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お先真っ暗


「本物の聖女はこちらに決まっている」


 ザ・王子様がつかつかとこちらへ歩いてきたと思ったら、つないでいる私の手の甲を容赦なく叩いた。


「つっ!」


 優しそうな顔して容赦ないない、こいつ。

 ジンジンと痛む手を引っ込めた私などには目もくれず、キラキラした男は千葉さんの手を取った。


「聖女様……」

「あらぁ……」


 うっとりと見つめる男の眼差しに、ちょっと嬉しそうな千葉さん。

 それをアリーナ席で見守る私。

 はい、完全なお邪魔虫です。

 キラキラした男は千葉さんをエスコートしてさっさと行ってしまった。


「おーい、千葉さんや。ちょっと薄情なんでないか?」


 私のつぶやきなど誰も気にも留めずに撤収を始めるその他大勢。


「えっ、まさかの放置?マジで?嘘でしょう?」


 あっけにとられてその場に突っ立っていると、慌てふためいた男がこちらへ走ってくるのが見えた。


「その衣装、あなたは聖女様と一緒にいた方ですね?」

「はい、そうです」

「聖女様からあなたを連れてくるように頼まれた者です。第二王子つきの秘書、グランと申します」


 おお、聖女様は我を見捨てなかったっ!

 悪口を言う前でよかったよ、千葉さん。

 あなたこそ真の聖女様だ。

 ていうか聖女って何だよ、あからさまに面倒くさそうな肩書だな。

 無理やり戦争に連れていかれるか、広告塔にされるか、どちらにしろ柵がこれでもかと絡みついてきそうな肩書だ。


「そのう、王子がすみませんでした」


 腰が低いね、グランさん。

 ああ、なんか君から下っ端の苦労属性の気配がするよ。


「あなたもこちらへどうぞ。司祭様からご説明があります」


 そして私はグランさんの後について、この世界でのはじめの一歩を踏み出したのだ。







 私の目の前には下っ端役人と下っ端教会関係者がいる。

 なぜわかるのかといえば、昔の公務員がよく腕につけている黒いやつをつけていたから。

 教会関係者の方はテレビで見る神父っぽい恰好だからだ。


 偉い人が来て、偉そうに上から目線でものを言われるよりはまぁいいだろう。

 VIP待遇じゃなかったからって僻んでいるわけじゃないんだからねっ!


「つまり、私は聖女の召喚に巻き込まれた一般人という認識でいいんですね?」


 話をまとめて聞き返すと、役人の方はハンカチで汗をぬぐいながら頷いた。

 漫画とかじゃよく見る仕草だけど、目の当たりにしたのは初めてだ。

 脱水症状で倒れるんじゃないかと心配になってしまう。


「その通りです」


 私は教会関係者の方を見た。


「私が聖女様って事は?」


 別に聖女になりたいわけじゃないが念のため。

 ただちょっと、王子の態度があからさまですっきりしないからだ。

 顔面偏差値でと言われれば納得するよ。

 女の私から見ても、千葉さんの美貌はミスなんちゃらだといわれても納得だからね。


「可能性はありますので、聖女かどうかわかるまでお二人には城に滞在していただきます」


 ハハハ、顔の造作は関係ないらしい。

 あの王子様が女好きなだけか。


「可能性の一つとして、二人とも聖女じゃなかったら?」


 最悪の可能性に二人とも顔をしかめた。

 考えたくもないという顔だが、どこかウンザリした気配を感じる。

 これは……上司に無茶ぶりされて失敗したけど再トライを要求された時の営業部の先輩と同じ雰囲気だ。


「ああ、まず最初に聞くべきことを聞くのを忘れていました」


 気まずい雰囲気を壊すべく、話を変えた。

 あからさまにほっとすんなよ。


「聖女じゃなかった場合、すぐに元の世界に帰れますか?」


 ほっとした顔のまま固まった。

 なんかもう、その態度で丸わかりだ。

 テンプレ通りに帰れないわけか。


「なるほど。王族による異世界人の誘拐、拉致監禁計画にあなたがたは加担したというわけですね?」


 デキる裁判官風に言ってみたけれど、真っ青を通り越して蝋人形みたいに生気が消えていく二人を見て素直にゴメンと言いたくなった。


「下っ端だもんね、上の人に逆らえないよね、あなた方に言ってもどうしようもないことだし、逆らったらまずいことになるもの、わかるよ……」

「「ほんとーに申し訳ありませんでしたっ!」」


 二人の声が綺麗に重なり、後頭部が見えた。

 片方は白髪が、片方は十円禿が見え、苦労しているんだなぁとしみじみしてしまった。

 とりあえず常識的な思考の持ち主がいることに少なからずほっとした。

 私はできるだけ慈悲深い微笑みを心掛け、気分だけはカウンセラーになったつもりで詳しい事情を尋ねた。






 結果、国ぐるみの犯罪ではなくあの王子のきわめて個人的な理由での召喚だったことがわかった。




 ここは大陸で2番目に大きな国、ノクトン国。

 血も涙もないと言われる(本当に下っ端役人が言った)カシエル王には第二王妃の産んだ第一王子と第一王妃の産んだ第二王子と第二王妃の産んだ第三王子がいる。

 ややこしいな……。

 しかも第一王子23歳と第二王子22歳は絶賛後継争い中。



 第一王子が王を暗殺しちゃえば法律にのっとって第一王子が次の王様。

 同じように第二王子が目立った功績を上げられなければやはり第一王子が次の王様。

 現時点で取り立てて目立つ功績はないものの、第一王子の評判は悪くない。

 第三王子はまだ小さいから論外。

 王様の気分次第でいつ王太子に指名されてもおかしくない状態をキープ中。 



 もうね、それだけ聞いたら嫌でもわかる。

 功績を焦った第二王子が独断で聖女を召喚したというわけか。

 聖女が手元にいれば教会が後ろ盾につくし、聖女人気にあやかって民衆の人気も上がるし、結婚しちゃえばおとぎ話が現実にと国中が盛り上がるし他国から一目置かれること間違いなし。

 見事なまでに他力本願、底が浅いぞ、第二王子。


 そして君たちの態度に納得したよ。

 同情というか、憐れみというか、やめて欲しいけど敵意よりはいいので我慢しよう。

 追い出されるときに金品に色を付けてくれればいいから。

 や、まだ追い出されると確定したわけじゃないけど。


 計算高くて冷酷な王様と性格が瓜二つのアザゼル第一王子。

 野心家で傲慢な第二王子。

 幼く存在感のないペット的立場の第三王子。

 よくある話だけれどさ、下々の者を巻き込むなっての。


 異世界につきものの亜種族もいる。

 ドワーフ、エルフ、獣人、悪魔族。

 そしてこの国は絶対人間主義で亜人種は神が与えたもう下僕だそうだ。

 テンプレを詰め込んだわかりやすい悪党の国に召喚されたとなればもう、先は見えている。

 聖女じゃない私はお先真っ暗だよ……。



不定期連載ですが、見つけたら読んでやってね。

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