海と歌と告白
町野ウタコと横須賀サクラは小学生の頃から友達で、中学に入ってからも毎日のように行動を共にしていた。
学校からの帰り道でウタコは
「ねえ、今度海に釣りに行かない?」
と隣を歩くサクラに提案した。
「釣りぃ?釣りなんかしたっけウタコ?」
「いや。したことないっすね」
「じゃあ無理じゃん」
「本当は歌を歌いたいんです。 ラブソングを」
サクラは立ち止まって両手でウタコの肩をつかまて
「歌っていいよ。私、聞くから」
と真剣な目をした。
「マジっすか?この状況でっすか?」
「あんたが歌いたいって言ったんでしょ。さあ、歌いなさい」
「じゃあお言葉に甘えて・・・」
ウタコはサクラだけに向けて、歌った。
春の午後は空が抜けるように青かった。
歌い終えたウタコは、
「本日はありがとうございました」
とお礼を言った。
「アンコール」
サクラはウタコの肩をつかんでいる手に力を込めて言った。
「いやいや。この状況で2曲目はキツイっす」
「宴はこれからよ。それに、私、好きよ。あなたの歌声」
「これ何の罰ゲームっすか?」
「あなたのことも好きよ」
「ありがと。でももう歌わないよ」
「そう。じゃあ、一つだけ言わせてもらうわ」
サクラはウタコの肩から手を離して、睫毛を伏せながら
「この時期はメバルやクロダイなんかが釣れるわ」
と言って歩き始めた。ウタコもまた、一緒に並んで歩き始める。
二人はなんとなく海のことを考えたり、途切れ途切れに歌を口ずさんだりしながら、家に帰るのだった。
おわり