糊を求めて
「お連れさんは見つかったかい?」
バケツいっぱいの黄緑色の粉をせっせと運ぶイオ婆ちゃんが、朝食を食べに降りてきたキース達の姿を見ていう。
「いえ。残念なことに、ご覧の通りです。」
キースは肩をすくめて見せた。
「イオ婆ちゃん、その粉一体何なんだ?」
すっかりここに馴染んだマリウスがきく。
「あぁ、この粉はね、塗料になるんだよ。そうだ、お前さん達、ちょっと頼まれてくれるかい?
この後ここに糊を入れて、ペイントした時にしっかり定着するように調整したいんだけど、その糊が重くてねぇ、、、。
しかも、このバケツ分だけじゃなくて、あと2、3個ほど同じものを作らにゃならんのさ。
あたしゃ年寄りだからね、もう一人で運ぶのがしんどくてねぇ、、、。」
イオ婆ちゃんは、自分の腰をトントンと叩いた。
それを見てキースは名乗りを上げた。
「それなら、場所さえ教えていただければ、私たちで行ってきますよ。」
ベンとマリウスもそれに賛同する。
「そうかい?すまないねぇ。」
「いえいえ、お世話になっているので、これぐらいは。」
イオ婆ちゃんはキース達に糊屋の地図を描いて、お金と共に渡した。
余ったら好きに使っておくれと言われて、マリウスが「ヤッホーィ!」と喜んだ。
「そうだ。お前さん達に1つ、注意しなきゃならんことがあってねぇ・・・」
そう言うと、イオ婆ちゃんは外を指差した。
それは昨日キース達が調査した城(仮)だった。
「むこう側の崖にある建物には、間違っても入っちゃいけないよ。絶対に、だ。」
念を押されたものの、身に覚えがあるキース達は、驚き、焦った。
何故、と理由を聞きたかったが、そうすると既に立ち入ってしまったことがバレてしまいそうで、3人とも
「あ、はい。」
と絞り出すので精一杯だった。
* * *
「やはり、この国には何かありますね。」
宿を出てからベンがおもむろに切り出した。
「あぁ。」
マリウスも低い声で頷く。
「キースと見た塔も、まだ何かよくわかんねぇしな。」
「塔?」
「ベン、君が一人で馬の世話をしに行ってくれた時に、僕とマリウスで町を歩いて見つけたんだ。このお使いのついでに君にも見せるよ。」
3人は渡された地図の場所から一番近くの塔に立ち寄った。
「井戸・・・、にしては高すぎますね。」
地上から突き出た円筒形の石垣をベンが見た。
「はは、僕と同じ感想だね。」
キースは塔の周りを回って、縄梯子がかかっているところに案内した。
この国の建物はどれも、やたらに高い石組みの上にある。あの城(仮)はおいといて。
高く造られた理由をベンは考えた。
(敵に攻められた時に、すぐに蹂躙されない為?だとしたら、この塔は物見櫓か何かか・・・、いや、それならば屋根くらい付けるべきだ。)
いずれにしろこの塔の上に何があるのか、確認しないことにはわからない。
そう考えたベンは、「登ってみましょうか。」と上を見上げた。
「ちょっと、そこどいてくれる?」
すると、塔の上から顔を出す人物がいた。
逆光でよく見えないが、赤茶色の髪を結った少女が慣れた様子で縄梯子を降りてくる。
「あんた達、旅の人?みない顔だね。」
泥まみれの手の少女は、リゲルと名乗った。
彼女が地上に降りたことを確認したベンが問う。
「失礼ですが、あなたは塔の上で何を?」
「塔?あぁ、これね、花壇なの。私の家は庭師をしているのよ」
今はお手入れをしていたの、と言って、彼女は腰に下げたポシェットを見せた。
そこには抜かれた雑草らしきものとハサミ、肥料のような物が入っていた。
「花壇、って・・・高すぎねぇか?これじゃぁ花、見えねぇじゃん。」
予想外すぎる答えに、マリウスが納得できないそぶりをする。
「ふふ。そうね。今はこうしてここを登らない限り無理ね。でも、もうすぐ見えるようになるわ。」
リゲルは、キース達の手に持っているものを見た。
「あら、あんた達、ちょうどその準備手伝ってるんじゃないの。」
彼女は、イオ婆ちゃんが「ここまで糊を入れてきておくれ」と、キース達に渡したバケツを指差す。
「え?どう言うこと?」
目に見えて疑問符の浮いたキース達3人の顔を見て、
「あら、教えてもらってないのね。いいわ、ちょうど私もこの後そこへ行く予定だったから。」
と、リゲルは道案内を買って出た。
荷物を置くために一度リゲルの家に立ち寄った3人は、その道すがら、行き交う人々が皆同じようにバケツを持って歩いているのを見た。
「何かイベントでもあるんですかねぇ?」
リゲルの後に続いて歩く途中、キースの横でマリウスがボソリと話しかける。
「お祭りでも、あるのでしょうか。」
ベンは持てる知識で憶測を立てる。
「はい、ついたわよ。」