表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/47

明日もがんばってみよう


 数日間、うじうじと悩んだかいもあってすっきりした。

 開き直りでもカラ元気でもなんとでも言うがいいさ。

 とにかく食堂へ顔を出した。


「おはようございます、静香様」

「まぁ、お元気になられたのですね」


 そんな言葉の中に、小さな声が聞こえる。


「よかった……」


 小さいのに、私の耳にはやけに大きく響いたその声は、私の苦手にしているダンスレッスンの相手役だったことに驚いた。

 もう少し頑張れそうだ。






「静香様の世界では魔法はないのですよね?」


 魔法を教えてくれるシスターに確認された。


「はい。おとぎ話だったら出てきますけど、現実に魔法を使える人間はいません」


 きっぱりと言い切ってからふと思う。

 超能力者や霊能力者は魔法の枠に入るのだろうか。

 私の周りには自称もいなかったので、いないといって差し支えないだろう。


「なるほど。静香様にかけているのは、魔法を使える事実ですね」

「事実、ですか」

「心の底から魔法が使えると思っていなければ、使えない物なのですよ。特に魔法というものは、使う者の想像力も影響するです」

「思い込みの激しい人の方がより強い魔法が使える、みたいな?」

「……間違ってはいません」


 ちょっと間が開いたけど。


「静香様のいた世界では道具が発展しているのですね。ではその道具を動かすモノは何ですか?人の力ですか?」

「電気です。こっちの世界で言えば、雷のパワーを使います」


 身の回りのものは電気で動く。

 ガスや水道が止められても電気が止められるのはかなり痛い。


「魔道具を動かすのは魔力。魔法を行使するための力は魔力と呼ばれます」


 それは習った。

 空気中に含まれる魔素を呼吸とともに体内に取り込み、それを魔力に変えて魔法を使う。

 だからなんだよ、と言いたい。

 その感覚がわかんないから魔法が使えないのだということはわかる。


「魔力から見れば人も魔道具も同じ、中を巡るモノなのです。電気も道具の中を満たしたり巡ったりするのでしょうか?」

「巡るモノ……」


 真っ先に思い浮かんだのは血液。

 ああ、それならイメージがしやすいかも。

 ぐ~るぐ~るぐ~るぐ~る……巡れ、周れ、体の隅々まで……。

 よし、イメージだけならOK!


「私の魔力量は少ないので、参考になるかどうか……。お手を失礼いたしますね」


 シスターは私の手を左手で取ると、右手のひらを上に向けて胸の前にもっていった。


「光よ、闇を照らしたまえ、ライト」

「あっ……」


 シスターが詠唱した瞬間、何かがぞわりと体の中を這いずり回った。

 表現が悪いけど、本当にそんな感じ。

 はっきり言って気持ち悪い感触だ。

 顔をしかめた私を見てシスターがクスリと笑った。


「私の魔力と静香様の魔力は相性が悪いようですね。でも魔力の流れはわかりましたね?」

「ぞわぞわとした感覚がありました」


 ミミズが体の中をはい回った感じ。

 いや、ミミズかどうかはわかんないけど、それぐらい気持ち悪い感触。

 あれが魔力の流れなの?

 マジか……魔法を使うたびにあんな気持ち悪い感覚を……でも魔法は使ってみたいし……久しぶりに究極の選択になっている。


「大丈夫ですよ。今のは私の魔力が静香様の中に入ったせいなのです。相性が悪すぎると痛かったり気持ち悪かったりするのです。逆に相性が良いと心地よかったりしますが、非常事態以外にはあまりやらないほうがいいですよ」

「なんでですか?」

「快感が癖になって、それなしではいられなくなる事例がいくつか報告されています。麻薬と呼ばれる常習性のある薬と同じような効果があるのですよ」


 何それ、怖い。

 脳みそが快感を求めちゃって、依存しちゃうのか。

 しかも薬じゃなくて人相手に依存って、相手のいう事に逆らえない状態じゃないの。


「気を付けてくださいね。稀にですが、身を持ち崩す方がいらっしゃるのです」


 薬よりもひどい依存症に陥り、治療できないし治らないので、隔離するしかない。

 そういった施設、もとい島があるそうだ。

 島流しかよ。

 色情魔だらけの陸の孤島、絶対に行きたくない……。


「自分の魔力を巡らせる場合は問題ありません。むしろ推奨されています」


 それをやることによって魔力が体内で詰まる病気の予防になるそうだ。

 流れが悪くなると、魔法も使いにくくなるそうだ。

 リンパ腺かよっ、と心の中で突っ込んでおこう。


「さぁ、感覚を忘れないうちにやってみましょう」


 さっきぞわぞわな感覚を思いだしつつ、やってみた。

 あれ?なんだかあったかいモノがゆっくりと体の中を巡り始めたぞ。

 ポカポカしてきた。

 注意深く観察していたシスターが笑顔になる。


「実感はないかもしれませんが、ちゃんと魔力は巡っていますよ」

「不思議……」

「私どもは生まれた時から自然にできます」

「でも、教え方が上手ですよね。とてもわかりやすいです」

「時々、魔力をうまく操れない子供が生まれるのですよ」


 魔力がうまく循環できなくて魔法が発動しない。

 魔力の循環と放出量がアンバランスで暴走してしまう。

 どちらも先天的なものだが、訓練で治癒できる。

 治癒と言っちゃうあたり、もうイメージはやっぱりリンパ腺だ。

 医療と魔法は密接した関係にあり、そっちの管轄は政府と教会の共同作業らしい。

 町医者(診断・初期)がいて、治療院(町医者と病院の間くらいの人が行く)があって、病院(重症者のみ)がある。


「聖女様はそこで働くんですか?」

「いいえ。聖女様は多くの穢れを払い、多くの人を癒すために働いていただくことになります」


 うわぁ~なんていうか、ブラック企業の匂いがプンプンするよ。

 千葉さん、大丈夫かな。

 その分、お給料も待遇もよさそうだけど。


「魔力の循環が自然にできるようになれば、魔法も滑らかに使えるようになりますよ」

「そうなんですね。がんばります」


 いよいよ魔法が現実のものとなろうとしている。

 はたからはそうは見えないだろうけれど、心の中ではヒャッホーしています。

 さぁ、明日からもかんばっていこうっ!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