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最古・サイコ・サイコウな執事

「ナギ、なんとか排除できないかな」


 おおっといかん、本人を目の前に本音が。


『無理だな。この魔族の一族は誰かに仕えるのがもともと好きなのだ』


 羊だけに執事?


『しかも気に入られたとなれば、断れまい。執着心も高いのだ』

「え、なにそれ、怖いんですけど」


 ここで断るとストーカーに変貌するという事か?

 それってもう目をつけられた時点で諦めろって事?


『味方になれば心強い種族だ。お前に仇なすようなまねはしないから大丈夫』

「むしろそむいてくれた方が一刀両断にできていいと思うの」


 バカ息子の話を聞く限り、それは無理なんだろうなぁ。

 辞めてもくれない、裏切ってもくれない、ただひたすら慇懃無礼に苦言を口にするって……ストレスが溜まって凶行に及んだ気持ちがちょっとだけわかるよ。

 私の方が心が折れそうだ。


「なかなか手ごわいですね」


 そう呟きながらにやにやと嬉しそうにしているナーガラージャを目の端にとらえながら、なんだかとってもブルーな気持ちになっていた。


「ところでご主人様はこの森で何を?」

「何って……生きるためにがんばっているところだけど」


 思わず答えてしまってから、私は自分の失敗を悟った。

 ナーガラージャは好奇心いっぱいの眼差しで私を見ている。

 むしろガン見している。


「なるほど。森をさまよいつつ狩りをしながらその日暮らしを満喫しているのでございますね」


 物は言いようだ。

 その言い方だとっても素敵なスローライフに聞こえるけど、現実はただの浮浪者だ。

 その日暮らしのただのホームレスだ。

 移動民族は持ち運びの家を持っているけど、私の布団はナギの尻尾で家はない。

 掘立小屋を建てる必要性が今のところないせいもある。

 尻尾のお布団が最高なせいだ。


「私は私の好きなようにさせていただきますので、ご主人様はいつものようにお過ごしください」


 隠すようなことはまぁそれなりにあるけれど、どうしたらいいのかわからなくてナギに視線を向けた。


『放っておけ』

「でも……」

『お前はコイツに気に入られた。それは覆しようがない』

「どういう意味?」

『昔から優秀で引く手あまたな一族だが、主は自分で決める。その基準は個々によるが、おそらくこの者は主の命が尽きるまで楽しめそうか否かで決めているのだろう』


 なんか泣きたくなってきた。

 主は娯楽提供係で、その対価に執事として働くという、私には理解できない趣味と実益をかねた生き方だ。

 私は普通のOLよっ、と言っていた頃が懐かしいよ。


「……一つ聞いてもいいですか?」

「なんなりと」

「自力であの袋から抜け出せていたら、その後はどうしていましたか?」


 ナーガラージャはにっこりととても素晴らしい笑みを浮かべた。


「もちろん、前の主の元へ戻っていましたよ」


 背筋が凍るとはこのことか。


「まさかとは思いますけど、これが初めてじゃ……」

「通算、63回目になりますね」


 前の主、バカ息子に大いに同情する気になった。

 罵詈雑言、冷たい態度、陰湿ないじめと暴力、そしてどこかへ捨て置く。

 そこまでやっているのに舞い戻っては笑顔でまた自分に仕える。

 何度も何度も何度も……。

 恐怖でしかないよホラー映画かってくらい怖いよ。


 すごいよバカ息子、いや、ちょっと尊敬するよ。

 63回もしょうこりもなく続けて、よく心が折れなかったな……。

 だからこそナーガラージャに気に入られていたのか?

 というかこの魔族もおかしいよね?

 長く生きていると色々とこじらせちゃうのはまぁ理解できなくもないけれど、こじらせすぎだろうと思う。

 どんな状況でも絶対に生き延びるという確固たる自信があるのだろうか。


 ……いや、違う。

 きっとそのどんな状況とやらが楽しいのだろう。

 とんだど変態だ。

 そしてソレに気に入られてしまった私って……。


『あきらめろ』


 ナギの慰めるような優しい声に、私はがっくりと肩を落とすのだった。






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