不思議な町並み
看板が現れてから、国の入口らしきところに着くのには少々時間を要した。
たどり着いた彼らの目に飛び込んできたのは、一風変わった町並みだった。
2、3メートルはあろうか。驚くほど高く積まれた石造りの土台の上に、三角の家屋が並ぶ。
ちょうど、キャンプで使うテントみたいな形だ。キースたちはそんな形の建物に今まで出会ったことがなかった。
博識のベンも、見たことがない、と呟く。
整然と区画整備されているが、そこは大国というよりも集落に近い印象を受けた。
「おや、旅の人かい?」
頭上から声をかけられた。
見れば、ひときわ大きい三角の家からシワシワの顔を出してこちらを確認している老婆がいた。
「はい」
そうキースが答えると、老婆は長い階段を降りてきた。
まぶたが垂れ下がって、目が開いているように見えないその顔を、ぐいっとキースに近づける。
その様子にとっさに剣を引き抜こうとしたマリウスを静かに制し、キースは自分を舐め回すように見る彼女が落ち着くのを待った。
「いいよ、うちに泊まんなさいな。」
彼女の審査に合格したのか、老婆はそう告げた。
そして、
代々うちは宿屋をやっているんだ、お前さんたちみたいな旅人に向けてね、
と付け加え、ニッと歯の抜けた笑顔を見せた。
ちょうどこれから宿を探そうと思っていたキース達は、その好意に甘えることにした。
「ありがとうございます。あの、実は、まだ連れが3人いるのですが、、、。先ほど森ではぐれてしまいまして。6人でも大丈夫ですか?」
キースがそうたずねると、「あっはっは」と老婆は笑い、
「ただでさえあの森は迷いやすいからねぇ。そりゃあ慣れてなけりゃはぐれるよ。今日なんか特に霧が濃かったしねぇ・・・。無事だといいけど。んま、いいよ。大丈夫だ。」
そういって老婆はキースたちを招き入れてくれた。
老婆は部屋を案内するとイオ・コルザードと名乗った。
ここらじゃイオ婆ちゃんで通っているらしい。
よろしくね、とイオ婆ちゃんはまたニカッと歯の抜けた笑顔を見せた。
宿屋に荷物を置いて、腹ごなしをした後、
馬と護衛兵の確認に行ったベンと別れて、キースとマリウスは町を散策することにした。
どこを歩いても、見当たる建物は皆高い石造りの土台の上に鎮座しており、毎日ここを上り下りするのは一苦労に思えた。
白い石畳の続く道は、所々何かのマークを表すように、小さな緑の石が埋められている。
「なんか、特殊な造りの家ばっかですねぇ。こりゃ、ご老人は毎日の行き来が大変そうだ。体力はつきそうですけど。」
マリウスは辺りを見回しながらそう言った。
しばらくして二人は、少しひらけた広場のようなところに出た。
どの真ん中に、高い石造りの塔が建っている。「ヒュウ!」とマリウスが口笛を吹いた。
「井戸・・・に、見えなくもないけど、高すぎるね。まるで煙突みたいだ。」
キースがそう言ってその周りを確認するようにぐるりと回ると、縄梯子が掛かっていた。
「こんなとこに何があるんですかねぇ?」
後からついてきたマリウスも不思議そうに首を傾げた。
その後歩いてわかったことだが、その塔のようなものは町のいたるところで見受けられた。
「ベンがいればな。あいつ物知りだもんなぁ。」
マリウスが呟く。
「マリウス、君は普段からもっとそうやって、ベンを褒めてやればいいのに。」
「やだよ!あんだけ今までちょっかい出しといて、なんか今更そういうこと言うの、恥ずかしいだろ。」
「ほんと素直じゃないよね。わたしはそんな君も好きだけれど。」
「っ!からかうの、やめてくださいよ!」
そんな話をしながら、そろそろベンが戻ってくる頃だと、二人は再び宿屋に戻った。
帰る頃には霧はすっかりなくなって、雲間から夕日が差し込んでいた。
その時、顔を上げたキースは、
自分たちが来た側と逆の崖に、窓のようなものがいくつも空いているのを見つけた。