第101話
あの時、皆はどこにいたんだろう?
アキラや綺音は?
キーちゃんは?
ポートアイランドの臨港道路にいたという亮平。
この展望台から見える光との「距離」は、当時の光との距離と違っている。
一緒にいるはずがない4人。
「昨日」か「今日」かもわからない時間。
——その時だった。
パンッ…!
背後から聞こえたその音は、空の彼方へと消え去るように瞬く間に乾いた振動を立てながら、静寂の隙間をついた。
と同時に、何かが飛び散る。
私の頬を掠めるように、亮平の体が金属の手すりの上に覆い被さるのが見えた。
糸が切れた操り人形のように力なく「ゴトンッ」と倒れ、重力に逆らわない自由落下の速度が、勢いよく手すりの金属とぶつかる。
——そのスピードは、私の日常のスピードを追い越すように訪れた。
亮平は声を発することもなく、音がした方向から押し出されたように強引に横倒しになる。
こめかみから何かが流れ出ていた。
「何か」。
「…亮平?」
手すりの上に覆い被さった亮平の体が、支える力もないままズルズルと地面に流れていく。
そのまま力なく地面に倒れ込み、起き上がらない。
「亮平、亮平…!?」
意識を無くしたように手も足も硬直したまま、動かない。
地面にうつ伏せになったままの亮平の体を揺すりながら、叫んだ。
「どうしたん!?」
亮平の体から何かが溢れ出てきた。
見たことのない…もの。
水のように早く、滑らかなもの。
それはみるみるうちに流れ出てきて、あっという間に地面の上を覆った。
手にベッタリとついた「何か」。
これは一体…
街灯の明かりの下で、私は手についたそれを見た。
…赤く、温かい。
…血だ
真っ赤な、…血だ
「うああああああ…!!」
叫ぶより他はなかった。
目の前に起こった現象が、瞬く間に頭の中を駆け巡った。
起こったことの「事象」が、一体なんであるかの具体性を帯びないままに私は叫んだ。
それは、「声」と呼ぶにはあまりにも野生的で、——かつ反射的な音の「振動」だった。
喉から出しているものじゃない。
もっと深く、遠いところから、弾けるように何かが出てきた。
「血」が、それが「血」だということの事実が、一つの電気信号として体中を駆け巡ったからだ。
目の焦点が制止する。




