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狩人になろう


 とんでもないスピードで野山をかけていった、という事しかわからなかった。

 ただ乗っていただけというのに、ナギから降りた私の足は生まれたての小鹿のようにプルプルと震えていた。


「ここが魔の森かぁ。なんか、空気が……微妙」


 爽やかな、とか清々しいというわけではないが、いわゆる光化学スモッグてきな感じでもない。


『苦しくはないか?』

「平気だけど?」

『なるほど。異世界人は魔素に耐性があるのだな』

「まそにたいせい?」

『魔素。魔法の元になるモノだ。魔力の弱い人間だと、魔力酔いという現象を起こす』


 容量オーバーに魔素を摂取して酔っ払ったような状態になるらしい。

 魔力過多の状態が続くと、運が悪ければ人から魔物に変化するらしい。

 それを防ぐためには定期的に魔力を使うのがいいらしい。

 って、全部らしいが最後につくのはどうかと思うけれど。

 話を聞いて思ったのが、魔物に変化ってところ。


「人が魔物に変化するって……まさかそれが魔族?」

『魔族とは魔力が多い一族の略称だが?』


 なんじゃそりゃ、と突っ込んでもいいよね?


「それだと異世界から来た私も魔力が多いから、魔族?」

『そう思われても仕方ないな』

「人族なのに?」

『魔力量で言えば、人族が一番少ないが、総じてずる賢いのは人族だな』


 うん、そこから先は聞かなくてもわかるよ。

 人間って自分の欲望に忠実だからね。

 家族や仲間、友達、いろんな絆があるけれど、それより我欲を優先させちゃうのが人間なんだよね。

 もちろん、全部が全部ってわけじゃないけど、そういった人間が多いのは間違いない。


 かくいう私もそっち側だし。

 こっちでできた友達を殺せば地球に帰れるってなったら、悩んだ末に殺してしまうかもしれない。

 殺さないで諦めるっていう選択もあるけれど、悩まずに諦めるほど気高くできていないし。

 悩んだ末にどうするかは、その時になってみないとわからないのが現状だ。


「食べ物は、どうしたらいいの?」


 ここにはヒカリゴケがない。

 いや、別に好んで食べたいわけじゃないよ。


『大丈夫。俺が狩りのやり方を教えてやる』


 なぜドヤ顔。

 ナギは人にものを教えるという事がとても好きだ。

 どうやら彼の眠っていた世話焼きの素質を開花させてしまったらしい。

 至れり尽くせり、とまではいかないけれど、学校の先生程度には面倒見がいい。

 完全に私は生徒ポジションだ。

 出木杉君くらい優秀だといいのだけれど、どちらかといえば……。


 それはさておき、狩りのやり方ってどの種族のやり方なのかが気になるところだ。

 人型の狩りのやり方だよね?

 四足歩行の獣式狩りのやり方じゃないよね?

 さすがに喉元に食いつけとか、無理だから。

 野性のエルザかよ。


『まずは魔法の特訓だ』


 拍子抜けした。


「特訓?」

『闇、時空、水があれば狩りはできる』


 なんと、魔法を使って狩りをするのか。

 まぁ、普通に考えればそうだよね。

 うん、馬鹿な想像をしちゃったよ、ハハ。

 進化どころか退化しちゃったよ、私の脳みそ。


「闇と時空のイメージが全然ないんだけど」

『闇は精神に作用する。光が活性化を促すのとは逆に闇は沈静化を促す』

「沈静化ねぇ。イメージ的には麻酔とかだけど」


 よく暴れている人にお医者さんがブスっと刺すイメージだけど。


『人が考えるイメージだと睡眠誘導、冷静さ、思考停止』


 思考停止は混乱を引き起こすから、知能の高い相手なら有効かもしれない。

 ミジンコに思考停止をかけたらどうなるのかな……じゃなくて、話に集中!


「毒とか、重力操作は?」


 確か、RPGの黒魔導士はそんな魔法を使っていたきがする。


『毒は錬金魔法だな。重力は時空魔法に含まれる』

「じゃあ相手の何かを吸い取って自分のものにしちゃう魔法は?」

『何かってなんだ?』

「魔力とか体力とか?スキルとか」

『人のスキルを奪うスキルならば存在するが、使用できたものはおらぬな』


 強奪系のスキルは誰かの才能に嫉妬した時点で顕現しやすそうだ。

 私だったら確実にそのスキル、顕現しているね!


