第7話〜強がり同士〜
「ちょ、ちょっと!大丈夫!?」
結衣があたし達の元へ駆け寄ってくる。
「すごい姉弟喧嘩を見せてもらったわよ」
あたしは圧倒された声で彼女に話しかけるが、変な刀が話に乗っかってくる。
「ほんとこいつの根性はすごいな……」
(ある程度強いことは知っていたけど……あたしたちとはレベルが違かった。こいつらしい賢く悪どい戦い方に、魅せられてるだけなのかもしれないけど……)
「優華も一緒になって誉めてる場合じゃないでしょ!?早く運ぶの手伝ってよ!」
彼女がこんなにこいつの事を心配しているのは、初めて見たかもしれない。
「はーい……やるじゃん」
三年半前の出来事である。
彼達が城下町近くの第一学校に通っていた八歳の頃の話だ。その学校とは現在鈴が通い続けている学校の事である。
乱威智は学校近くの公園の林の中へ、同級生の男子二人に呼び出されたのであった。
「あいつら呼び出しといて遅いな……」
(そろそろ約束の時間……だよな?まぁそのうち来るか)
季節は秋になり、林の木々には橙色や黄色の景色が広がっている。
林の足元の落ち葉を雑に踏む音が聞こえる。
「お前が早すぎるんだよ!」
やっと来たみたいだ。乱暴そうな声で、金髪の強気そうな少年、時雨勇馬。
もう一人は内気な黒髪の少年、戸澤焔。
今日は優華のお別れ会をするとかで、愛美と未来と母さんが、朝から色々と飾り付けの準備をしていた。
それもサプライズらしい。結衣はその間、どこかで優華と一緒にいるのだろうか。
そんなことをただただぼーっと考えていた。
「話聞いてんのか!」
「ん?聞いてなかった」
「だから!お前最近調子乗ってるよなって話だよ……!」
時雨は見るからに不機嫌そうだ。
「あれ?俺なんか悪いことしたか?」
不機嫌な彼に聞いてみたら、黙っていた戸澤も頬を膨らませる。
「そ、そうだよ……!」
「だ、だ、だってお前さ、ぜ、絶対、ゆ、ゆ、優華ちゃんと、な、何かあるだろ……?」
(動揺しすぎだろ……)
時雨は言葉を何度も噛みながら問い掛けてくる。彼女と一緒にいる時の目線の後ろめたさなど気にせず、俺はあっさり否定した。
「いや?何もないぞ」
(そうそう、成長に戸惑ってるだけ)
「絶対あるよ」
否定するが、戸澤にも疑われているみたいで断言されてしまう。
(あいつはいつも未来にいちゃついてるし……というか直接聞けばいいのに)
「だ、だってお前いつも、ゆ、優華ちゃんと陰でこそこそ喋ってるし……」
時雨がさっきよりは落ち着いた様子で、続けて問い詰めてくる。
「し、しかもあの優ちゃんが自分から話しかけてくるなんて……」
(こいつ……優華に気があるんだろうなぁ。そういや昔からの知り合いだとか言っていたような……)
まあ彼女は言動が男っぽい部分もあれば女子っぽい部分もある。後者は動揺している時と俺は考えている。
でも話す男子なんて幼馴染の俺と幸樹位だろうか。話すことなんて大体は俺と結衣のことか未来の溺愛話だ。
じゃあ何故幸樹を疑わなかったのか……二人して未来のことしか考えてないからだ。
結衣との仲を応援する代わりに未来のことを教えろだとか、いつも強引過ぎて困っている。
(あと陰で話してくれるのは良いんだけど……)
俺のことをあまり気にしてないのかいつも距離が近いのが困る。
「絶対何かある顔だよ……」
戸澤がジト目で見てくる。その時のことを思い出しドキッとしたが、別にそんな気持ちは無い。
「はぁ……、で?俺があいつを好きだと勘違いしたのか?」
俺は溜息を吐くと呆れた声で対応する。これはある程度説得しておかないと面倒そうだ。
「べ、別に……?」
「勇馬!ちゃんと言わなきゃ!」
時雨が目を逸らすと、戸澤がそれを小声で注意する。
「お前らこそなんか話したらどうなんだ?時雨なんかはスポーツの話とか合うだろ」
おそらくさっきの反応から、原因時雨の方だろうと思った。軽くアドバイスしてみる。
(戸澤はこいつが心配だから一緒に着いてきたみたいな顔だな。全くしっかりしろよぉ。俺が言えたことじゃ無いけど……)
「勇馬はちゃんと頑張ってるよ!だって君はさ、女子と話してる時ほとんどが葵さんとじゃん……!」
戸澤の反論が刺さった。優華が結衣と話せるチャンスを作ってくれても……うまく活かせていない。
