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第二話 お前らは鬼ごっこの概念を誤解している。

 リンのほうきに乗せてもらって、僕らはしばらくの間、高速で飛んでいた。トマはほうきと同じ速度で右下あたりを走っていて、カミ男もオオカミに変身してついてきていた。これ、自動車だったら間違いなくスピード違反で捕まってただろうな。ってか、トマめっちゃ足速いな。リンのほうき、たぶん時速120㎞は出てるぞ。

 カミ男は、眼が青色のちょっと不気味なオオカミに変身していた。服は消えている。が、銀のチェーンネックレスだけは、カミ男の首元で強烈な勢いでなびいている。長い毛並みがきれいだ。

「ところでリン。さっきからどこに向かって飛んでるわけ?」

 僕は120㎞/hの強烈な強風の中叫んだ。またイグ蔵が表示されて、twittersが表示されたが、気にし得る余裕はない。ほうきにしがみつくのに必死だ。

 そんな僕とは対照的に、リンは「え~っとね~」と、人差し指を頬にあてているぐらい自然に暴風の中を突っ切っていた。リンは半分こっちを振り返って聞いた。

「さっきから思ってたんだけど、ここどこー?」

 へ?

 僕は周りをも回したが、速すぎてここがどこかなんて皆目見当がつかない。

「さっきから当てもなくそんな高速でぶっ飛ばしてたのか」

 僕はきき返した。リンはうなずいた。

 マジか。

「一回とまれ」

 僕はリンに言った。次の瞬間、体が前に投げ出されるような感覚に襲われた。

 急に止まったからか?? なんだ?!

 と思っている間に僕は、身を低くして僕をよけたリンの上を通り越して、数メートル下の地面にたたきつけられた。

 イッテー。もうちょっと安全運転心掛けろよ。

 僕は頭をさすりながら立ち上がった。地面に投げ出された割には、軽傷で済んだかな。なんか、下の地面が柔らかかったのが不幸中の幸いだったのだろう。僕は自分でも、あれ?と思いながら考える。

 ここ、アスファルトなのに、なんでこんな軽症で済んでるんだろう。

 下を見た。

 灰色がかった黄土色の毛の塊みたいなものが足元にあった。ああ、これの上に落ちたから助かったのか。ラッキー・・・

 って、ええ??

 この色、まさか・・・

「カミ男?!」

 僕はびっくりして飛びのいた。カミ男(オオカミver)は、うううと低くうなった。

「スバル・・・てめぇ・・なんでわざわざ俺の上に落ちてくるんだよ・・・バカか?」

 落ちたのは悪かったと思うけど、君にバカとは言われたくないよ。

 っていうかこれ、僕のせいなの? 事故じゃね?

「あーあー、カミ男、アンラッキーだねー、キャハハ!」

 リンがなぜかウケている。こーゆーキャラなのか?

「オオ、神よ。オオ・カミ男を安らかに昇天させたまえ」

 トマが横で祈祷をささげている。こっちもこーゆーキャラなのか?

「おい、なに人のこと勝手に殺してんだよ。人じゃないけど。オオカミ男だけど」

 カミ男がむくっと起き上がった。僕はビビッて飛びのいた。

「ゾンビかっ」

「ちげーよ、オオカミ男だ! っつーか死んでねーよ!」

 カミ男は叫んで、人間の姿に戻った。そういえば、この人たちは叫んでもセリフがtwitters送りにされたりしないようだな。

 超うらやましいんですけど。どうやってあんたら、悪魔の青い鳥(twitters)の自動投稿システムから逃れたんだ。やり方教えてくれ。

 ・・・じゃなくて。

 ここはどこだ。

 パッと見た感じ、人の気配のないさびれた住宅街だ。ここの家々、全部空き家なんじゃないだろうか。どの家も電気がついていない。この暗い町で、電気つけないで生きるとかたぶん無理だから、まず誰もいないと考えていいだろう。

 どこだよここ・・・。こんなとこ来たことねーよ。

 ヒューっと冷たい風が道を吹き抜けていった。寒いな。上着着て来ればよかった。

 この世界、ノートパソコンと財布さえ持っていれば何とかなると思っていたが、甘かったようだ。


 第一話でもちらっと述べたように、近年の情報化社会では、パソコンでプログラミングすればなんでも実体化することができる。しかし、プログラミングでものを作るのは非常に時間がかかるので、店で買う人のほうが多い。上着一着でだいたい、速い人で1時間半、遅い人は一週間ぐらいプログラミングし続けないと終わらなかったりする。それに、デザイン性とかを追求し始めたら、もっと日数は伸びていく。今も寒いけど、たぶん上着を作っている間にたぶん風邪をひくだろう。っていうか、こんな寂れたところで一日中プログラミングし続けるの、イヤだし。

