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 隠れ里から魔国までは一週間はかかると聞いたけれど。

 災害級の魔物も逃げ出す聖獣、一獲千金……じゃなくて一騎当千どころか万って単位の戦えちゃう執事、元暗殺者の冒険者でメイドがいるおかげで道中、平和です。


「魔の森は国も亡ぼす魔物が出るって聞いていたんだけど……」


 ジーク少年の疑問ももっともです。

 ウルバルとカーリーが人外生物をちらっと見るとすぐに視線を外すのが見えた。

 ナギとナーガに恐れをなして勘のいい魔物は近づきません。

 故に、魔物除けのお香やお守りは必要ナシ!


「彼らのアジトに連れてこられた時はどうだったんだ?」

「魔物除けの魔法を使ったと聞いたけど」


 ウルバルの質問にジークが答えた。


「多分、魔物除けの香と併用して隠ぺい系の魔法を使っていたんじゃないですかね。冒険ならよくやる手ですけど」


 カーリーが補足する。


「隠ぺい系って、どんなの?」

「お嬢様もできますよね。気配を薄めて消すやつです。それだけだと匂いでバレちゃうんで、魔物が嫌うお香でごまかすやり方です」

「そうなんだ……匂いか……」


 日本の優秀な消臭剤でもダメかな?

 そういえば、世界一臭い缶詰の脱臭方法とか聞いたような覚えがあるけど……覚えていないや。

 スマホかパソコンがあって使えたら、私、時代の長寿?長者?違う、寵児!になってもてはやされたかも!

 そして連鎖的に妄想スチルが思い浮かんだが……貧乏人が着るナーガお手製のワンピースを着た私が舞台の上であたふたしているシーンだった。

 想像力のなさにがっかりした。


「隠ぺいは極めれば匂いも消せるのですよ」

「マジか……カーリーはできるの?」

「私は無理なので、そこは遮断系の魔法を使います」

「遮断系?」

「秘密のお話をするときとか便利ですよ」


 ナーガから教わった魔法の中には、自分の周りの空間を遮断するというものもあった。

 イメージはバリアとか結界なんだけど、あれは匂いを遮断するためだったんだ……。

 まだまだ魔法に関しては勉強しないと。

 何ができて何ができないのか。

 そして一番肝に銘じておかなければいけないのは、私は所詮、日本育ちの事なかれ主義だってこと。

 魔法を使ってヒャッハーなんて無理だし、ナギたちの力を自分の力だと思ったらだめ。

 万能感で勘違いは中学二年生の時だけで十分!

