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第三話 Wi-Fiで世界の創造主になるなんて、僕は認めない。

第三話にしてこの進捗具合・・・。この話ホントに完結するのか?

「とりあえず、火柱が上がったところの周辺に行けば、炎の妖精たちがいるのではないか? 妖精は集団行動を好む傾向が強い。しとめればかなりの人数を稼げるはずだ」

 ()()()()とかいう鬼ごっこらしくない単語を交えたトマの提案によって、僕らは町の中心のほうを目指すことにした。目指すといっても、今自分たちがどこにいるかも不明なので、ここまでの道のりを引き返して、道がわかるところまで出ようとしているだけだが。

 僕は「妖精って集団行動をとる習性があるのかー。ふーん。知らねー。この先、一生こんな知識いらねー」とか「妖精って〇匹じゃなくて〇人って数えるのかー、いらねーその知識」とか考えながらスケボーを飛ばしていた、歩くのも疲れたし、かといってリンのほうきに乗せてもらうのも安全性に欠けるからだ。また吹っ飛ばされたら命の保証はない。

「なあリン、お前さっきスバルの棒に何の呪文かけてたんだ? 速すぎて全然わかんなかったぞ」

 横を走っている青目のオオカミがしゃべった。オオカミがしゃべってるって、すごい違和感あるな。洋画吹替映画以上の違和感を誇っているぞ。

 リンはほうきの上から「ふぇ?」と聞き返した。

「魔法なんてかけてないよ? あたし、スバるんに焼き芋、投げただけだよー」

「え、そーなの⁈」

 残りの三人は驚いた。僕の金属棒は焼き芋で進化したのか? どんな錬金術だよ。名だたる錬金術師も真っ青だよ。誰か金棒進化の化学反応式を書いてくれ。リンは、恥ずかしそうにした。

「うん。だってー、スバるんのまわり、焼き芋だらけで近づけないし、自分の敵は倒しちゃったし・・・。つまんなくなって、つい投げちゃった♡」

 ついついアスファルトにめり込む速度の焼き芋を、素手でつかんじゃいましたってのか、こいつは。超人か? いや、ほうきで飛んでる時点で超人か・・・。

「でも投げるとき『スバるん!!』って叫んでなかった?」

 僕が問いかけると、リンはうん、そーだね、とうなずいて

「キャッチボールしてくれるんじゃないかなぁって思って。暇だったし。だから、焼き芋に『アツアツ魔法』を1秒間に10回の勢いで10秒間かけ続けて液体にして、きれいに球体に丸めてからスバるんに投げたの! でも、あたしもびっくりだよ。まさかスバるんが焼き芋(液体)で、秋君を倒すなんて。たぶん、スバるんは将来、秋君を超える『焼き芋使い』になれるよ!!」

 いらねーよっ!そんな素質!!

 そもそもいもって液体になるのかよ。液体を球体に丸めて投げたってどういうことだよ。液体でキャッチボールしようとしたって、どんな状況だよ。しかも、あの状況で僕はどうやったら、リンとキャッチボールなんていう余裕ぶっこいた行動がとれるんだ。

「わけわかんねー」

 僕はまだほんのり輝きを帯びている金棒をちらっと見た。

 これが、液体かつ球体の高温高速芋のなせる業なのか。

 どんな業だよ。理解不能だ。

「リン、あの状況でスバルにキャッチボール・・・いや、キャッチイーモを挑むのは少し無理があっただろう」

「そうだな、焼き芋に祟られるから、次からやめろよ」

 トマとカミ男が口々にリンを諭した。キャッチイーモってなんだ、次からやめろってなんだ。次なんて来ないよ。もう二度と焼きいもで攻撃されたくねーよ。

 リンはほうきの上でしょんぼりした。

「ふぇ~ん。次からは秋君が攻撃をやめてから、お芋投げるからぁ。ごめんねスバるん!!」

「え・・・うん」

 僕は思った。

 こいつら三人とも、脳みそが沸いてるを通り越してミソスープになって沸騰してるんじゃなかろうか。

 僕は、こんなミソスープ野郎共と一緒にいて大丈夫なんだろうか。


 そんな不安を抱えたまま数分間テキトーに移動し続けた結果、僕らはやっと人通りの多い道を見つけることができた。ここは歩行者天国状態になっているらしく、広い道いっぱいに仮装した人々がうごめいていた。ああ・・・今日もこの町はハロウィンなのか。改めて実感した。やっぱり人込みもイベントも苦手かな。無駄に体力を取られる気がする。