だからまたダメ出しを食らう。もしかしたらそれを見たのかもしれないな。
「もしかして……俺を騙そうとしてるのか!?」
時雨が余計不機嫌になりながら聞いてくる。
「え、君ってそんな酷い人だったの……?」
戸澤からまた疑いの目を向けられる。これは明日学校でも突っ掛かれそうだ。
「焔!いくぞ」
急に時雨が呼び掛けをした。
「え、本当にやるの!?」
「そうだ!」
何をする気なんだこいつら……?二人は急に俺の左右に立つと、殴りかかってくる。
危険なので避けて数メートル離れる。
「ってちょっとまっ……!」
二人の拳は互いの頬を殴る。
(あぁーやってしまった。母さんと先生にも言われるなぁこれは……)
座り込む二人は俺を睨み付けている。今は何を話しても無駄かもしれない。説得失敗だ。
「それに関しては断じて違うからな!あいつは未来にベッタリだし……な?詳しいことは
明日話そう、な……?な、なんか悪かったな。ちゃんと手当てしてもらえよ?じゃあな!」
めんどくさいなぁと思いつつ、その場を後にした。
どうやら優華は、少し離れた場所の学校に一月から転校するらしい。
優華はヴァルナ地方、扇卯国王の子孫だったが、身内の反乱で城ごと燃えたらしい。
地図で表すと俺達の国、フィオーレ・アフラマズダー王政型民主国の北西にある地域。冬の期間が長いヴァルナ自律民主地域だ。
親戚の家を転々として、また別の家に行くらしい。今度こそ受け入れてくれる家族であると良いなと思っている。
その日のお別れ会も無事成功させて、早めに終わった。何故かと言うとその親戚とやらが帰りにうるさく、あまり優しくないと本人から聞いた。
だから俺と母さんで優華を家の近くまで送った。
だが問題が起きたのは次の日だった。俺が朝早く登校して教室に来た時。
時雨と戸澤の視線も気になったが……それより優華の様子が変だった。体の所々に痣が出来ていて足もふらふらしていた。
「ちょ、ちょっとお前……!ついてこい」
俺は席を立ち上り、優華の手を掴む。二人の事も気になるがそれどころじゃない。きっと夜通し酷い目にあったのだろう。
「えっ?」
優華を引っ張り教室を出て、教員にバレないように学校から出た。
教室にいた結衣はそれを心配そうに見つめていた。
「私もついていけばよかったかな……?で、でもお邪魔だったかも……」
もし私のせいで教員にバレたら、その行為は優華の親に間違いなく知れ渡る。
乱威智はそんなこと考えずに、即座に助けられる。
(友達だから当たり前かもしれないけど……)
後から教室に来た愛美と未来も、なんとなくその様子に気付いていた。
(授業始まるまでに戻ってこれるかな……
コンビニで買ってあげた二種類のパンを優華はバクバク食べている。
母さんに、もしもの事があったらと持たせて貰ってたお金があって本当に良かった……
「うまいか?」
「うん美味しい。ありがと」
今は食べることに夢中らしい。
(こういう時は動物みたいで可愛らしいのに……)
「急ごう。授業始まる前に学校に戻らないとまずいぞ」
優華の家に先生から連絡が入ったら、彼女がまた危険な目に合う可能性が高い。また苦しめることになるかもしれないと考えた。
「大丈夫!食べたからもう歩けるー」
口元にパンかすを付けながら、笑顔を作るが本当はまだ心配だ。
「口に付いてるぞ、ほら。あと飲み物買い忘れたからこれ飲んでくれ」
彼女の口元に手を沿え、パンかすをつまんで食べた。そして黒い肩掛けバッグから小さい水筒を出す。
「そ、それあんたのでしょ?私が飲んじゃって良いの?」
柄に無く聞いてくる。いつもなら無言で奪って飲み干す癖に。
「緊急用のやつだしな。いつもならそんなの構わず飲むじゃないか?」
思ったことを聞いてみたら、なんか微妙な顔をされた。
「そ、そうね……ありがと」
彼女は口をハンカチで拭きなおす。そして俺の水筒を取り、水をガブガブ飲む。
(気まぐれかと思ったけどやっぱり容赦ないな……)
「やっぱりその水うまいだろ?」
「うん、そうね。美味しいわ」
さっきから彼女の反応が鈍い。きっと心身共にダメージを受けているのは間違い無いだろう。
(母さんに相談しなくちゃな……)
