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第四話 リアル脱出ゲームの攻略は、大胆なほうがテンション上がる。

文字数少なめでお送りします。

僕たち鬼役は木陰に集まり、「ペイアン京」からの脱出方法を考えていた。

雲一つない青空が、僕のやる気をそいでいく。ずっと夜の街で、生活していたからだろうか。普段は頭が回るほうだと自分では思っているが、今はあまりいい考えは浮かばない。完全夜型人間だ。

リンもしばらくほうきで飛ぼうと試みていたが、やがて諦めて僕の隣に座った。

「んー、この世界、空気に魔力がほとんど含まれてないから、魔法は使えないよ。ほうきで飛ぶことすらできなかったー。えーん、ショック~」

リンが残念そうに報告した。そもそも空気中に魔力なるものが存在していたことのほうがびっくりだった。それって、僕もがんばったら魔力を使えるということだろうか。どうやって? よくわからんな。僕は考えるのをやめて、後ろを振り返った。

「ううう、昼はだめだ・・・日傘さえあれば、活動できるんだが」

トマが木の幹に倒れ掛かって、虫の息になってしおれている。吸血鬼は夜行性だから仕方ないか。トマはしばらく機能しないと考えたほうがいいだろう。

「俺にもさっぱりわかんねーよ、どうやって脱出するかなんて」

カミ男に至っては、考える気すらなさそうだ。さっきから、木陰に座り込み、しっぽだけオオカミ化して毛並みを整えている。その器用さを、何か他の事に使ってほしい。改めて、味方の動向を確認したところで、僕は悟った。

僕が頑張るしかないのか・・・。

というものの何も思いつかない僕は、ヒントを求めて、ライバルたちの状況を確認した。幽霊3人組は、再び体中にWi-Fiを集めていた。この世界は、Wi-Fiから作られているから、魔力は存在しなくてもWi-Fiは有り余っているようで、幽霊たちの周りにはバンバンWi-Fiが集まっていく。あれでまた、何かよくわからないWi-Fiの使い方を開拓して、脱出する算段なのだろう。悔しいが、順調そうだ。それにしても、いいなあ。Wi-Fiをひきつける体質とか。僕もその体質ほしい。いつでもどこでも、ネットつなぎ放題じゃないか。

僕はカラフル5人組のほうに目を移した。5人は集まって、腕をぶんぶん回していた。怪しい振興宗教かなんかだろうか。それとも、早速の自暴自棄だろうか。

木陰でただ座って考えても何も解決できそうにないので、僕が新興宗教団体のほうに出向いて、何をしているのかききに行くと、5人の中のリーダーらしき赤色担当が教えてくれた。

「俺たちは、発電所の化身なのさ」

「なんですか、それ?」

「だから、俺が火力発電所、青髪が水力、オレンジが太陽光、緑が風力、紫が原子力の化身なんだよ。これからみんなで発電して、この世界にでっかい雷を落としてやんのさ」

「それで脱出できるんですか?」

「さあ・・・。でも何もしないよりマシだろ。それに、ファントムも言ってたじゃないか。この世界は即席で作ってるからもろいって。でかい衝撃が加わったら、それだけで崩れるんじゃないか?」

なるほどね・・・。確証がない方法であっても、やってみるしかないってわけか。ただ・・・赤、青、緑、紫は発電方法的に腕を回せば発電できそうだが、太陽光って・・・タービン式じゃないよな。腕回しても発電できないんじゃね?

僕はそこのところはツッコまず、ひとまず元の木陰に退散した。トマは、日傘探しをあきらめて完全にダウンしていた。木にもたれかかったままピクリともしない。カミ男とリンは、元気なくせに頭の性能がよろしくないからか、砂地に扉の絵をかいて、それを開こうと必死になっていた。いうまでもなく、開かない。あいつらも新興宗教か? いやもしかして、脱出扉を絵にかいてそこから出ようという算段か? ツッコんであげる気も失せる。脳内ミソスープ甚だしい。

気が散るので、僕はファントムたちにWi-Fiが集結していく、単純な映像を見ながら考えた。

そーいえば、この世界、魔力はなくてもWi-Fiは有り余ってるんだっけ。

それなら僕のパソコンで何かできないだろうか。

何かって何だろう。

僕はパソコンを起動した。さっき開いたスケボーのソースコードが表示された。

そうだ、プログラミングで何か作ろう。どうせなら現実世界で作ったら、絶対怒られるようなものを作ろう。この世界に、ペイアン京と現実世界をつなぐような、大きな穴を開けるのはどうだろう。穴というか、吸引口みたいなものを作って、鬼役を外の世界に吸い出してもらうか。