「ねぇスバるん、ここどこー?」

 リンが僕の頭上でくるくる旋回しながら尋ねた。

「たぶん、さっき火柱が立ってた中心街からちょっと行ったところにある『ドーリー通り』だと思う。ハロウィンの日の夜・・・つまり毎晩なんだけど、頭がパーティーになっちゃってる仮装連中がこんなふうに車を通行止めしてはしゃいでるんだ。でも今日は、ホントに10月31日だから、人の数はいつもよりだいぶ多いよ」

「フーンなるほど・・・『頭パーティー』か。面白そうだ」

 カミ男が何か勘違いしている。頭パーティーってなんだよ。おもしろくないだろ。

「あ、いいね、頭パーティー! みんなで粘土でカミ男の生首を作るの~。フフッ、ゼッタイ、タノシイッ」

 リンが賛同した。頭パーティーって・・・何なのマジで。ホラーなの? ギャグなの?

「怖いよそれ」

「怖くないよ。だってたかがカミ男でしょー? 楽勝楽勝」

 リン、いったい何が楽勝なんだ?何と戦うつもりだったんだ?

「確かに、しょせんはカミ男の生首型の粘土だ。何体いたところで同じことだ」

 トマもなぜか同意している。最初はトマはこの中では、まだまともなほうなんじゃないかと思っていたんだけどな。やっぱりこの人もミソスープだったのが実に残念だ。

 カミ男は、2人にムッとして言い返した。

「おい、いくら粘土だからといっても、俺の生首を甘く見すぎだぞ。お前たちこそ、しょせんはただの小娘と老人じゃないか。いいか、俺はとある日はロックスター、とある日は月にほえる森最強のオオカミという、リバーシブルで特別な存在なんだ。その生首も、たとえ粘土であっても強大な力を秘めているのだっ!!我こそKING OF THE WORLD!」

 カミ男・・・。

 君は森一番のミソスープだ。僕が保証してやる。

「お前らホントに残りの人間役を捕まえる気あるのか? さっさと行こう」

 僕は人ごみの中にぐいぐい入っていった。3人も「仕方ないな、付き合ってやるか」と顔を見合わせながらついてきた。

 おい。もとはといえばお前らが鬼ごっこに僕を巻き込んだんだからな。


 ドーリー通りの人ごみの中を突き進んでいくこと5分。

 突然人垣が開けた。なんだ?

 大きな通りのど真ん中で、3人組の男たちが青く光る物質を振り回していた。

 しかも、周りの空気中からもその青い矢のような光線が、次々と彼らに降り注いでいる。

 なんだこれ。どーゆー状況? 新手の大道芸人?

「お、あの3人、俺たちの標的(ターゲット)だぜ。3人とも亡霊だ。右から順にスプーク、ファントム、スピリッツだ」

 ・・・全部英語で「幽霊」って意味なんだが。カミ男レベルでテキトーな名前つけられてるじゃないか。かわいそうに。しかもスピリッツ、お前だけなんで複数形?

「よぉ、鬼ども。あんまり遅いから来ないのかと思ってたよ」

 スプークが僕らを見つけてた。彼の手には大量の青い光がたまっていて、しかも次々に周囲から青い光を取り込んでどんどん増幅している。さっきの焼き芋みたいにやばいヤツじゃないといいのだが。僕はさっきの焼き芋を思い出して、すごく不安になった。

「その青い光はなんだ?」

 トマが三人の幽霊に向かって集結し続ける光の矢をよけながらきくと、スピリッツが困ったように返答した。

「はて、何であろうか。マロにはわからぬが、おのずから集まってくるのじゃ」

 ・・・今時、一人称がマロの奴とか初めて会ったぞ。この人の親は、未来永劫「オレオレ詐欺」に引っかかることはないだろう。

 それにしてもあの光、何なんだろう。僕は情報を求めてGoog☆Le(グッグ☆リー)を開こうとした。Goog☆Leは世界的に有名な検索サイトだ。このサービスのお世話になる人は多いので、いつしかGoog☆Leで検索することを「グッグる」と表現する若者が出現し、今では辞書にも掲載される言葉になっている。

 僕はGoog☆Leにつなぐために、free Wi-Fiを探した。

 赤い矢印、違う。緑・・・でもない。金…・・・高額すぎて手が出ない。

 あれ、青い矢印は飛んでいないのか?