 しかも今、それどころじゃない。さっさと町中に散った変人どもを捕まえないとどんな厄介なことしでかすかわからない。

 まあでも、せっかくなのでプログラミングについてもう少し説明しておこう。

 プログラミングは、かなり根気のいる作業だ。例えば、上着を作るんだったら寸法、素材はもちろんのこと、ファスナーの凸凹の数やそれの細かい形、さらに縫い目の一つ一つまでちゃんと設計しないと、見栄えのいい作品にはならない。

 まあ、その代わり、ちゃんとやればそこそこなんだって作れる。服も、食べ物も、機械も、もちろんソフトやアプリも作れる。現金も作れてしまう。もちろんホンモノを。

 ただし、プログラムを実体化して物を作ると、そのために使った材料の費用は銀行口座から引き落とされていくので、注意が必要だ。服だったら布や糸の代金、機械はそれに使った金属の代金、とか。ちなみに、現金を100万円分実体化すると、口座から100万円引き落とされるようになっている。

 だから現金をプログラムすることに特に意味はない。100万円分の新札が手に入るぐらいの得しかない。

 僕は、幼い時から機械(特にパソコン)をいじるのがが大好きだったから、今までに結構いろんなものをプログラミングしてきた。リニアモーターカーみたいに地面の上を浮かんで飛ぶスケボー(水上駆動も可)とか、ゲームに出てきそうな剣とか、あと、実用的なものだと、超消しやすく改良した消しゴムとか。

 大体は実体化しないまま放置してあるが。実体化すると材料費とられちゃうし。

 だが、今もデータは失敗作以外は残している。そういうのは、すぐに実体化が可能だ。

 僕は、小さい時に上着を作っておかなかったことをすごく後悔した。


「ねえースバるん。結局、ここどこー?」

 リンがほうきから降りてきて尋ねた。僕は、困り顔で返した。

「わかんないよ。こんなとこ、来たことないから」

「そっかー、んー、じゃあ仕方ないから、この辺に逃げてる人がいないか探してみよっか」

 リンはそういって歩き出した。

 僕は、2人仲良くのんきに月を鑑賞していた吸血鬼とオオカミ男を引き連れて、リンについていった。


 しばらくテキトーに歩いているうちに、一段と冷え込みが増してきた。さっきまであんなに燃え盛っていた火柱も、完全に鎮火されて無くなってる。もう、僕らが街の中心から見てどっちのほうに向かっているのかを示す目印すら消えてしまったというわけだ。パソコンでこの辺りの地図を開きたかったが、結局諦めた。人がいないせいか、この地域には、人がいるところなら大体どこでも飛んでいるはずのfree wi-fi(青矢印)が全然飛んでいないのだ。どんだけ過疎地なんだよ。僕は、今度オフラインで使える地図アプリを取得しようと思った。(Wi-Fiルーターを持ち歩くという手もあるが、有料だし、自分のポケットから矢印が出続けるのもなんか目障りだから、僕はしていない)

「スバル、見ろよ」

 カミ男が、僕の髪をつかんでパソコンから目を上げさせた。痛いな、さっき上に落ちたことの仕返しのつもりか? 根に持ってんのか? 心の狭いオオカミだ・・・。

「なに? 放してくれる? まだはげたくないんだけど」

 カミ男は手を放して、前方を指さした。

「道が凍ってる」

 見ると、細い道が全面的に透明な氷におおわれていた。

 まだ10月31日だよな。さすがに路面凍結は早くないか。

 さっきから異様に寒いし。いったいここはどうなってるんだろう。ほんとにNight町内か?

「おそらくこの先に誰かいるな」

 トマが言った。

「誰かって?」

 僕がきくと、彼は

「逃げている人間役の()()だ」

 といった。

「たぶん、氷の妖精とか冬の魔女とかだよっ! 行こ行こ!!」

 リンが再びほうきにまたがった。

「今度は飛ばしすぎないようにね」

「うん、分かったー」

 リンが凍った道を注意深く歩く僕らの周りを、くるくる旋回しながらついてきた。

 しばらく歩いたところの十字路で、何人かの人がおしゃべりしているところに遭遇した。全部で5人。白い服の女の人と、さくら柄の着物を着た和風な女の人、髪が赤で、白シャツに短パンという寒そうな格好をした青年、本を読みながら焼き芋を食べつつ、サッカーボールをリフティングしている忙しい少年、最後に、一番派手でカラフルなワンピースを着ている少女。