「なんで?」

『相手のスキルがわからねば奪っても使えんだろう』

「ごもっとも」


 そもそもこの世界の人間はスキルを発現させている人間の方が珍しいのだ。

 スキルなのか単に特技なのかがまずわからない。

 発現していないスキルを奪っても、それが何かわからなければ使いどころもわからないだろう。

 鑑定って侮れないスキルだったんだなぁとしみじみ思ったよ。


『疲れを癒すことは魔法でできるし奪う事もできるが、それを自分のモノにするというのは不可能だ』

「魔力は?」

『分け与えることができるという事は、奪う事も可能だ。しかしそれは呪文によってなされることはない』

「呪文じゃない?」

『物理的な接触が必要だ』

「ん、そういえばシスターがそんなことを言っていたような……」


 シスターが魔力というものがどういう物か教えてくれた時の事を思い出した。

 私に親切に、はしてくれなくても役目として冷静にただの生徒として扱ってくれた人だ。

 敵意も懇意もなく、本当に家庭教師として教えているだけだというある意味、プロフェッショナルな人だったなぁ。


「相性によってはおかしくなるって」

『それがわかっていれば俺から言う事は何もない』

「ナギとの相性はどうなんだろう」

『契約を結びたくなる程度にはよい』


 ツンデレ発見。


『しかし非常時以外でそれを試す気にはなれん』


 相性がいいという事は、気持ちいいということか。

 ああ……うん、ちょっと怖いかも。

 気持ちいい、だけで終わればいいけどそれ以上になると……ナギに依存しまくって使い物にならなくなりそうだ。


 その逆になっても嫌だな……。

 欲望丸出しで相手の言う事を何でも聞くようになっちゃう下僕にだけはなりたくない。

 少なくとも私はナギを先生でもあり友人でもあると思っているし、それ以外の関係にはなりたくない。


『闇魔法は光魔法と違って癒すというよりは修復するという表現の方がいいかもしれん』

「どういう事?同じじゃないの?」

『光魔法のヒールは細胞を活性化させることによって治癒の効果を高める。水魔法は補うことによって治癒の効果を高める。闇魔法は状態をとどめ置いている間に治す』

「それだけ聞くと、時間の停止という意味に聞こえるけど」

『限りなく停止に近づけることはできるが、完全に止めることはできない。それができるのは時空魔法だけだ』

「沈静化と同じような効果って事?」

『そうだ。同じ身体強化の魔法でも光と闇では意味が違う。光は活動的になるが、その分、ケガをした場合の出血量が増えたりする。闇は停滞的なので切られてもうっすら血がにじむ程度ですむ』

「なんだか血圧の話みたい……」


 高血圧の人の方が手術に耐えやすいらしいけど出血量が増えるから輸血分だけ手術費用が高くなるらしい。

 逆に低血圧の人は出血量が少なめなので輸血分だけ手術費用が安くなるけど昇圧材をたくさん使うから結局高くつくらしいとか。

 本当かウソかは知らないけれど、そんな話を聞いたことがある。

 ググって調べたことないから都市伝説かもしれないけど。

 専門書以外で得た知識なんて信用しちゃいけないのだ。


「ん?光魔法で活性化って、それを強化したら……強制的に老化を促して殺せちゃう?」

『聞いたことはないが、使い方としてはありだな。問題は老化させるまでの活性化に使う魔力量だが……さすがは異界人。恐ろしい想像力だ』


 あまり嬉しくない評価をもらってしまった。

 しかも光魔法って私は使えないし、使えたとしても素質がないから初級魔法をチョロっと程度だから今の発想を実行なんてまず無理だ。


『その調子で魔法の有効活用法を考えるのだ』

「あれ?狩りの話をしていたんだよね?」

『攻撃魔法で狩りをする話だ』


 そうでした。

 私が横道にそらしたんだっけ。


「水魔法だと……高圧洗浄……じゃなくて、刃か。水の力で何でも真っ二つにする機械があったよね……」


 確か超が付く高い圧力だっけ?

 ウォーターカッター。

 うん、これなら想像しやすいぞ。

 あとはRPGとかでよく見る斬撃で飛ばすとか。

 温度を操作すれば熱湯から氷まで作れるよね。

 ああ、あとはちょっと卑怯だけれど、呼吸しているのなら口と鼻を水でふさげばいい。


「うん、なんか形になってきた。この世界で使っている魔法をいくつか見せてもらえるんでしょう?」

『もちろんだ。俺がお手本を見せるから、同じように使って狩りができるようになればいい』

「がんばるね」


 この世界で生き抜くためにも。

 ナギの教え方は私にあっているらしく、私は魔法という存在に違和感を覚えなくなった。

 私は頭が固いのかもしれない。

 ラノベの主人公はすぐに魔法を使ってチートな生き方をしているというのに、私ときたら……。

 生きるために、狩人になる!



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