 そんなバカな。こんなに人の多い場所にWi-Fiが飛んでないなんて。さっき四季たちと戦った地域は、おそらくWi-Fiが生息できない地域、いわゆる圏外だったのだろうが、ここはそうじゃないはずだ。しかも、Wi-Fiの生息地域圏内では、空気の組成は窒素70%、酸素20%、Wi-Fi3%、電話通信波2%、その他の矢印2%、二酸化炭素0.04%ぐらいの割合で混ざているはずなのに。いったいWi-Fiはどこへ・・・。

 僕ははっとして、幽霊たちに向かって進んでいく、光る青い矢をつかみ取った。

 すると、青い光は、スイッチを切られたかのように輝きを失って、ただの青い矢印になった。

 おお、マジか。ビンゴじゃん。

 幽霊たちが持っているあの光は、奴らの魔法なんかじゃない。

 なぜか発光しているが、ただのWi-Fiだ。ああなるほど、さっきtwittersに出ていた「数名の男がWi-Fi振り回してる」っていうツイートは、こいつらのことだったんだな。

 幽霊って、Wi-Fiを引き付ける体質なんだろうか。遠くのほうのWi-Fiを観察してみた。Wi-Fiはふつう、空気中を無作為に飛んでいるものだが、幽霊三人衆の周辺に来ると急に向きを変えて、光を帯び、幽霊たちに吸い寄せられていった。間違いない。この地域のWi-Fiを独占しているのはあいつらだ。

「鬼さんたちも来てくれたことだし、はじめよっか」

 ファントムがこっちに右手を伸ばした。ほか二人も、ファントムの横で気を引き締めている。

「さあ、捕まえられるものなら、やってごらん」

 イケボで挑発しやがったなファントム、なんかむかつく、と言ってカミ男が、オオカミから人間の姿に戻った。通行人がギョッとしている。カミ男はそんな通行人の目をものともせず、言い放った。

「お前らこそ、逃げられるもんなら逃げてみろよ」

 彼は、ニッと笑って光るWi-Fi野郎のほうへ突撃していった。

「さ、あたしたちも行こっか!!」

 リンもほうきで飛び出す。トマも後からのんびりついていった。

 これで、幽霊と鬼で3vs3。

 僕の出る幕はないな。

 僕はスケボーから降りて、3人の様子を見守ることにした。


「鬼さんこちら、手のなるほうへ~」

 ファントムが笑いながら、つかみかかってくるカミ男の手を、スルリとすり抜けた。

 カミ男は悔しそうにうなって、ファントムは愉快そうに声をあげて笑った。

 鬼vs霊が始まってから10分は経っているが、幽霊はまだ一人も捕まっていなかった。

 冷静に考えてみたら当たり前のことだ。スプークもファントムもスピリッツも、名前通り霊だから素手ではつかめないし、宙をひらひら動き回ったり、ふっと消えたり出てきたりすることができる。さらに、彼らに引き寄せられて飛んでくるWi-Fiが鬼たちにぶち当たったりして妨害しているので、なおさら幽霊の勝率は高い。

 リンはさっきから、素手で捕まえるのをあきらめ、除霊魔法でスピリッツをしとめようとしているが、一向に魔法は命中しない。しかもスピリッツは名前が複数形だからなのか、分身していた。

「そのようなぬるい魔法でマロは成仏せぬ」

「マロはこれでも古参の霊じゃ」

「そなたのような小娘に、成仏させられるような存在ではない」

 四方八方から分身したマロの声が聞こえる。ああ・・・マロマロうるせー。

 しかも、今回もやっぱり鬼ごっこじゃないよな、この戦い。ただの除霊の儀式だよな。

 スピリッツもリンたちとパーティーやってたんだから、こいつら友達なんだよな・・・。成仏させちゃっていいのかよ。

 トマはトマで、激しく動き回るスプークを鎮魂するように、神に祈りをささげて十字を切っているが、こちらも大した効果は挙げられていない。すごくどうでもいいのだが、吸血鬼って、十字切ってもいいんだな。

 僕がそろそろ見飽きてきたころ・・・。

 突然通りの向こうのほうから、人々の悲鳴と、爆音のエンジンの音が聞こえてきた。

 今度はいったい何なんだ。そろそろ僕もう、いろいろありすぎて疲れてきたんだけど。

 人垣の間から、バイクが数台、歩行者であふれるドーリー通りを突っ切ってくるのが見えた。

 人々が慌てて歩道に逃れて、そのすれすれの脇を暴走バイクがかすめていく。

 あれ、今日この道は、歩行者天国になってるんじゃ・・?

