いつか君達は夢まぼろしとなる
恋を諦めた妖狐の翔と、親友の恋心を知る朔夜の話。異種族を乗り越えた幼馴染達ですが、乗り越えられないこともある。翔の場合は恋心であり、彼等と生きる年齢、其の生きる時間(本編にも掲載中)。
※一人称視点
「ショウ。こんなのことを聞くなんて酷かもしれないけど、君は本当に飛鳥への気持ちを諦められるの?」
幼馴染であり、親友でもある朔夜がこんな質問を投げてきた。野暮な質問だと俺は苦笑してしまう。
「本当に諦めるも何も俺は妖なんだぜ? 例え気持ちがあれど種族が違う。諦めるしかねぇって」
「長年思っていたのに?」
「神主になると決めた時点でこの気持ちは持っていくと決めているんだって」
「……でもさ」
俺がどれだけ飛鳥を思っていたのか朔夜は知っている。そして俺は飛鳥が朔夜をどれだけ思っているのか知っている。俺達の関係はいつだって一方通行であり平行線。交わることはきっとない。
「例えば俺が神主にならず一妖になるとしても、俺じゃ飛鳥は幸せにできない。何故なら俺は妖、飛鳥は妖祓であり人間。寿命も立場も違う」
「乗り越えられるじゃないか。僕等のように」
「恋愛はこれまた別件だよ。話の次元が違うと思う」
「……そんなもんかな」
「ああ、そうだよ」
なにせ俺は妖狐。千年は生きると称される妖。
百年足らずで死んでいく人間と俺じゃ釣り合う筈も無い。
年月を重ねるにつれて相手は思うに違いない。俺を残して先立ってごめんね、と。あいつはそういう性格だ。だから俺とは釣り合わないんだ。元々勝負にならない恋をしていたけどさ。
「君が妖になれるなら僕達もなれるのかな」しごく真顔で尋ねてくる朔夜に「バーカ」無理に人間を捨てる必要などないと俺は一笑を零す。人間に憧れている妖だっているんだ。なおざりで妖になるならまだしも、安易な理由で妖になるなら俺は大反対だ。生まれ持った種族は大切にして欲しい。
「いつか僕は君を置いて逝くんだろうね」「ああ、そうだな」「飛鳥も」「ああ」「僕なら寂しい、な」「俺も寂しいよ。いつかを思うと。けど……今はこの瞬間を大事にしたい」「……そう」「お前等は俺を置いて老けていくんだ。そして俺はお前等をいつか見送る。これはさだめだよ」
寂しくないといえばうそになる。
だけど、俺には仲間がいる。家族がいる。愛すべき妖たちがいる。だからその時がきても大丈夫。大好きな幼馴染達の思い出を抱えて生きていける――そんな顔をするなよ朔夜。お前は本当に心配性だな。俺は大丈夫だよ、きっと大丈夫。
「お前等は俺が死ぬ時に迎えに来てくれるだろう? それまで俺も精一杯生きるさ」「ショウ……君らしいね」「てかやめようぜ。こんな話。湿気る。すぐそこでお前のお迎えが来るようじゃん」「失礼だね。僕はまだ18だよ」「そうそう。こんなことを考えるのはまーだ早いんだよ」
でも俺は知っている。
お前達と過ごせる日々なんてあっという間だということを。気付けばお前等は先に年を取り、同い年だと言える日は消える。バイバイ、と言う日は瞬く間なのだろう。大好きな幼馴染達と同い年と言える今もいつかは褪せてしまう。少し寂しかった。
――白狐はいつかを迎えた日に、きっとこう言う。「またな」と。それ以上も以下もなく、その表情に涙もなく、ただただ友を見送る。そんな近未来が彼には待っている。待っているに違いないのだ。
(終)
どうしても避けられない翔と幼馴染達の惜別。
翔は早くから覚悟していると思います。彼等が老いていく姿を目にして、「あ。こいつ等は俺を置いて逝くんだ」と嫌でも悟ってしまうんですよ。幼馴染達が三十路の大人になっても、翔は18(17)の少年のままです。まだまだ少年なんです。




