捨てられた城
「星、見えないね。」
楽しみにしていた夜の空はあいにくの曇天だった。
今日こそは、と思っていたキースは宿泊している部屋の窓から残念そうに呟いた。
「しばらく雨だそうですよ。」
部屋の隅で本を読みながらベンが言う。
その本は今日探索した時に見つけたものだ。
合流した後、3人はお互いの歩いた場所の報告をしていた。
まずは、ベン。
彼は別れてから同じフロアを隈なく観察しながら、見つけた部屋に片っ端から入っていったそうだ。
どの部屋も廊下に比べてよっぽど手入れされていないのか、口に布を当てなければ埃がひどくせきが止まらなくなった。
ベンの見た部屋は客室だったのか、ベットと簡易的な書斎が備え付けられていた。
傍らには燭台があり、夜でも灯りがとれるようになっていた。
本は、その中の一室に置いてあったものだ。
長い年月を経たのか、表紙はボロボロで紙は黄変。
ところどころ虫食いがあった。
ベンは内容を読みたくてもどうやら知らない文字のようで、先ほどからずっと難しい顔で本とにらめっこをしている。
一方、
下のフロアに降りたマリウスは、
食堂のような大広間と、厨房らしき部屋、そして、浴槽のようなものを見つけたらしい。
錆びてはいたが、足元には包丁と銀製の食器も転がっていた。
どうせなら武器が見たかった、と、マリウスは言った。
こちらもベン同様に、
現在使われている形跡はなく、長年放置されたままのようだった。
最上階へ向かったキースもまた、それは同じだった。
ただ、彼は白装束の少女を追っていたため、部屋らしいところには入っていない。
見つけたものといえば、大きな水盤だった。
それは、廊下から続く途中に設けられた広いスペースにあったので、
外から雨が入り込んで水が溜まったままなのか、藻のようなものが繁殖していた。
調査から、3人は一つの結論に達していた。
それは、
『あの崖に作られているのは、かつての城だったのではないか』
というものだった。
その造りは、自分たちが暮らしていた王宮と非常に似たようなものだった。
どういう理由で今は使われていないのかは判らないが、
それは間違いなく断言できた。
ならば、あの少女は一体何のためにそこにいたのだろう?
かつて多くの人がいた頃とは変わってしまったであろう、城の姿。
誰もいないあの場所で、少女は何をしていたのだろうか?
その答えは、まだわからない。