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冒険者ギルド


 冒険者ギルドというからには、お約束があるかと思いきや、スタッフらしき人以外誰もいなかった。

 閑散としていて、大丈夫なのかとかえって不安になってくる。


 私が不思議そうな顔をしたのに気がついたカーリーが苦笑気味に教えてくれた。

 だいたい十時から十一時という時間帯は冒険者が出払っていない時間帯だそうだ。

 朝早くから依頼を受けて、早くても昼前に戻ってくる。

 だから誰もいない時もあれば数人しかいない時もあり、ギルド職員にとっては一番平和な時間帯というどうでもいい豆知識を手に入れた。


「銀行を開設したいのですが」


 暇そうに受付に座っていたお姉さんにナーガが声をかけた。


「はい。身分証か推薦状をお持ちでしょうか?」

「私ではなくお嬢様が。推薦状の代わりはこれを」


 ナーガがブラックカードを受付嬢の前に置いた。

 受付嬢の目が真ん丸になり、ぱっかーんと口が開く。

 せっかく綺麗なお姉さんなのに、残念な間抜け顔になっていた。


「ししし、しばらくお待ちくださいっ」


 震える手でカードを布が敷いてあるトレイの上に置くと、そそくさと後ろの部屋へ消えた。


「持って行っちゃったけど、大丈夫なの?」

「問題ありません。あのカードは身分証も兼ねていますので、別室で情報を読み取っているのでしょう」


 しばらく待つと、真っ青な顔でさっきの受付嬢が戻ってきた。

 生まれたての小鹿の様にプルプルしながら歩いているけど、どうしたんだろう。

 にやりと楽し気に笑みを浮かべるナーガが怖い。

 あのカードにいったいどんな情報が入っていたのか気になるけど、ナーガの顔を見て気にしたらきっと負けだと思った。


「おおおおまたせいたひました」


 今、噛んだよね……スルーする優しさは持ち合わせているから、大丈夫だよ、と心の中で声をかけておく。


「こちらの紙に記入をおねしゃすっ」


 今、ものすごくテンパってるね……真っ青な顔が真っ赤になっているけど、見ないふりをする優しさは持ち合わせているから大丈夫だよ、と心の中で声をかける。


「ナーガ、代わりにかいてひょうだい」


 お嬢様らしく上から目線で言おうとして、失敗した。


「おやお嬢様、緊張なさっておいでですか?」

 ここぞとばかりに突っ込みが入った。

 スルーする優しさはないのかっ!


「当たり前でしょっ」


 とりあえず開き直って言いきると、ちょっと残念そうな顔でナーガはペンをとって記入し始める。

 お前は何を期待していたんだ?

 問い詰めたいが手痛いしっぺ返しが待っているのでスルーだ、我慢だっ。

 こうやって私の精神は鍛えられていくに違いない。

 そのうち耐性がマックスになって精神系攻撃が一切きかなくなる日が来るんじゃないかと思う。


「それではこちらのくぼみに血をこすりつけてください」


 そう言って目の前に出されたのは白いカードと縫い針だ。

 先端は鋭く、反対側には穴が開いているから絶対に縫い針だ。

 そういえばマジックバックを作る時もナーガが縫い針を出してきたな……。

 この世界における縫い針の扱いって、なんだか万能感がある気がしてきた。

 ちょっとだけやるせない気持ちになりながら、人差し指を刺して血を出し、言われた通りの場所に血をつける。


 カードが赤く光った。

 ルビーを日に透かしたら、きっとこんな風に見えるに違いない。

 見たことないけどね、ハハッ。


「開設年は無償ですが、来年から自動的に存続料が引かれますから、ご注意ください。白いカードができることは入金、出金のみです。黄色いカードになりますと一定限度の借り受けができますが、借り受け返済期間を過ぎて返済がない場合、借金奴隷に落ちますのでご注意ください」

「はい?」


 聞きなれない言葉に首をかしげる。

 借金奴隷?