 あいつら、どうやって車通行止めバリケードを突っ切ってきたんだ?

 あそこは侵入車両を感知すると高電圧電撃が流れるという、鬼畜系な金網が張り巡らされてるのに。

 バイクの運転手は、こちに向かって何か叫びながら、さらに速度を上げて向かってくる。

 僕もあわてて道の端まで下がった。

 バイクは全部で3台、先頭の1台は赤髪の男が、残り2台は青い長髪女子とオレンジ髪少女、あと、緑髪の眼鏡の少年と、紫髪のロックファッションの男が、それぞれ2人乗りしている。

 ・・・あいつらも鬼ごっこ組の仲間だったりするのか?

 そんなわけないよな。僕は、半ば祈るように自分に言いきかせた。あいつらはただの暴走族だ。僕とは関係ない。

 先頭車両の赤色担当がまた叫んだ。今度はちゃんと聞こえた。

「鬼発見っ!! 俺らも幽霊に加勢すんぞ!!」

 え・・・あいつらも鬼ごっこの参加者? うすうす思ってた節もあったけど、マジで言ってんのか。僕、あんなのとかかわりたくないんだけど。万年陰キャでいいんだけど。

 それにしても、なんでどいつもこいつも、鬼から逃げるんじゃなくて鬼に挑もうとするんだろうな・・・。やっぱアホなのかな。僕がそんなことを考えていると、バイクはかなりの速度で鬼たちには出に突っ込んだ!! 周囲からパニくった悲鳴が上がる。おいおい、事故じゃないか。やばいぞ。

「リン、トマ、カミ男!!」

 僕は事故現場に駆け寄った。

 そして目が点になった。

 バイクが3台ともクラッシュしている。

「あちゃーっ! ごめーん(笑)急に来るからびっくりして突き飛ばしちゃったアハハ」

 リンが笑いながら、道に伸びている赤いヤツに謝った。

「てめーら、どこ見て運転してやがる」

 カミ男がすごい目つきで、カラフルな髪の5人をにらみつけている。ちなみに彼自身は、ズボンが破れている以外無傷だ。・・・あのズボンはファッションなんだっけ? もうよくわからないぐらい破けてるから、「事故ったファッション」ってことでいいだろうか。

「私もついゴーストハントに夢中で、気が付かず、よけられなかったよ。まともにぶつかってしまって・・・すまない」

 トマが真剣に謝っている。

 強いなあの3人。バカは風邪をひかないどころか、けがもしないらしい。僕はは安心するというより、ちょっと引いた。

 3人が謝っているうちに、赤いヤツが頭をさすりながら起き上がった。ほかの4人もだんだんとバイクから投げ出されたショックから立ち直ってきている。

 みんな強いじゃん。みんなアホじゃん。さらに引くわー。

「おい、鬼たち。謝罪はいいから、俺たちとも勝負だ」

 赤が言った。やっぱり戦うのか。鬼ごっこは逃げるものだという認識は間違っているのだろうか。

 僕は思った。

 こんな、鬼ごっこのルールすら理解できてない奴らと知り合いだと思われたくない。

 僕がさりげなくその場を離れようと画策し、後ろを向くと、そこにスピリッツが立っていた。

「ひっ」

 さすが幽霊。気配がなくて、まったく存在に気付かなかった。

 スピリッツはこっちをうつろな目をして見た。いや、眼が怪しく光っているようにも見える。なんだか様子がおかしい。幽霊にも体調不良ってあるのだろうか。

「あの…大丈夫ですか?」

 返事がない。しばらく待ってみたが、そもそも僕の存在に気付いていないようにさえ見える。スピリッツは幽霊だし、僕には何も見えてないってことにして無視しようか。僕が彼をすり抜けようとしたとき、スピリッツは語り始めた。

「そう、マロが死んだあの日も、このようであった・・・」

「え?」

 僕は少し緊張した。何なんだよ急に。こいつもしかして、バイク事故で死んだ幽霊なのか?

