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夢限列車 ある官僚の後悔と破滅

作者: 龗香
掲載日:2021/10/06

痴漢だめ絶対

スカラブ(黄金虫)を太陽神の使いとして(あが)める、スカラベブブ王国内務官府に新しく出来たデジタル庁に、民間からの募集に受かり配属されたマルクス・ガーグは一代限りの準男爵位を授かった。


通勤で使う列車はいつも満員だ。

マルクスはホームで待ちながら、昨日の事を思い出していた。


二十代半ばを過ぎて未だ一つ所に腰を落ち着かせる事が出来ずに転職を繰り返して来たが、やっと真面(まとも)な職にありつけて、今までは避けていた学院時代の友の飲み会に参加した。


官僚の仕事を自慢したかった。

ところが、話が進むにつれて、民間上がりの官僚の初任給は雀の涙だ、妻や子供がいてやっと一人前だと言われる世界で独身貴族は使い捨ての駒か生ゴミだと散々笑われた。


くそう。言いたい放題言いやがって。

俺はこれからなんだよ。これからのし上がっていく男なんだ。今に見てろよ。


満員列車に揺られていると、

斜め前にいる、可愛らしい女の子の姿に気付いた。


艶やかな黒髪からは洗い立ての匂いがした。

学生服か。

半袖から伸びた柔らかそうな白い腕。

プリーツのスカートからはむっちりとした生々しい足が見える。


ごくり。


マルクスはいつものように、そっと手の甲をスカートの上から押し付けて反応を伺った。


もじもじと体を動かす様子に、獲物ゲットとばかりに口角を上げる。


もじもじと嫌がる様子に気を良くしてマルクスは(まさぐ)った。


プシューッ

列車が駅に着くと、パシャッと音がした。

今まで自分が弄っていた女の子がハンドフォン(携帯電話)をマルクスの顔に向けていた。


顔の写真を撮られた!


マルクスは女の子を捕まえようとしたが人並みに揉まれて気が付けば女の子の姿はどこにもなかった。


それから(しばら)くの間は警察の影に怯えて暮らしたが、警察がマルクスを訪ねてくることはなかった。


マルクスは官僚の同僚と結婚して子供も授かり、順風満帆な人生の波に乗っていた。


はずだった。


子供が学院に入り、学院祭で親の若い頃と自分の写真を並べて飾るからアルバム見せてーと、妻と子供がはしゃいでいた。


マルクスは妻や子供の楽しそうな笑い声を聞きながら晩酌をしていたが、ふと、急に静かになったな、と、振り返ると。


そこには能面のような感情のない顔で妻が立っていた。


「うわっ。びっくりした。なんだよ。」

「アルバム。」


妻がマルクスにアルバムを放り投げる。

ガッと腹に当たってマルクスは怒りをあらわにした。


「何すんだよ!危ないだろ!」

「写真。これ、あんたよね?」


バンッとテーブルに学院時代の友と撮った写真を叩きつけられた。


「は?何だよ、意味わかんねーよ。だから何だよ。」

「これもあんたよね?」


ハンドフォンの画面を見せられる。

若い頃のマルクスが写っている。


「あのさあ。だから何?俺だったら何なの?はいはい、俺です。おれ、、、、え?、、は?」

ハンドフォンの写真は列車の中で撮られている。

嫌らしい笑みを浮かべたマルクスだ。


マルクスの脳裏に蘇る、あの日。


「このハンドフォンの写真。私も見覚えあるわ。出会った頃の貴方そっくり、いいえ、これは絶対に貴方よ。」

「どうしたんだよこれ。、、誰が持ってたんだ、誰のだ、教えろよ、何の目的でっ」


マルクスは驚きと困惑に妻に怒りをぶつける。

妻は生ゴミを見るような目でマルクスを見た。


「その様子だと覚えがあるのね?どうやったか知らないけど、汚らわしい。最低ね。」

「違うんだ。誤解なんだ。俺は触ってない。俺じゃない。あの子に会わせてくれ。話せばわかる。」


マルクスはなぜか、あの日の柔らかな肌触りを、まるで昨日の事のように思い出していた。

あれから何十年と経っているのに。

そんなマルクスを見て妻は大きく振りかぶって右手を振り下ろすと、マルクスは部屋の端まで殴り飛ばされた。


ぐばはっと血を吐き背中を強か打ったマルクスは恐怖を宿した目で妻を振り返る。

妻の目は夜叉の如く怒りに釣り上がっている。


「このハンドフォンは子供のよ。つい最近撮った痴漢の写真と貴方の若い頃の写真が全くの同一人物だと気付いてトイレに駆け込んで行ったわ。ねえ、どうやったの?いいえ。もうそんなことはどうでもいい。」

「ま、、待ってくれ。違う。誤解なんだ。」

「おとうさん、、」


妻の後ろから、子供が顔を覗かせる。

「うっ」

げぼっ

子供がマルクスの顔を見て胃液を吐いた。


「そんなっ、、まさか、、なんで、、」

マルクスはあの日の柔らかな女の子と、目の前の我が子が重なって、ガクガクと目に見えて震える足を折って膝をついた。


「絶対に許さない。」

妻は子供を支えて、軽く身支度を整えて出て行った。

ガチャン

扉が無常にも優しく閉まった。


スカラベブブ王国の崇めるスカラブには伝説がある。


スカラブが肩に止まると異世界へと繋がることがある。


もう一度見てみよう。ああ。いるいる。

ハンドフォンの写真の中のマルクスの肩に。

元同僚の妻経由で仕事場でも噂が広がり針の筵だが財産分与や慰謝料の為に退職もままならず地獄の日々を死んだように生きていくマルクス。

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