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どんぶらこっこ

 筋肉痛も消えたし、感覚的にはあれから一週間というところか。

 それとももっと時間がたっているかもしれない。

 そろそろ外に出るために、洞窟探検隊を結成する時が来たのかもしれない。


 隊長、私。

 隊員1、私。

 隊員2、私。

 うっかりやさんの隊員3、私。

 こんなこともあろうかと隊員4、私。

 ビビりな隊員5、私。


 以上、総勢一名で探検に出かけたいと思います。


「ふふふ……」


 むなしさに涙が出ちゃう、だって女の子だもん!

 間違えた、永遠の22歳、か弱い女性だもん!

 女の子だと言っちゃうほど子供じゃないんで。


 なんて脳内漫才を一人で繰り広げていると、聞きなれない雑音が微かに聞こえた。

 私の立てる音と水の音以外で初めて聞こえた雑音。

 耳を澄まし、音に集中する。

 音は徐々に近づいてくる。

 水をバシャバシャとさせる音にノイズのような音が時折紛れ込む。


「なにかが、流されてくる?」


 愕然とした。


「フラグ回収にしては早すぎでしょ」


 そりゃ確かに、魔法を教えてくれる人が流されてきたらいいなとは思ったし口にしたけれど、だからといって本気でそれを思っていたわけじゃない。

 けれど有り得ないであろう奇跡が近づいてくる。


 溺れている人がいる……かもしれない。

 巨大な魚かもしれない。


 だってこの世界には魔獣がいるんだし、魔物の魚がいてもおかしくない。

 魔物の獣が魔獣なら、魔物の魚は魔魚か?

 まぎょが溺れているなんてまさかな。


 ………………ハイ、冷静になりましたっ!


「魔魚なら攻撃してみよう。人なら、助ける」


 相手が何であれ、もう一人は嫌だ。

 助けてあげて、ありがとうなんて言われたら泣く自信があるくらい、私は人との会話に飢えている。

 ボッチでも平気だけれど、普通に生きていれば店員やら勧誘の電話やらと他人と話す機会はあるのだ。

 一日誰とも話さない日もあったけれど、会社員なんだから会社に行けば最低でも挨拶ぐらいは交わす。

 こんなに何日も、本当に孤独になったことなどなかったから。


 期待と不安が交互に押し寄せてくるなか、私は睨みつけるように上流に目を凝らした。

 何やら白っぽいモノが流されてくる。

 日本昔話のどんぶらこっこって、けっこうのんきな雰囲気を醸し出しているんだなと場違いな事を思った。


 緩やかな流れとはいえ、水って見た目より流れは速いんだね。

 魔法があってよかった、とそう思えた。

 自力でつかみ取れと言われたら、絶対に失敗して下流へ流れていくのを見送る羽目になっただろう


「よし、ボールを切り取る要領で、流れてきたものごと水を移動させてみれば大丈夫、なはずっ」


 通り過ぎるタイミングで魔法を発動させた。

 ん?思ったより小さい。

 バランスボールの一番小さいサイズくらいの大きさだ。


「人じゃなかったかぁ……。せめて食べ物が入っているといいなぁ」


 ちょっといびつな丸いソレは袋に見えたので、まっさきに食べ物!と思った私は悪くない。

 水球を足元におろし、魔法を解く。

 バシャンと水が地面に広がっていくなか、私は傍らに膝をついてそれに触れた。


「あれ?」


 びっしょりと濡れたそれは袋ではなかった。


「犬だ」


 気を失っているのか、ぐったりとしている。

 あいにくと医者じゃないので何もできない。


「そうだ、ヒールを試してみよう!」


 医療関係者が聞いたら激怒しそうな無謀な挑戦。

 失敗しても変わらないだけだし、大丈夫、大丈夫。

 たぶん、きっと、おそらく、なんて言葉がよぎったがスルーだ。


 魔法はイメージと想像。

 まずは水分が空気に溶けていく、次に元気になる。

 よし、このイメージで。


 元気になるなんて適当なイメージだけど、医療関係者じゃないしどこが悪いかなんてわからない以上、ただ生前に元気だったイメージを想像して魔法をかけるしかない。

 あ、まだ生きているから生前じゃなかった。


 ドライヤーをかけたように毛並みがふんわりとしていく。

 代わりに私の中の魔力がどんどんしぼんでいく。

 なくなる前にヒールをかけなくちゃ。


「ヒール!」


 詠唱するとイメージがはっきりして魔法に影響するらしい。

 無詠唱でもできるけど、なんかしっくりこないんだよね。

 指を鳴らしたり手を打ったり詠唱したり、アクションを取り入れたほうがスムーズに魔法が発動する気がする。

 きっとその瞬間に集中できるからなんだと考察。

 暇だから色々と試してみたから、たぶん間違いない。

 決して厨二病の素養があったからだなんてことはない。


「よしっ、終了っと」


 犬に伸ばす手が震えるのがわかった。

 怖いとかじゃなくて、純粋に命あるモノに触れることに対してのためらいだ。

 本当にこれは現実なのだろうかという不安から震えるのだ。

 触れた瞬間、ああ幻覚だったなんて、そっちのほうが怖い。


 私はまだ正気だろうか。


 指先が柔らかな毛並みに触れた瞬間、涙がぶわりとあふれてきた。


「生きてる……」


 微かに上下する小さな体。

 無性に嬉しかった。

 一人じゃないんだ。

 生きているんだ。


「ふっ、うぅぅ……」


 犬をなでながら馬鹿みたいに泣いた。



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