 いい大人は黒歴史を今更作ったりしないのだ。






 私の前にはカーリーが道案内だと言って歩いている。

 その後ろに私とジーク、最後はウルバルとナーガが無言で歩いている。

 ナギは私の横にいたかと思えばあっちにこっちに落ち着きなく動き回っている。


「ウルトロンって大きな国なんでしょ。ジークはどの辺に住んでいたの?」

「王都だよ」

「そっか。……王都に行けば、そこから一人で帰れる?」


 王都の広さがどんなものだか知らないけれど、やはり小学一年生くらいの男の子には無茶ぶりだったらしい。

 捨てられた子犬のような目をこちらに向けてきた。

 罪悪感が半端ないんでいたいけな眼差しでこちらを見るのはやめて欲しい。


「無理……」

「だよね~。お父さんの名前、言える?」

「……グノー」


 しぶしぶといった感じでジークが答えたら、前と後ろで息をのむ音が聞こえた。

 前を歩いていたカーリーが立ち止まり、こちらを振り返った。

 ウルバルも目を丸くさせてジークを見ている。

 ナーガはすました顔をしているが、これは絶対に私と同じでわかっていないな。


「まさかとは思うけど、ハニエル・グノー?」


 カーリーの声が微かに震え、信じられないと言わんばかりにジークを見ている。


「知っているの?」

「名前だけは。ウルトロン一の剣士で、将軍です」


 なんかもうその肩書だけでおなかいっぱいなんだけど。

 将軍って軍の最高責任者でしょ。

 剣より本って感じのジークだからエリート文官の息子だと思ったんだけどなぁ。


「……息子を誘拐したなって剣を振り回して追いかけてきたりしない?いや、役職を考えたら一個中隊に取り囲まれたりして……」


 ウルバルの話を思い出し、おそるおそる聞いてみた私は悪くない。

 ジークに呆れた眼差しで見られたけれど、解せぬ。



「僕を助けてくれた恩人にそんなことはしないよ」


 思わずウルバルの方を見てしまう。


「グノー将軍は悪いうわさは聞かないな」


 はあっ?なによ、その()っ、て。

 それ以外の将軍は悪いうわさを聞いちゃうって事?

 悪いうわさは聞かないけど悪い事はしちゃっているのは周知の事実だって事?


 ウルバルの口角が微かに上がるのを見て私は彼の策略にはまったことを知った。

 どうも彼は偽悪的というか、作為的というか、話し方が素直ではないのだ。

 彼の言葉を聞いてあれこれ悩む私を見て喜んでいるような気がする。

 美形だからって何をしても許されると思うなよ!

 と心の中で強く言うだけの小心者の私。


「グノー将軍の屋敷ならなんとかなりそうね。近くまで行ったら一人で帰れるね!」

「お兄……お姉ちゃん、そんなに僕の家に行くの、嫌なの?」


 律儀に言いなおしたよ。

 私が女だって本当に気が付いていないのかな……。

 というより、普通に少年の恰好をした方がいいよね。

 ああ、でも頭のいいジークの事だから、何か事情があって女装していると思っていそうだ。


「ご、ごめんね。あんまり人に関わりたくないから、柱の影から君が家族と対面するのを見守っているよ」


 ナーガとカーリーの呆れた眼差しが突き刺さるがスルーだ。

 人と関わるって事は、誰かの口にのぼるって事で、七人介せば会いたい人に会えるって言うし、平均七人ってどっかの学者も検証していたし、有名な将軍だったらノクトン国の第二王子とも何らかの形でつながっているだろうし……。


 うん、身の安全を完璧にするならやっぱり関わらないほうがいい。

 ジークには悪いけれど、将軍の家の近くでバックレよう。

 というわけで、必殺話題のすり替え。


「それはともかく、まずは無事に王都へ行かないとね!カーリー、森を抜けるのはあとどれくらいなの?」

「ええっと、明後日には道にでられるかと思います」

「さすが冒険者!なんでわかるの?」

「星の見え方や魔素の感じですかね」


 魔素の感じって何?


「魔の森というのは魔素の濃い場所なのです。外に向かって薄くなるので、薄い方へ行けばそのうちどこかへ通じる道へ出られるはずです」


 説明を求めるようにナーガを見ると、したり顔で答えてくれた。

 めっちゃ魔素が濃い場所ならわかるけど、多少の差異だとわからない私はきっと魔素に対しては鈍感なのだろう。

 都会の濁った空気から田舎の澄み渡る空気の変化みたいな?

 野生のカンがダメなら科学的なナニカでっていっても、魔法と化学を一緒にしたらダメだよね。

 あれ、でも深夜のアニメで現代に魔法使う人たちが出てたっけ。

 日本なら陰陽師で欧州だと魔女とか魔法使いで、中国だとキョンシーを操る霊媒師みたいな……ネクロマンサーの操る死体とキョンシーは違うのかしら。


 教えて、グーグルといいたいところだけどパソコンなんて科学文明の権化はこの世界にはない。

 通信手段とかどうなってんのかしら。

 魔法を使ったあれこれなのかなぁ。

 この世界にも科学者とかいるのかな。

 魔法の研究者じゃなくて、科学者ね。

 ……錬金術師になるのかしら。

 黄金を錬金して見せますてきな……いかん、どう考えても詐欺師だ。

 錬金術師じゃない科学者がいたら会ってみたいけど、まぁこの世界にはいないだろうな。




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― 新着の感想 ―
[一言] その科学者の前身は、錬金術師なんやで……。
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