悪夢
『悪夢』
宗一はいつも悪夢で目覚める。
今朝の夢は、自分が見知らぬ若い女を殺して死体を山に埋めてしまった、罪が
ばれないか悶々と思い悩んでいる、という内容だった。
「はあっ!」
と息を飲んで体を起こした宗一は、いつもの自分の部屋を確認して現実に戻った。
35歳、実家で母親と二人暮らし。無職。
(目が覚めても悪夢だ)
宗一は心の中でつぶやいた。
部屋を出て居間に行く。テーブルの上にコンビニ弁当やカップ麺の殻がいくつも
片付けられることなく置かれている。
彼は冷蔵庫から炭酸飲料のペットボトルを取り出して飲んだ。
悪夢が宗一の喉をカラカラにしていたのだ。
そして彼はテーブルに着いて、コンビニ弁当やカップ麺の殻をじっと見つめなが
ら考えた。
(こっちが夢であちらが現実だったら良かったのに・・・)
ピンポーン、とドアチャイムが鳴らされた。
宗一は動かない。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、とさらに立て続けに三回チャイムが鳴らされる。
「良子さーん、大丈夫?ねえ、宗一君いる?」
玄関先で訪問者の女性が大きな声を上げる。
ドンドンドン、ピンポーン、ピンポーン。
宗一は音をたてないように気を付けながら自分の部屋に戻った。
そしてベッドにもぐりこんで頭まで布団をかぶると、
(こっちが夢だったら良かったのに)
ともう一度同じことを考えた。
遠くから救急車のサイレンが近づいてくるのが聞こえる。
宗一はまた喉が渇いてくるのを感じた。
サイレンが止まる、家の周りが騒がしくなる。それなのに家の中はより一層静かに
なったように宗一には感じられた。
彼は分かっていた。もうすぐ現実に引き戻される。
喉はカラカラだ。
宗一はいつも悪夢で目覚める。
おわり