「マロは、平安の都で、雷に打たれて死んだのだ・・・」

「いや、今の状況と全然違いますけど?! 1ミリもかぶってませんけど?!」

 なんだよこの幽霊。バイクで死んだどころか、バイクなんて存在しない時代に死んでるだろーが。って、また叫んだから、セリフがtwittersに自動投稿されてるじゃないか。お前のせいだからな。

「ああ、思い出したぞよ。マロは・・・マロは・・・うわああああああああ!」

 マロとその分身は、急に頭を抱えて叫びだした。なんて迷惑な大合唱だ。通行人が逃げていく。

 スプークがハッとしてこっちを見た。

「おいファントム。見ろよ」

 ファントムもマロたちを見て驚いた表情をした。

「ああ、とてもいいタイミングだね」

 どこが? どこがいいタイミング? どんだけポジティブシンキング?

「うあああああああああ!!!」

 さらにスピリッツが叫ぶと、彼の周りを漂っていたWi-Fiがぐんぐん輝きを増した。

 まぶしい・・・。

 しかも、ファントムやスプークのWi-Fiも、すごい光を放っていた。

 僕は目を開けていられなくて、眼を閉じた。


 次に目を開けたとき、あたりは太陽の光に満ちていた。

 え? 夜が終わった?

 もしかして、太陽の電池が復活したのか? 急に? そんなバカな・・・。

 僕はびっくりして周りを見回した。見慣れない小さな建物がぽつぽつと立っているだけの、のどかな田舎の風景が広がっていた。しかも、その建物一つ一つも、今時そんなん見たことないぞっ、ていうぐらい簡素なつくりをしていた。3匹の子豚が作ったのかと思うレベルだ。

 ここ、どこ・・・? Night町ではないな。

 僕はとりあえず、僕以外にも誰かここに飛ばされてきていないものかと歩き出した。ああ、久しぶりに太陽の光を浴びた。ほんとは嬉しいはずなんだけど、今は僕、知らないところに一人投げ出されて遭難してるし、鬼ごっこのことも気になるからあまり太陽の恵みを楽しむ気になれない。

 しばらく歩いて気付いたが、ここには人の気配がなかった。飛ばされてきた幽霊や鬼役はおろか、この街の住人らしき人の姿も一切見当たらない。試しに僕は、近くにあった一軒の家に入ってみることにした。家には、玄関なんていう立派なものはついておらず、家の壁に、無防備に四角い入り口がついているだけだった。僕は、恐る恐る建物の中に入った。

 案の定、中には誰もいなかった。さらに驚いたことに、家の中には家具らしきものすら、一つも見当たらなかった。さらによく観察してみると、家の壁には汚れ一つついていないし、土を固めたような床でさえ、まったく凹凸も傷も見当たらなかった。その家は、まるで生活感のない空間、ただの四角い箱のように思えた。もしかして、この町は幽霊の町だったりするのだろうか。頭の中をよからぬ考えがよぎった。・・・この町、なんだか気味が悪いな。僕は、その家をそそくさと立ち去った。とにかく、だれでもいいから探そう。この際、さっきの髪がカラフルな暴走族でもいい。関わりを持ちたくないなんて言ってる場合じゃない。とにかく、生体反応を感じたかった。

 僕がふたたびゆっくり歩き始めると、急に後ろから何かが飛びついてきた。

「スバるんっ! みっけたっ!」

 急なことだったのでビビりながら振り返ると、リンが僕に抱きついてきていたいた。その後ろにはトマとカミ男がいる。ああ、よかった、やっと人に出会えた! 僕は、この3人に出会って安心感を覚えるという初めての体験をした。僕は、3人に歓喜の目を向けた。

 カミ男は、僕の喜びを感じ取ったのか、「おう、スバル。元気だったか」と笑いながら僕の肩をトントンとたたいた。

 その横で、トマは「日傘が・・・日傘がない・・・」とうわごとのようにいながら、ポケットなんかをあさっていた。たぶん、ポケットにはないだろ、日傘。でも、トマは吸血鬼だから太陽の光は浴びると危険だ。僕らは、近くにあった大きな樹の下に、トマを安置した。そこに、さっきのカラフル5人と、霊3人もやってきた。

