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妖界の飛脚  作者: 好事家
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お届け物『幸福』?

第2話です。よろしくお願い致します。

昨晩は都に配達に行ったり花火の準備したりタツ大将の宴に参加したりと忙しすぎる日だった。そのせいか、部屋に着いたらそのまま寝てしまっていた。

でも翌日休みだからゆっくり寝れる……はずだった。


「リュム起きろー!!」


人が気持ち良く布団で寝てたら、何やら地響きと障子が勢いよく開く音がして飛び起きてしまった。どしたのかと思って辺りを見回す。和室でタンスと机、それから本がそこらに散らばっていて仕事道具もたくさんあるいつもの部屋だ問題ない。そんな部屋に遠慮なしで上がり込んでくるのは飛鳥くらいだからね……声聞くだけで分かるようになったのはこれのせいでもあるんだよな。


「ふぁー、なんだ飛鳥か」

「なんだとはなんだ!?」


こっちの発言が気に入らなかったらしい飛鳥はキャンキャンと声を荒げて抗議し始めた……鬼なのに犬みたい。

そんな飛鳥はちょっとほっといて、今の時間を確認する……まだ午前6時じゃん。仕事休みなのに早起きしたくないのに、何の用なんだろ?


「んで? どしたの? こんなに早い時間に?」


今日は1日ゴロゴロしてテキトーに過ごす予定だったのになと思いつつ、飛鳥に聞いてみる。すると飛鳥は仁王立ちして話し出した。


「今日は桜を見に行く約束だろ!」

「……そうだっけ?」


覚えのないことを言われて頭にたくさんのハテナが浮かんだ。

飛鳥の言う桜はこの桜東村の名物で、村の名前にも入ってる。桜の名所としても有名なこの村の桜は少し変わった桜が咲く……それは、黒い桜だ。

その桜が咲く時は『何か起こる前触れ』であり、幸福の象徴。昔からそう言われているらしいけど理由は知らない。


「ほら早く起きて行くぞ!」

「んー約束なら仕方ない」


覚えはないけど飛鳥が言うなら約束したんだろうな。こういうことに関しては記憶力は良いから信用しても大丈夫。

布団をのけて身支度の準備を……したいんだけど、姿勢を崩さない飛鳥に見られてできるほど大雑把じゃないんだよね。


「飛鳥」

「なんだ?」

「着替えるから外出て」


これじゃどっちが女か分からない……はぁ。

飛鳥に部屋を出て行ってもらって着替える。寝る時に着ているシャツと短パン脱いで……久しぶりに着流しにするか。タンスから緑の着流しを取り出して早速着替える。

緑は好きな色で、自身の瞳の色でもある。

頬には桜の花びらのペイントでも散らしてみた。ペイントも好き。

他にも好きなのはラーメンと肉じゃがと自転車と空とペイントとそれから――


「着替えたか?」

「だぁー! まだ着替えてないから出て行けぇ!!」






◇◇◇






「今年も綺麗に咲いたな」

「ホントだね」

「こんなにも春真っ盛りに花火が見れるとは思わなかったな」

「良いサプライズ……良い余興になったでしょ?」


飛鳥と2人、並んで桜並木を進んで行く。満開で咲いた桜色は惜しげもなくその美しさを表していた。

桜並木には他にもたくさん居て、お花見している人もたくさん居る。まぁどちらかと言えばカップルが多い。

飛鳥も機嫌良く歩いていて、昨日の事はすっかり忘れたみたい……昨日屋敷に帰った後、いろんな意味で大変だった。


「……リュム?」

「なんでもない」


昨日のこと思い出したら飛鳥に殴られた頭が痛くなった……痛たた。

帰ったらなんか知らないけど狸伯が居た。なんでめでたい日に嫌いな奴の顔を見なきゃいけないんだよ。それで、少々口論になったら飛鳥に殴られて狸伯と一緒にダウンしてた。そんなこんなで結構大変な1日だった。

しばらくは飛鳥は怒ってたけど機嫌直ってくれて良かった。

……そういえばあの若作り狸どこ行った? ちくしょう、もう会わないように地面に埋めれば良かった。


「どうした? 眉間に凄い皺が寄っているのだが」

「いや桜が目に染みて」


テキトーな返事をして手に眉間を当ててみるとホントにすごく寄ってた。

いやいや、今日はもうそんなこと考えるの止めて、桜観賞に勤しもうそうしよう。

永遠に続くような桜並木の向こうには大きな広場がある。その広場の真ん中には大きな枯れた桜の木が堂々と立っている。枯れているとは思えないほどに存在感があるその桜が例の黒い桜だ。


「今年は咲くのだろうか?」


まだ遠くに見える黒い桜を見ながら飛鳥はそう呟いた。

最後に咲いたのは今からだいたい100年前……飛鳥と初めて会ったあの日に咲いた。

その日をきっかけにこの村に住むようになってから結構月日が経った。

それは『幸福』だったけど、飛鳥たちにはどうだったんだろう?


「さぁね。咲いても咲かなくても変わらないと思うよ」


その黒い桜に1歩1歩近づく度に、妙な動悸がするような気がした。これを『虫の知らせ』って言うんだろうけど、まさかね。


「しかし、あの桜はこの村が出来る前からあって、数百年置きに咲いているそうだ。時期的にはそろそろだと」

「咲いてから言いなよ」


半ば無理やり話を終わらせて黒い桜の前まで来た……あ?


「あ、狸伯」

「これはこれは飛鳥さん。ご機嫌麗しゅう」


飛鳥が気付いてそのムカつく名前を呼んだ。黒が似合わない長い白髪を揺らしてこっちを向いたのは若作り狸でした……うげぇ、さっきの動悸はコイツのせいか。

しかも飛鳥には話しかけてるくせにこっちは眼中なしかこのヤロウ。


「桜東名物『黒い桜』を見に来たのですか?」

「ああ、リュムと一緒に来たのだ」

「リュム? そんなクソ生意気なガキは見当たりませんけどね」


狸伯はワザとらしくキョロキョロして、そのくせ絶対に目を合わせないようにしてる……このヤロウ。


「おい目の前にいるだろうが若作り狸」

「おやおや居たのですか? 小さくて見えませんでした。いつもの身長を誤魔化している高下駄はどうしたのですか?」

「誤魔化しじゃないし、今すぐ消えないと潰すよ」

「身長も小さければ器も小さいガキですね。私は優しい大人なので帰りますよ。それでは飛鳥さんまたお会いしましょう」


言うこと言った狸伯は飛鳥にだけお別れを告げて村の外に通じる道を進んで行った。その後ろ姿を睨みつけておいた。


「あ、そうです」


やっと村から出ていくと思っていた狸伯はもう一度こっちを向いて声をかけてきやがった……ったくなんだよ?


「その黒い桜、近々咲きそうです。今度は『幸福』だと良いですね」


そう言い残して今度こそ村の外に続く道を進んで行った……帰れ帰れ二度と来るな!

……ん? 今何か聞き捨てならないセリフが聞こえたような?


「あはは、アイツ何言ってんだろな? なぁ飛鳥」

「黒い……蕾」


飛鳥に同意を求めようと思って話しかけたら、ずっと黙っていた飛鳥が黒い桜を見たままポツリ言葉を溢した。

飛鳥の見ている方向に視線を合わせると黒い桜……その枝には、黒い蕾をたくさんつけていた。


「あ……」


感嘆符しか出ない。それは飛鳥も同じで、あり得ないことがあると何もできないのはホントみたい。

黒い桜が呼ぶのは『幸福』かそれともなんだ?

閲覧いただき、ありがとうございます。

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