時、その「顔」が見えた。
——見たことのある、その顔が。
「…キー…ちゃん?」
短く切ったショートボブに、ボーイッシュな見た目。
昔から変わらないそのフォルムが、視線の先で立ち止まる。
「どう、して…?」
それは、声にはならない声だった。
どうしてキーちゃんがここに…?
なんで…
思考が固まったまま、キーちゃんは明かりの下で立ち止まった。
そのまま、地面に倒れた亮平の体を見つめている。
「キーちゃん…、亮平が…!」
目の前の出来事を考える時間はなかった。
ただ、とにかく真っ先に浮かんだ言葉は、——感情の行き先は、亮平の体に向けられていた。
亮平から血が出ている。
亮平が動かない。
とにかく真っ直ぐに、追いかける。
目の前で起こっていることの「時間」を。
何が起こっているかの「距離」を。
——パンッ…!
また、音が響いた。
乾いた音が。
その「音」の正体は、“源”は、目の前にあった。
キーちゃんの、——右手の中に。