そうだ。大きなブラックホールを作ろう。

僕は、新規作成アイコンをクリックした。


幸いなことに、僕は昔からプログラミングが大得意だった。しかも今回は作るものは、緻密な設計、デザインを全く必要としない、ただの大きい風穴をペイアン京に呼び起せばいいだけだ。上着みたいに、ちまちましたもののプログラミングをするよりはよっぽど早く完成するはず。現実世界でこんな大きなブラックホールを作ろうものなら、Wi-Fiに速度制限がかかったりするのだが、ここにはそんな規制はなさそうだし、Wi-Fiも使い切れないほど飛んでいる。

僕は、たまにリン&カミ男コンビのほうをチラ見しては、ブラックホールのデータを打ち込み続けた。彼らはようやく、地面に描いた扉を開くのは不可能だと気付いたようで、既に開いた状態の扉を書き直していた。おまえら・・・楽しそうだけど何の解決にもなっていないぞ。頼むから、己の知能の低さに自力で気づいてくれ。


僕が4分の3ぐらい打ち終わったところで、急にWi-Fiの速度が下がり始めた。

気づいたら、ずいぶんとたくさんのWi-Fiが、ファントムたちの周りに集結していた。だいぶあっちに取られてるんだな。急がないと、先を越されてしまう。

発電所たちもかなり頑張っていて、空には第二の太陽のようにピカピカした、電気の塊ができ始めていた。こっちも完成間際じゃないか。

僕は、開いた扉を描き終わって暇を持て余している、リンとカミ男を呼び出した。

「ごめん、そのあたりからありったけの青い矢印、集めてきて」

「おっけー」「了解」

リンとカミ男はすんなり受け入れて、そこら中走り回りながらWi-Fiを集め始めた。

僕は打つ速度を上げた。


カミ男とリンは、すぐに両手いっぱいのWi-Fiを持ってきてくれた。ファントムたちにあれだけ集められてもなお、これだけの量が余っているとは、正直この世界のWi-Fi濃度は驚嘆の域を超えている。神の領域だ。この世界の住民の通信速度はさぞ快適なことだろう。・・・ここには住民がいないみたいだが。

何はともあれ、通信速度問題は解決した。問題は、ほかのチームより早くブラックホールを完成させられるかどうかだ。

「おい、スバル。幽霊共の周り、だいぶ光ってきてるぞ」

カミ男がせかした。さっきまで、地面に扉の落書きをしていたやつにせかされたくないが、確かに幽霊たちのほうはかなり順調だ。

「ホントだ。あいつら、もうすぐ、さっきペイアン京を作った時と同じぐらいのパワーを蓄え終わるよ」

リンが不安そうに僕の肩をゆすった。じゃあ、お前もなんか考えろや。と思ったが、口には出さず、僕はうなずいた。

「こっちも、そろそろラストスパートだ」


電気組が腕を振り回すのをやめた。さっきまで上空でくすぶっていただけだった電気の塊が、大きく膨れ上がって、バチバチと恐ろしい音を立てている。ちょっとかすっただけ、いや、近づいただけでも即死だろうな、あの電気量。電気のことはよく知らないが、感電によって死ぬかもしれないことぐらいは、本能的にわかる。僕は、鬼ごっこで感電死なんていう終末の迎え方はしたくない。

電気の塊が完成間近になったことで、電気組のテンションも上がっているらしく、彼らの()()()()の声がこっちまで聞こえてきた。

「あとはこれを雷に加工して、落とすだけ。たぶん俺らが一番乗りだ!」

「一番海苔だって」

「おいしそう!」

「僕も一番海苔になりたい」

「ここから早く脱出して、みんなでなるのさ、一番海苔に」

「がんばるぞー、おー!!」

脳みそがスープ化しているのは、電気組も鬼も変わらないらしい。僕は心に誓った。こんな奴らに負けてられない。早く脱出して、お帰り願わなければ。

僕は、木陰で必死こいてキーボードをたたきながら思った。

この調子なら、もしかしたら間に合うかもしれない。

「スバるん、がんばって!」

リンが横で応援してくれている。僕は、今度は何も言わずにうなずいた。返答する余裕がちょっと足りない。指に全神経を取られている。間に合うと信じて、指だけを動かし続ける。