時間はまだ七時五十分。登校時間にも余裕があるためゆっくり歩いていた。
しばらく沈黙が続いた後、彼女にため息混じりで心配される。
「心配だわー、あんたが結衣と無言のまま歩く風景が思い浮かぶ」
彼女は人差し指で俺の腕をつつきながら、ジト目で更に注意してくる。
「まずそれは一緒に歩いてることになるのでしょうか……」
「そんなこと言われてもなぁ……」
俺は自然体だし、なかなか話が膨らまないのは自覚はしてる。
「まぁあんた次第ね。今朝だって、あの子に合わせたくて早起き登校したんでしょ?それに何か言いたそうにしてたわよ。何であたしに話しかけちゃったかなぁ……」
「そうだったのか……でもあんなお前をほっとけなかったんだ」
結局間に合ったし、結衣も誘えばよかったのだろうか。でもそれどころじゃなかった。
「そ、そう。ありがと……それよりあんた、なんで私が来るまで話しかけてなかったの?」
勇気を出なくてぐずぐずしてたなんて、恥ずかしくて言えないことに気付く。
「それは……まあ、あれだ」
対応が苦しくなって道端に立ち止まってしまう。それに合わせて彼女も立ち止まる。
「え?何でそこで口ごもるのよ……」
口ごもった俺を、凝視しながら覗き混んで圧迫してくる。だが彼女の青いパーカーの下の白いキャミソールの胸元に目が行ってしまい、更に目が泳いで困惑してしまう。
(ん?首元に傷が……)
「そ、それよりお前、首元に傷が……大丈夫なのか!?」
逸らしてた顔を元に戻すが、覗き込まれていたことを忘れていた。彼女の顔が至近距離まで近付く。
「…………」
優華は恥ずかしかったのか、顔を赤らめて先に歩いていってしまった。
「ごめん」
先に謝るが、あまり気にしていない様子だった。
「まぁ何かあっても、強がって突き放さないようにね」
背をこちらに向けたまま、右手を挙げてじゃあねの一言を残す。
彼女はそのまま先に行ってしまった。その手には痣や出血の痕がいくつも残っていた。
「人の事言えないじゃんか……」
登校後二人組の誤解も解いた。二人ともかなり心配そうにしていた。
帰ってすぐ母さんに相談すると、後は任せてと一任してくれた。
その後は母さんと護衛騎士数人が優華の家を訪問しすると、虐待の最中であったことが発覚した。
国の保護規定により、血縁者では無い家庭への受け入れ先を探し、数日後無事に見つかったそうだ。
そして一月、優華は無事に転校していった。未来の話によると、手紙にて家族と仲良くしているとの連絡もあった。
写真もあったので見せてもらうと、新しい姉とも仲が良さそうで安心した。
「そういや時雨は、気持ち伝えられたのかなぁ……」
独り言を呟き、目を開けると俺はベッドに横たわっていた。
(そこそこ昔の夢を見たな……)
仰向けのまま天井を見上げると、綺麗な天井とここは広い寝室だと気付いた。
(この部屋の構造は……結衣の屋敷の余り部屋か。そうか、まだ母さん仕事から帰ってきてないからか)
未来と愛美が負傷しているとなると、家でまともに面倒を見れる人はいない。鈴も復帰はしていなかっし心配だ。
「やっぱり傷の治る速度と、体力の回復も早くなってるなぁ……」
看病をしてくれてるのかと期待をしつつ、左を向くと誰もいなかった。
(ん?ベットの中に何か……左手に柔らかいか、か、かんしょ、感触が!?)
女性の肌という事はすぐわかった。男とは思えない肌のすべすべ具合に、心拍数が一気に跳ね上がる。
左を向いたまま、右手で少しだけ布団をめくった。結衣の肩が露見する。明らかに裸だった……!
結衣が布団から顔を出して、俺の左腕に抱き付いてくる。穏やかな青い瞳でこちらを見つめてくる。
(あれ?こんなに結衣の目って青かったっけ?月明かりのせいか……そ、そうじゃなくて!な、な、なななんで裸!?や、やばい……つ、つつ遂にこの日が……)
綺麗な白い桃色の肌が、月夜に照らされている。
(か、かかかかた、というか、む、むむね……!た、たたに、たた谷間がっ……!)
「ふ、ふ、ふふく、ど、どどどうしたぁ?」
あまりの出来事に動揺して、俺はあり得ない位言葉を噛んでしまう。あまりに直視できない状況の為、緊張に耐えきれず彼女に背を向けてしまう。
「どうもしないけど」