「これ、どういうことだよ。いったいどうなってんの?」

 僕はその場にいるみんなにきいた。カラフルたちは、俺らも知らね、と首を振っている。リンとカミ男もどーなってんだこれ、って顔をしていた。存在自体がファンタジーな彼らでさえ、このファンタジックな展開についてこれていないようだ。僕らが困っていると、ファントムが進み出てきてにこやかに笑った。

「実はさっき、スピリッツが、僕らに集まってきた『青い光』の力を増強させて、僕らを異世界に転送したんだよ。ここはスピリッツが作り出した空間だ」

「は? ちょっと待てよ。 Wi-Fiに異世界創造とか、そんな用途ないから。不可能だよ」

「ああ、あれ、ウィーフィーっていうの」

 ファントムが言った。おいお前、読み方間違うなよ。

「だから、ワイファイ!!!」

「・・・うん。ごめん。その、わいふぁい。でも、あれのせいで僕らはここに飛ばされてきたんだよ」

 こいつら、なんでこう、ぶっとんだことばっかり引き起こすかなぁ。理解が追い付かないからやめてくれない。僕まで頭がパーになりそうだ。

「で、結局ここはどこなんだ?」

 僕は若干いらいらしながら言った。仕事終わりにこんなことやらされているので、疲れもかなりたまってきている。

「スピリッツの生まれ故郷の、平安京のような場所。それが、ここ。僕らのWi-Fiが作り出した空間だ。その名は『ペイアン京』。即席で誕生した世界だから、強い衝撃が加わったrすぐ壊れるだろうし、規模も小さいけど」

 シリアスな表情でファントムは何を言ってるんだ。いろいろ突っ込みたすぎて逆に何も言えねーよ。

 ファントムは、そこで一息入れて少しセリフをためた。カッコつけているんだろうか。だとしたら、失敗している。カッコいいヤツはそんな意味不明なこと言わない。

「そこで鬼さんたち、それにカラフルな5人も。僕から1つ提案がある」

「なんだ?」

 スプークが食いついた。おい幽霊3人衆、せめてお前らの中だけでもちゃんと話まとめとけよ。

 ファントムは、まあ焦るな、とスプークをなだめた。

「この世界から一番初めに、元の世界に脱出した人が勝ち、ってことにしないかい? 最初の脱出者が鬼だったら、僕らはおとなしく捕まるし、最初がほかの人だったら、鬼は僕らを逃がす。こんなルールでどう?」

 ファントムは周りの様子を窺った。

「最初の1人が脱出したら、残りのものはどうすればよいのじゃ。でられるのか、ここから?」

 マロが不安そうにファントムに尋ねた。だからお前ら・・・打ち合わせしろよ。

 しかもここって、もとはといえば、マロが発狂して作った世界だし! なんでファントムのほうが詳しいんだよ。

「大丈夫。最初の一人が脱出するときに、このペイアン京という空間に作り出されたほころびが広がって、みんなそこから出られるはずだ」

 ファントムは、そういってマロを安心させた。スピリッツ(マロ)は、少し安心したようにうなずいた。

「そうか・・・それならやってみてもいいな」

 赤いヤツが提案に乗った。まあ、ずっとここでじっとしているわけにもいかないから、脱出方法を考えなければならないのは事実だ。しかし、人数的に考えると、鬼のほうがだいぶ不利だ。

「どうする?」

 僕が鬼たちに話題を振ると、リンとカミ男は即答した。

「やろうよ、それ!!」 「やってやろうじゃねえか」

「だって、もし初めにあたしたちが脱出すれば、8人も一気に捕まえられるんだよ!」

「そうだぜ、スバル。これはBIG CHANCEだ。ビビッてたって、始まんないぜ」

 そういわれると、確かにこれはむしろチャンスかもしれない。どうせまともにつかもうとしても、すり抜けていくような幽霊が相手なんだ。正攻法よりは、よほど勝算がある。

「わかったよ。やろう」

 僕は鬼たちに説得される形で、ファントムの提案を承諾した。

「決まりだね」

 ファントムはそう言って、自信ありげに笑った。


まだまだ鬼ごっこは続く・・・。

感想とかレビューとかどんどん書いてね笑

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