でも、着実に雷は出来上がりつつあった。幽霊トリオも、謎の呪文を詠唱し始めている。3グループとも最終工程に突入したようだ。

幽霊のWi-Fiが、一気に輝きを増し始めた。急に世界が明るくなって、画面が見にくい。まずいな。Wi-Fiがすさまじい勢いで、パワーアップしているのを感じる。Wi-Fiがパワーアップってどういう状況かわからないが、そんな感じがする。たぶん、ファントムたちが脱出に要する時間は、あと30秒といったところなのだろう。マロが、一瞬こっちを見てにやけた。幽霊だけど死ねと思った。

「うおおおおおおおお」

僕は今までの最高記録かもしれない速度で、指を動かし、遂に即席ソースコードを打ちきった。すべては、Night町から、そして僕の家から謎パリピを追い返すために。使命感ってこんなにも人を強くするのか。人間というのは素晴らしい。

僕はEnterを2回押した。プログラム実体化開始だ。僕らの武器が、前方の空に黒い塊となって出現した。あとは、プログラムが完全に読み込まれるのを待つだけ。

がんばれ、myパソコン! 僕はパソコンの神と、パソコン開発者の力量に祈りをささげた。

雷がもうすぐ落ちようとしていた。あんなでかいのがこんな小さなペイアン京に落ちてきたら、ひとたまりもないだろう。雷が落ちさえすれば、確実にあいつらは脱出成功だ。ファントムたちも、呪文詠唱が終わったようで、神妙な面持ちで顔を突き合わせて、かたまっている。たまにマロが、にやけかけるのがむかつく。勝利確信しやがって。さっきの勝利確信少年()の二の舞にしてくれる。

ああ、頼むよ。早く実体化してくれ、僕の即席ブラックホール!!

「雷、発射!!」 「Wi-Fiビーム!!」 「ブラックホール!!」

3チームの叫び声が重なった。

雷が轟音を立てながら、地面に向かってギザギザと模様を描いて進んでゆく。

Wi-Fiビームが、この世に穴を開けるべく、空に向かって大気を切り裂いた。

雷とWi-Fi、二つの勢力がまさにぶつかろうとした、その時。

上空に黒々とした大きな穴が出現した。突如出現したその虚空は、周辺に飛んでいたWi-Fiを吸い込んで急速に成長した。そしてビームも雷も、一瞬にして漆黒の闇に吸い込まれていった。

ビームと雷という、とてつもないエネルギーを吸い込んだ僕らのブラックホールは、一気に肥大化した。

ものすごい風が巻き起こって、草も気も空も、あぜんとして立ち尽くす鬼ごっこ参加者も、すべて暗闇に引き寄せられていく。

ものの数秒で、世界は漆黒に包まれた。


気が付いて目を開けると、そこはnight町のドーリー通りだった。

何が起こったのか理解するのに、少し時間を要した。僕はブラックホールに吸い込まれて、それからペイアン京も崩壊して、それから・・・

そうか、脱出成功したのか!!

ブラックホールの勝ちだ。そりゃそうだ。あんなもん作ったら、現実世界でも滅亡に追いやれるだろう。核兵器よりも、厄介な武器であることは間違いない。修理屋の仕事に行き詰まったら、新兵器開発でもしよう。謎パリピを秒で追い返すための、兵器を作るのだ。

いいかもしれない。

「クソ、負けたぜ。さあ俺たちを捕まえな」

スプークが悔しそうに言った。ほかの幽霊と発電所も、観念したというように抵抗するのをやめた。鬼ごっこのルールもわからないような奴らだが、自分たちで決めたルールはちゃんと守るようだ。

「リン、こいつらにお帰り願ってよ」

僕はすかさず、リンに頼んだ。またややこしいことになる前に、さっさといなくなってほしい。

リンは、ほうきに飛び乗って「やった~、飛べる飛べる!」と魔力のある世界を満喫していたが、僕の声に反応して、

「じゃ、スバるんの健闘をたたえて、いっちゃうよー!! エイッ」

キラキラ輝くワープロードを開き、8人の人ならざる者をどこかへ送り帰した。

よっしゃあ。これでNight町の平和を取り戻すまでの階段を、また一段上ることができた。

いや、別にNight町に平和を守ることには、特に興味はないな。僕は家を返してほしいだけだ。

「お、日傘を見つけたぞ。こんなところにあったのか! すまないな、みんな。さっきは力になれなくて」

トマも別のことで喜んでいる。さっきまでしおれていたのがウソのような回復っぷりだ。カミ男がどこにあったのか、尋ねると

「ああ、内ポケットの中に入れていたよ」

と、折りたたまないタイプの大きな黒い日傘を、ぱさぱさと開いたり閉じたりして見せた。

それ、絶対内ポケットに入らないと思うんですけど。それとも、あんたは「タヌキにすら見えない自称猫型ロボット」と同じ技を使えるんですか。四次元ポケット使いですか。だったらすごく、うらやましいんですけど。

