少女との出逢い
足元を確認しながら、キースとベンは
マリウスの落ちた穴にロープを垂らして降りた。
「マリウス!!大丈夫か!?」
キースの叫び声が響く。
「マリウス、返事しろ!」
ベンも必死で辺りを探す。
「・・・っ、いってぇ・・・。」
マリウスが腰を押さえながら顔を出した。
「お前ら、バカか!俺の足元が崩れたってことは、その周りも危険だろーが。
簡単に降りてきたらダメだろ!」
キースとベンは、ハッとして上を見上げた。
「まぁ、見たところ大丈夫そうだけどな、、、。」
よっこいせ、と、マリウスは立ち上がった。
マリウスの無事を確認すると、キースは笑いだした。
その様子に、どこか頭でもぶつけたのかと二人は心配になった。
「違うんだ、ごめんよ、、、っ大丈夫だから。」
笑いがおさまってくると、キースは言った。
今まで王子としての自分の周りには多くの人がいて、
こんな風に戸惑うことなんてそうそう無かった。
騎士達とはぐれて最初は困ったけれど、今は全部を自分たちで判断できて、
自由になったみたいで、面白くなってしまった、と。
「・・・ふっ、確かに、今の俺らは自由だ!」
安心した二人も、キースにつられて笑った。
落ち着いた3人は辺りを見回した。
続く人為的な模様の入った大理石の床に、これまた模様の入った大理石の立派な柱。
どうやら、双眼鏡で見ていた場所に落ちたらしかった。
岸壁に食い込んでいる作りなので、半洞窟のようなこの場所はひんやりとしていた。
外から差し込む光だけで明かりを取っているので、少しばかり薄暗い。
3人は、廊下とおぼしきその道を進んでみることにした。
歩いても歩いても、人影が見当たらない。
陽が陰りはじめ、静まりかえった世界は薄気味悪く思えた。
あまり、使われていないのだろうか。ところどころ埃っぽい。
それなのに、いたるところに入ったこの模様はよく消えずに残っているものだと、キースは思った。
同様のことを考えていたらしいマリウスが、
「古くさいのに、よくこの模様消えませんねぇ。」
といって、指でゴシゴシとそれをぬぐいはじめた。
「こら、マリウス!やめんか貴様!迂闊に触るな!!」
ベンが慌ててそれを制止しようとする。
「うぅ〜ん、確かに消えないねぇ。何で書いたんだろ。」
その隣でキースも同じことをしていた。
「キース様まで!!」
頭を抱えるベンにお構いなく、マリウスが続ける。
「彫った跡もありますねぇ。結構固そうな素材ですけど。どれ。」
そういうと、マリウスは腰の剣を床に突き立てた。
ギギィ
と音を立てて、うっすらと線が引かれた。
その瞬間、床が光ったように見えた。
「うをっ!?」
驚いたマリウスは立ち上がり、改めて自分が線をつけた場所を確認したが、
それ以降、特に何も起きなかった。
「マリウス!もう下手に動くな!」
慌てたベンが言った。
どこまで歩いても、特に目立った人影はなく、
3人は一旦別れてこの建物を調べることにした。
キースは見つけた階段を登り、最上階と思われるところにでた。
そこで、目の端にヒラリと、カーテンのように白い布が舞うのが見えた。
確認へ向かう。
しかし、そこには何も無かった。
(おかしいな、気のせいだったのかな・・・?)
そう思い帰ろうとすると、確かにまたヒラリと動く白いものが。
キースはそれを追いかけた。
ヒラリ。
追う、見失う。
ヒラリ。
追う、また見失う。
2、3回、それを繰り返し、息が切れはじめたころ。
長い回廊の窓辺に、白い服を着た少女を見つけた。
12、3歳だろうか。ふんわりとウェーブのかかった金色の髪が、風に揺れている。
覗く端正な顔に、エメラルドグリーンの瞳。
雲間から再び顔を出した太陽に照らされ、
その光景は、まるで美しい絵画のようだった。
キースは、ただただ、その様子を眺めていた。
やがて、何かに気づいたのか、少女はこちらを見た。
普段、挨拶には慣れているはずなのに、キースはうまい言葉が出てこない。
彼はそんな自分に戸惑っていた。
その少女は本当に美しかった。
声をかけられないでいるキースを余所目に、
彼女はその場を立ち去って行った。
「あのっ・・・!」
ようやくそう言いかけたキースの言葉は虚しく宙に消えていった。