「借りた金を返せなかった場合、借金返済のために一時的に奴隷として労働という形で支払いをしていただきます」

「へ、返済できたら奴隷から戻れるの?」

「はい。ただし、借り受けの条件が厳しくなりますが」

「白いカードのままでも大丈夫なんですか?」


 某金融カードだと、年数経過で勝手にグレードアップされて気が付いたら年会費を払っていた経験を思いだす。

 アプリとかも最初の三ヶ月は無料とかうたっているから油断しちゃだめだ。


「問題ありませんよ。むしろ普通の人は白いカードですから」


 黄色いカードを使うのは、急な出費が多い冒険者や商人が多い。

 商人はわかるけど、冒険者の急な出費って何だろうか。


「依頼に失敗するとキャンセル料を取られるんです」


 首をかしげるとなぜかカーリーが横から教えてくれた。

 厳しいと思ったけど、依頼を受けるという事は仕事を受注したってことだもんね。

 日本だって、仕事を受ける時にはちゃんと契約書を交わすし、できない仕事は受けないし、納期に間に合わなかったら契約違反でただ働きもあり得るし、出来ます詐欺で訴えられる可能性だってある。

 そう考えると色々と納得できた。


 いわゆる身の丈に合った仕事を選べってことだね。

 てゆーか冒険者は貯金という概念がないのだろうか。

 江戸っ子みたいに宵越しの金は持たない主義なのか、はたまたカード払いで貯金という概念が崩壊したのか。

 異世界貯金事情が気になるところだけれど、今は冒険者を楽しもう。


「お嬢様は素材を売りたいのだが」

「ではあちらの買取カウンターで承ります」


 そう言ってお姉さんは理科室に置いてあるような水道付きのテーブルを指さした。


「大型獣なのでそこじゃ小さいです」


 カーリーが慌てたように言うと、お姉さんはみなまで言うな的な視線をこちらへよこして小さく頷いた。


「では奥の解体場で見せていただきますね」


 案内されたのは倉庫らしき建物で、中には大小さまざまなごついテーブルがあった。

 ナーガがテーブルも何もないだだっ広い場所にすたすたと歩くので、私たちも自然とその後をついていく。


「ではお嬢様、こちらへ」


 床を指さしながらナーガがいい、倉庫の中にいたいかついおっさんたちが何事かとふり帰り、その視線の強さにたじろいだ。

 ガテン系のオジサンたちに囲まれるなんてなかったし。

 大丈夫とわかっていても身が竦む。

 小心者の私は、一人だったら絶対に回れ右で逃げ出していただろう。






 いかついガテン系のおっさんたちが頬を赤らめて興奮している。

 彼らの視線の先には、私が袋から出した蛇の魔物が二体。

 はっきりいって、魔物よりおっさんたちの方がキモイんですけど……。


「おい、これは……」

「間違いねぇ。コッブラーデだ」


 突っ込んだら負けな名前だと思ったが、うん、これを見た地球人なら「これはコブラで」と言いそうなくらいにコブラに似た巨大な蛇だった。


「すげぇな、ねぇちゃん」

「いいえ、倒したのは……」


 ちらっと視線をナーガに向ける。

 それだけで彼らは勝手に勘違いしてくれた。

 もちろん倒したのは私だけど、目立ちたくなので秘密にしておこう。

 戦闘能力が異常な執事がいるって、こういう時には便利かも。


 本当に、こいつらを倒すのは大変だったなぁ……。

 水魔法で攻撃したら、表面をつるって滑って魔法がきかなかったもんだから、闇魔法で眠らせてから水で顔を覆って……そうしたら魔物も苦しいんだね。

 どったんばったん暴れまくって、尻尾?が当たって吹っ飛んじゃったよ。

 流星になったよ、私。

 アハハハハハ、全身打撲で死ぬかと思ったよ……本当に……お花畑が見えそうだったよ……。

 心の汗をぬぐい、ワクワク顔のおっさんたちを見るがなんの感慨もわかなかった。


「それではお嬢様、宿を決めに行きましょう。お金は明日、とりにくればいいです」


 カーリーの言葉に受付嬢がこくりと頷くのが見えた。

 査定に時間がかかるのだろう。


「一般人の持ち込みだと買い叩かれてしまいますが、今回は私がいますから、冒険者価格でちょっと色をつけてもらえますんで、期待大ですよ~」


 自分の事のように嬉しそうにカーリーが言い、横でナーガがうむうむと頷いていた。

 値切るのに命を懸けているどこかのおばちゃんのようなカーリーだけど、元貴族令嬢……いや、実家と縁を切ったと聞いていないから、まさか現役貴族令嬢……なのか?

 元気はつらつで値切る気満々のカーリーからそっと目をそらした。

 貴族の令嬢って……。


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