 5人を見てリンが言った。

「四季たちだ」

「四季?」僕はきいた。

「そーだよ。白服の女の人が冬、さくらの着物の人が春、赤毛が夏、少年が秋、で、カラフル野郎がそれをまとめる‘四季’」

 ふーん、そんなのいるんだ。なるほど、あの少年は秋だから本読んで、食べて、運動してんだな。秋はいろんなこと、しなくちゃいけないから忙しいな。

「あら、鬼さんたち」

 四季が僕らに気付いた。

「よお、四季ども。道が凍ってたのは冬の仕業か?」

「・・・」

 冬はカミ男の質問を完全に無視してこっちをにらんだ。相変わらず冷たいな、冬は。とトマがつぶやいた。

「ようこそ~みなさん。鬼は4人に増えたのね~。多いほうが楽しいかしら~?」

 春がほんわかとした口調で言って、こっちに手を振った。冬とは対照的だ。いや、でも待てよ。ようこそって、ここはお前らのテリトリーじゃないからな。ただの過疎地だからな。

「敵が多いほど燃えてくるぜ!! うおおおおおおおお」

 夏が熱いハートを燃え上がらせた。この寒い中、汗まで書いている。すごい。

「〇✖・・・♪#●□▽&!!」

 秋が何か言ったが、芋を食べながらしゃべっているので、認識できなかった。っていうか、もはや人間の言語をなしてないぞ、それ。しゃべってる間ぐらい、食欲の秋を体現するのやめようよ…。

 しかも5人とも全く逃げる気配がない。どういうことなんだ。

「今やってるのって、鬼ごっこだよね。逃げないの」

 僕が四季たちに言うと、夏が熱い瞳をきらめかせながら、ファイティングポーズをとった。

「鬼というものは我々にとって敵だ。そして、敵というのは立ち向かうためにある!! そうだろ?」

「・・・はぁ?」

 僕があっけにとられていると、向こうで冬が動いた。

「さあ、勝負よ」

 他の四季たちも、続々と戦闘態勢を整え始めた。

 ・・・え?

 これ鬼ごっこじゃないの?

 それとも、僕がおかしいの?

 冬は右手をすっと前に出して、何か唱えた。すると、急に北風が強くなって、すごく寒くなった。

 上着・・・。僕が深く後悔していると、足元からピキピキと音がし始めた。

 氷が割れてる?

 下を見ると違った。

 氷が足首まで上がってきてる!!

 人生初体験だよ、こんなアニメみたいな凍り付き方。体験したくもなかったけど。

「あたしたちも、いくよーっ!!」

 リンがほうきの上から叫んで、両手を前に突き出した。とたんにリンの前に赤い魔方陣が浮かぶ。

「ファイヤーっ!」

 魔方陣から炎が噴き出した。リンの炎は、地面の氷を溶かして僕の足も解放してくれた。

 すごいんだけど・・・。何だよこれ。戦闘じゃねーか。鬼ごっこってこんなんだったか?

「さ、俺らも行くぞ、スバル!」

 カミ男はチェーンにっくれすの黒い宝石のような部分を握った。すぐさまチェーンが伸びて、いい感じに変形して、銀の銃に変わった。おお、意外とかっこいい。そのネックレス、武器だったんだ。

 トマもいつの間にか、すらっとした長い剣を右手に構えていた。

 こいつら、銃刀法って知ってるんだろうか。

 どうせ知らないんだろうな。

 僕はそのまま飛び出していくカミ男とトマを、ただ突っ立って見ていた。

 この鬼ごっこ、ハードすぎるだろ。というかこれは絶対鬼ごっこじゃないだろ。断言できる。

「スバルんもはやく!ちゃんと参加しないと、あたしたち、スバるんの家に住んじゃうんだからね」

 リンがその辺の氷をアスファルトごと炎で溶かしながら言った。

「やりすぎだよリン。もうちょっと弱火で行ったほうがいいって」

「え~、いいじゃん。道溶けてもいいじゃん!」

「よくない」

「むぅ~。じゃあ、あたしが炎を弱めたら、スバるんも参加してね」

「え~・・・」

「ほら、イクよ~! 3、2、1 GO!」

 炎が少し弱くなった。ああ、もう。家を帰してほしいだけなのに、なんでこんな目に・・・。

 僕は仕方なくバトルフィールドに飛び出していった。

 僕は戦場をぐるっと観察した。リンと冬は、相変わらず炎と氷で戦っている。そして、カミ男は夏の頭を銃でバンバン殴っている。あいつ、銃の使い方知ってるんだろうか。トマが、春と四季を相手にひらりひらりと軽やかに動いている。春は「花粉症」なる技を発動していたが、トマには効いておらず、むしろ四季が鼻にティッシュを詰めていた。ただの同士討ちじゃねーか。

 この様子だと、僕の相手は秋か。

 彼はまだリフティングしながら本を読み、焼き芋を食べていた。僕のほうには見向きもしない。戦う気がなさそうに見える。お、これは戦わずして事が収まるタイプか?

