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打ち上げ

 そうして、5日目、6日目と過ぎて、同居生活の7日目。最終日の夕方ごろ。


 予備校終わりの俺は、三久の高校近くのファミレスを訪れていた。


 同居生活5日目から始まっていた三久の高校の期末テストが本日終わったので、その打ち上げと、俺の風邪がめでたく治ったので、その快気祝いということだった。


「よっしゃ~! テスト終わった~! かんぱーい!」


「ぱーい」


 企画してくれたのは、由野さんと御門さん。


 テストの件もあって、しっかりとお礼がしたかったらしい。


「滝本さん、マジで感謝ですよ~なんせノートに書かれてた問題ドンピシャだったんですから」


「おかげで赤点は余裕で回避できそうです」


 今回は赤点を回避できても、次、また次とテストはあるので、すこしでも勉強の習慣をつけて欲しいと思う。


「三久はどうだった?」


「私もばっちりだったよ。満点かどうかはわからないけど、90点以上はいけると思う」


 風邪のほうは同居生活五日目の時点でほぼ完治していたので、細かいところのみだが、三久にもしっかり教えることが出来た。


 全教科90点以上なら、かなりの上位を狙うことができるだろう。


「ありがとね、おにちゃん。風邪だったのに、色々と無理させちゃって」


「いや……いいよ。俺も、三久には心配かけっぱなしだったから」


 風邪を引いている間は、ずっと三久に看病されっぱなしだった。せっかく決めた家事分担も、結局三久が全部やってくれたし、申し訳ない思いしかない。


「えっと……こちらこそありがとうな、三久」


「おにちゃん……えへへ」


 俺が控えめに頭を撫でると、隣に座る三久は気持ちよさそうにふにゃりとした笑みを見せる。


 こうしてやると嬉しいことが最近わかったので、三久にお礼をするときはやっておいたほうがいいのかも。


「……ねえ、由宇ちゃん。もしかしてさ、この二人って、いっつもこんな感じで二人の世界を生成しちゃうワケ? さすがにいっしょにいて恥ずいんだけど」


「最近は特にそんな感じっスね。勉強にかこつけて、いったい何をやってるのやら」


「っ……す、すいません」


 そんな声が聞こえてきて、俺たちはすぐさま離れる。


 やっぱり撫でるのは誰もいないときにしておこう。


 今更ながらに恥ずかしい。


「あの、ごめんなさい、ノノさんのことも誘っちゃって。迷惑じゃなかったですか?」


「ん? いや、私もこんなふうにわちゃわちゃすんの久しぶりだからね。浪人生だけど、まあ、たまには息抜きも必要でしょってことで」


 今日の集まりには、三久の提案で乃野木さんにも参加してもらっている。


 由野さんや御門さんとは買い物の時以来でほぼ初対面だが、この十数分の間で、二人ともすっかり懐いている。


 乃野木さん、やはり姉御肌気質なところがある。


 その後、テストの話や部活の話をしているうちに、注文していた料理が運ばれてきた。メインのセットに始まり、サイドメニューやデザートなど。どうやらこれでも三人には足りない量らしい。さすが、部活をしているだけあって、食欲旺盛だ。


「じゃ、私らは新しい飲み物もってくるから。滝本、手伝って」


「あ、うん」


 料理にがっつく三人を置いて、俺と乃野木さんはドリンクバーへ。


 そして誰もいなくなったところで、乃野木さんがぼそりと。


「ねえ、滝本」


「なに?」


「三久ちゃんとはヤッたの?」


「ぶっ……!?」


 あまりにも直球の質問に、思わずトレイに乗せていたコーヒーをこぼしそうになる。


「や、やったって……なにを」


「は? そんなのエッチに決まってんじゃん。で? いったの、いってないの?」


 小声で周囲に配慮しつつも、乃野木さんはどんどん俺に迫ってくる。


 ヤっただの、いっただの……遠慮のない人だ。


「そ……そんなわけないでしょ。浪人生と高校生になにを期待してるの」


「いやいや、そんぐらいフツーでしょ。アンタこそなにぼやっとしてんの」


 コップにジュースを注ぎながら、乃野木さんは言う。


「アンタの気持ちはともかく、三久ちゃんはどう考えてもアンタのこと好きでしょ。アンタへの態度、アンタを見る目……薄々でも気づいてんじゃない?」


「そう、なのかな。やっぱり」


 今までそんな経験は皆無なので、確実なことはわからないが、これまでの三久の行動を振り返ってみると、そう感じることは多々ある。


 再会してからの俺への積極的なスキンシップや、今日までの同居生活のことだってそうだ。


 なんにも思っていない人間に対して、年頃の女の子がそこまですることなど、絶対にありえないはず。


「……でも、さっきも言った通り、俺と三久は浪人生と高校生だし、そんなことやる暇があるなら、勉強とか部活に専念したほうが――いたっ!」


「ヘイヘイ、このチキンボーイ」


 またお尻を蹴られた。せめて何も持っていないときにしてほしい。


「それはモテない奴らのただのやっかみでしょ。確かに恋愛にかまけて他がおろそかになるやつもいるだろうけど、逆にそれがモチベーションになって上手く行く場合だってある。そして、アンタは絶対に後者だ」


「絶対にって……言い切るね」


「100パーね。三久ちゃんがいなきゃ、アンタはまたダメになる」


 乃野木さんの言う通りかもしれない。


 こちらに来て一か月半ほどだが、昔のことが原因で調子がおかしくなるたび、三久には助けられた。


 一時期がくっと落ちた成績も、今はしっかり持ち直している。おそらく、次の模試あたりで再び上位に返り咲くだろう。


 それはきっと、三久がいなければできなったことだ。

 だから、彼女にはとても感謝しているし、これからも一緒にいてくれれば、と思う。


「だからってすぐに恋人同士っていうのは、やっぱり違うと思う。もちろん、いずれはそういう関係になれたらとは……まあ」


「……はあ。めんどくさい男だね、アンタも。あんなに純粋で真っすぐな子なんて滅多にいないんだから、さっさと自分のものしちゃえばいいのに」


 乃野木さんは呆れ顔だが、しかし、一線はしっかり引いておかないといけない。


 俺と違って、三久には慎太郎さんと三枝さんという、娘の将来のことを心配しているしっかりとした両親がいる。俺もよく世話になっているし、自分の気持ちだけで、周りのひとたちのことを何も考えないのは、やはり違うと思うのだ。


「まあ、ちょうど夏休みだし、やるやらないにしても、中途半端にせずに、きちんと気持ちは伝えておいた方がいいよ。じゃないと――」


「……なに?」


「あ、いや……そうそう、他の男にとられちゃうかもねって話だよ。由宇ちゃんが言ってたけど、三久ちゃん、結構モテるらしいし」


 ステーキを口いっぱいに頬張っている今の様子からだと想像できないが、大人しくしていれば三久はかわいいし、まあ、そういう事もあるかもしれない。


 クラスの男子、もしくは先輩から告白されたり、アプローチされたり……なぜだろう、胸のあたりがなんだかぞわぞわとして落ち着かない。


「あ、おにちゃんお帰り。……遅かったけど、ノノさんと何話してたの?」


「ん? まあ、これからのこと。夏は受験生にとって大事な時期だから」


 戻ってすぐに三久に怪しまれたが……まるっきり嘘は言っていないと思う。


 三久たちが夏休みを迎えるまで、あと一週間ほど。


 十二年ぶりに向かえる三久との夏。今回は、いったいどうなるだろうか。

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