「このまま残りの人間役もパパッと捕まえようぜ」

カミ男はいつの間にかオオカミに変身していて、そう言うなり、うぉぉぉぉぉんと遠吠えをした。

「そうだな、早く捕まえてしまおう」

トマはそう言って、大きい日傘をスッと内ポケットにしまって、何事もなかったかのように上着を整えた。

僕は見なかったふりをして、ドーリー通りを、次なる戦場へと歩きだした。


ドーリー通りの終端まで来た。ここから先は車も通行可能な領域だ。

いつもなら、そんなに人はおらず、車ばかりが行きかっているこの地域だが、今日は違った。車止めの電撃網の周りに、青い服の人びとが集まっているのが見えた。あれは・・・よく電線の点検をしている業者の人だろうか。様子をうかがいながら青服作業員に近づいていくと、こんな会話が聞こえてきた。

「電撃網の故障原因は分かったか」

「それが・・・電撃網が放つ最大出力の100倍以上の電力が流し込まれたことが、故障の原因と思われます」

「電撃の100倍? 火力発電所の出力に匹敵する電力じゃないか。どうやったら、そんなことが・・・」

「さあ、見当がつきません・・・とにかくここを復旧して、それから対策を考えましょう」

「対策って言ってもなあ・・・」

僕は・・・僕は何も知らないぞ。赤毛の火力発電所の化身が、さっきこの通りをバイクで爆走し、歩行者にぶつかってクラッシュしていたが、奴らがどうやってこの通りに侵入してきたかなんて・・・。

あの野郎、公共物破壊すんなっつーの。

僕は、何も知らないふりをしながら、困り果てた作業員の横をさりげなく通過した。

かわいそうに。彼らが電撃網破壊の犯人を捕まえることは、おそらくないだろう。


歩きながら、僕はふと思い至って、twittersを開いた。今日1日かなりのセリフをtwiters送りにしてきたので、忘れないうちに削除してしまおうと思ったのだ。ここはちゃんとWi-Fi生息地域内だし、幽霊がWi-Fiを独り占めしていることもないので、さっとページにアクセスできた。

案の定、twittersは僕史上最高の大荒れになっていた。

ちなみに、この世界のtwittersでは、自分がつぶやいたツイートに対して、様々な人がコメントをしたり、Good・Badボタンを押して評価したりできる。僕の今日のtwittersの一部をここに残しておく。


〔いや、今の状況と全然違うんですけど?! 1ミリもかぶってませんけど?!〕

Good:28 Bad:10

コメント

*今の状況って何wwww

*俺の家の前が、芋だらけになってて、電柱も倒れてる状況w

*さっきドーリー通りでWi-Fi集めまくって、光っちゃってる人いたよ

*それ関係なくねw


〔だからワイファイ!!!〕

Good:30 Bad:1

コメント

*知ってる!!!

*今日のこの人のツイート、さえてるね

*今までほぼ投稿されたことないのにね

*才能あんじゃん

*Wi-Fi野郎! フォローしてやるぜ

*Badを1回押してみた


〔ブラックホール!!〕

Good:11 Bad:2

コメント

*うわあああ

*じゅわあああ

*吸い込まれるううう

*助けてええ、吸い込まれるなんていやああああ

*一人だけ肉汁出てるぞ


知らない間に、ペイアン京内での叫びもツイートされていたようだ。

ツイートを一括で削除しようかと思っていたが、意外と盛り上がっちゃってるし、フォロワーも増えたので、やめた。

まだ半分ぐらい人間役が、捕まらずに逃げている状況なんですが、もうこんなに文字数使ってしまいました。我ながら、よくもこんなしょーもない内容でこんなに、文字数を稼いだなと感心しているので、読者の皆様は、できれば温かい目で、無理だったらせめて生ぬるい目ぐらいで見守ってください。

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