 僕が、戦わなくていいかもしれないと安心しかかったその時、秋がちらっとこっちを見た。

 目が合った。

 彼は焼き芋を飲み込んで、食べるのをやめた。

 あれ、もしかして戦うの。嘘だろ。やめようよ。僕は、平和が一番だよ思うよ。たかが鬼ごっこだし。うん。無理に戦わなくてもいいんじゃないかな・・・。

 少年はサッカーボールを思い切りこっちに蹴ってきた。ボールが一瞬かすんで見えた。かなりの弾速だ。ボールは、メキメキと恐ろしい音を立てて、僕の少し後ろのアスファルトを砕いて中にめり込んだ。

 ・・・アンビリバボーだよ。アンビリーバボーとしか言いようがないよ、こんなの。

 秋って、見た感じ一番戦力にならなさそうだったのに・・・。実は一番強かったのかも。

 まずいな。

 僕はどうしていいかわからず、ただ秋を見ていた。また秋と目が合った。彼は読んでいた本に目を落とした。そうそう、そのまま戦意を喪失してくれ。僕に興味を示さないでくれ。

 彼は本を見ながら何かつぶやいた。彼の目の前に、リンのより少し大きいぐらいの魔方陣が出現した。怪しい紫色の光を放っていて、怖い。

 それから、秋は残っていた焼き芋を魔方陣に投げ込んだ。陣が輝き、少しの沈黙の後・・・。

 弾丸のように何かがこっちに飛んできた!! しかも結構たくさん。

 僕はとっさに、近くに立っていた電柱の後ろに転がり込んだ。

 何が飛んできてるんだ一体⁈ 僕は弾丸より数段速い弾幕をじっと見つめた。

 そして、泣きそうになった。

 飛んでいるのは、焼き芋だ!!

 僕はいまだかつて、これほどまでに破壊力の大きな焼き芋を見たことがない。

 誰か、この少年に焼き芋はそもそも武器じゃないんだよと教えてやってくれ。

「ねえ、戦わないの?」

 秋少年がちゃんと喋った。今は芋を食べていないようだ。でも僕だって聞きたいことがある。ねえ、なんで戦うの? これ鬼ごっこだよね? 焼き芋が飛んでくるとか、もはや戦闘ゲームですらなくなってるよね。っつーかこの短時間でどんだけ飛んでくるんだよ、焼き芋。さっきからすごい量アスファルトにめり込んでるんだけど?!

「出てこないなら、引きずり出す」

 秋は意外と好戦的な性格だったようだ。悲しいことに。僕は何もできないで電柱の陰に隠れていたが、その電柱にも焼き芋が流星のように次々と激突して、電柱が大きく揺れた。ここももう、もたないだろう。電柱が倒れてくるのも時間の問題だ。

 僕はこの急激に始まったサバイバル的状況を打破する糸口を求めて、パッとあたりを見た。なぜか近くに1.2mほどの金色の棒が落ちていた。

 もう戦う運命なんだろうな・・・。僕はあきらめて、その金属棒を手に取って立ち上がった。

 それから、ふと思いいたって、開きっぱなしだったパソコンのエクスプローラーを開き、ある1つの項目を出してきて、実体化するためエンターキーを2回押した。

 もう多少金がかかってもいいよ。諦めるよ。僕だって命が惜しいよ。焼き芋で死ぬのは嫌だよ。

 僕が実体化したのは、昔作った宙に浮かぶスケボー(エンジン実装済)だった。こいつはもともと実体化するつもりなんかなくて、落書きみたいなノリで作ったプログラムなので、出せる最高速度がえげつなく速い。普通だったらこんな代物を運転するのはごめんだが、今は焼き芋のほうが怖い。圧倒的恐怖だ。

 今日初めて乗るけど、いきなり、速度全開で行かせてもらうよ。

 僕はスケボーを起動して、上に飛び乗った。

 電柱に3本ぐらい、一気に焼き芋が衝突した。

 と同時に、上のほうでブチッと糸が切れるような音がした。電線が切れたんだ。もうこの隠れ家もしまいだ。電柱(相棒)は壮絶な戦死を遂げた。

 僕は倒れてくる電柱から逃れるため、スケボーを急発進させた。

 そして、芋弾幕の中に突っ込んでいった。


 秋は「やっと出てきた」と言って笑った。余裕かよ。

 一方僕は、飛んでくる芋(という名の凶器)の中を必死でスケボーでかいくぐり動き回っていた。このスケボー、さっきのリンのほうきと同じぐらい速度が出ている気がする。スケボーから落ちたらオワリだ。今度は、カミ男というクッションはいない。アスファルトと直接対決になってしまう。そんなの絶対負ける。っていうか、勝てたら人間じゃない。芋弾幕放ってくる奴レベルで人間じゃない。骨が粉々になってしまう。

 僕は必死でよけまくった。昔、シューティングゲームにはまってた時期があったけど、その時の勘がちょっとは役に立っている気がした。

「スバるん!!」

 リンが冬を倒した。冬が地面に伸びていたのがちらっと見えた。

「お願い、助けて!!」

 リンに向かって叫んだ。リンがこっちに来ようとしているが、焼き芋に阻まれてなかなかこっちに近づけない。さらに運の悪いことに、今叫んだセリフがtwitters送りにされたことを告げるため、イグ蔵が出現した。画面が僕の足元の視界を遮った。

 僕がイグ蔵に気を取られたその一瞬のスキを、秋は見逃さなかった。

 すかさず僕のスケボーに、焼き芋が直撃した。

 僕はバランスを崩して、スケボーごと宙を舞った。

 秋の目が、光った。あれは・・・目でガッツポーズを決めているな、あの野郎。自分の勝利を確信しやがったな。

 そのとき、

「スバるん!!」

 とリンが叫びながら、こっちに光線みたいな魔法を飛ばしてきた。え、何アレ。僕はとっさに持っていた金属棒でそれを受け止めた。

 すると、棒は急に生命が宿ったかのように、黄金の光をまとった。

 え、いや、何?

「ふって!!」

 また、リンの叫び声が聞こえた。

 僕は、崩れかけた態勢で、秋の勝利を確信しきった眼を見据えた。

 諦めてなるものか。ここで諦めたら、家が謎のパリピに占領されっぱなしになってしまう。

 まだだ。まだ負けちゃいないんだよ。鬼ごっこの鬼の意地、見せてやる。

 僕は棒を左から右へ、全力で振り切った。

「くらえ、鬼に金色棒だ!」

 ブンッと棒は周囲の空気を切り裂いた。

 その勢いに押されて、こっちに飛んできていた焼き芋たちが、今度は秋側に吹っ飛んだ。

 秋は自分に向かて焼き芋が飛んできたのを見て、驚いて口を開けた。

 彼は焼き芋とともに、背後の廃ビルにぶち当たった。

 秋はうつむいて、「ちゃんと防御もしておくべきだった・・・」と言い残して、その場にへたり込んだ。

 ・・・勝った?

 ほんとに勝った? 結構あっさりいった?

 やったあ。

 思ってもみなかった勝利に、僕はじわじわとテンションが上がった。

 イグ蔵が「くらえ、鬼に金色棒だ!」がtwittersに送られたことを教えてくれた。

 このツイートに、すぐさまいろんな人が「なんじゃそりゃ」とコメントをつけていった。

「やったね!スバるん勝ったよ!」「すごいぞ、スバル」「初めてにしちゃ上出来だぜ」

 リン、トマ、カミ男がこちらに駆け寄ってきた。彼らもそれぞれ勝利を収めてきたようだった。背景に、気絶した四季たちが映り込んでいた。


「まずは、5人。捕まえたっ♪」

 リンは、5人それぞれにワープ魔法をかけて、約束通り奴らをもと来た場所へ送り返した。よし、なんとか家を取り戻すための第一歩を踏み出せたようだ。

「まだまだ敵は残ってるぜ、行こう」

 カミ男がネックレスを首にかけなおした。僕らは互いに顔を見合わせて、うなずいた。

 僕たちは何事もなかったかのように、その場を立ち去った。

 後には、倒れた電柱と、アスファルトに大量に突き刺さった焼き芋、という異様な光景が残された。

読んでくれてありがとうございました。

おかげさまでタッチタイピングはだいぶ速くなりました。

次回から精度を上げたいです。

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