第3話〜魂の融合〜
昔々、あるところに父と母。そして将来有望な息子二人がおりました。
兄は怪力で強く、他にも難しい魔術も難なく使うことができたので頼りにされていまし
た。
弟は頭が良く物知りで、全ての知識を身につける程と言われ、兄の助けとなっていました。
兄弟は互いを尊重し、羨み、そして時には憎み合い、別の道を選んでいきました。
ですがある時、その家族が心中を図ったのです。家族の痕跡は全て消え去っていました。
その後の家族の行方を知る者はありませんでしたが、ある噂が立ったのです。
その家族の霊が取り憑いて特殊な力を与えてくれると。
さて、その家族はどんな最期を遂げたのか。もぬけの殻となった場所と彼ら自身しか知る者はいないでしょう。
時間は夕方の五時を過ぎる頃。
乱威智は訓練学校の帰りに、愛美と鈴が入院してる病院へ着替えなどを届けに向かっていた。
見た目は少し暗めの赤髪。少し長めのショートヘア。
そして少しくりくりなV字の前髪で、髪質は少しだけ細いが天然パーマ程では無い。
どうせまた愛美が挑発に乗ってやらかしたんだろうと思っていたが、幸樹が珍しく暗い顔をしていたので心配だった。
「何があったんだろうな」
「そもそも鈴ちゃんも爆発に巻き込まれるってのも、何か事情があったに違いない」
持っている刀が喋っている気がするが、とりあえず無視してみる。
だが、通りすがる犬は吠えて飼い主を困らせている。
「あとだな。ところ構わず愛美ちゃんを疑うのは良くないと思うぞ。もっと正直になるんだ。本当はもっと甘えさせてほしいんだろ?」
通り行く人は俺を変な目で見てくる。それは確かに変だろう。そして猛烈にウザい。
「少し静かに出来ない?」
幼馴染みの那津奈結衣が、隣を歩きながら少し軽蔑の眼差しで注意をしてくる。
彼女の綺麗な銀色のロングヘアにまた見惚れてしまいそうになる。
「そ、そもそもお前がくれた刀だろ?周りにだけでも聞こえなくする方法はないのか?」
彼女に問いかけたが少し睨まれる。問いかけには刀がすぐに返してくる。
「そんなもんないよー」
刀は笑いながら煽ってくる。
『はぁ……』
二人してため息を吐くしかない。
「おっ、息ぴったりだね」
「あぁそうだな」
「…………」
刀の問いに適当に返すが、なぜだか結衣は黙りこくっている。
せっかく誘えたのに怒らせてしまっただろうか?
「なんかまずいこと言ったか?」
彼女にそう聞くと、知らない!とそっぽを向く。機嫌を損ねてしまったようだ。
そもそも何故、俺の持っている刀が喋っているのか。
それは三ヶ月前にも遡る。
組手に付き合ってもらった結衣に相談したのがきっかけだ。
結衣の家に眠っている刀を使ってみてくれと言われ、気付いたら刀を自らの心臓に突き刺して能力を《《覚醒》》させていた。
そもそも能力は平均年齢十二歳で解放する。でも、今お前は強化可能な《《覚醒状態》》だと言われていた。
どうやら刀は自身の事を『ジーニズ・イモータリー』と名乗っている。
天才と不死という意味らしいが、切った敵を眠らせることしか出来ていないしよくわからない。
「お前の覚醒した能力ってのは眠らせる以外に何かあるのか?」
沈黙を切る様に自身の刀に問いかけてみる。
「乱威智、それは君自身が戦闘でどれだけ僕を使いこなせるかにかかってくる。それとあと、お前じゃないぞ。ジーニズと呼べと何回言わせるんだ?」
こちらもお怒りのようだ、そろそろちゃんと呼んでやるか。
まあジーニズの言う通り、詳しいことは経験を積まないと分かるわけないか。
「あぁわかったよ。ジーンズ」
噛んだ。正直言いにくい。
「噛んでやんの。ダサっ」
わかっていた事だが彼は馬鹿にしてきた。
「ふふっ」
結衣が笑ってくれた。まあいっか。
「ほほぉ、なるほどね。仲がい……」
『うるさい』
結衣と息ぴったりで否定した。
「おもしろいなぁ」
ジーニズの煽りを我慢しつつも、話をしていると病院に着いてしまった。
鈴と愛美の病室を受け付けで聞き、《《エレベーターを使って》》三階へ上がる。
鈴の病室に行って荷物を届ける頃には、既に六時を過ぎていた。
「あ、なんだ兄貴かぁ」
病室に入ると鈴はどうやら不満そうに答える。
「なんだとはなんだよ。ほら、着替えとか泊まる用意持ってきたぞ」
そう言うと鈴はバッと茶色の紙袋を取って中を確認する。
「あ、ありがと」
こちらと袋を交互に見て、少し睨みながらもそう言ってくる。
「なるほどなるほど。照れ臭いけどほんとは嬉しっ……」
『バシッ!!』
ジーニズの言葉を遮るように結衣が俺の頭を背後から叩いてきた。結構痛い。
「いったぁ。なんで俺を殴るの?」
「ちょっとイラついたからよ。鈴ちゃん、困ったことがあったらなんでも相談してね!こいつほんとデリカシーないから」
なんでここまで言われなきゃいけないんだ。俺のせいじゃないと思うけど?
でも鈴にまで口を利かれなくなったら、気まずくて家に帰りたくなくなる。だからそれは助かる。
「うん!結衣さんこそありがとう。一緒に来てくれて」
「どういたしまして」
鈴はいつもどおり元気そうで良かった。
「よし、じゃあそろそろ愛美の病室に行かないとな」
愛美とは一ヶ月前の能力暴走のことで、揉めて口論にもなってからしばらく話せていな
い。だがやっぱり家族だし謝らないと嫌だった。
「兄貴、もう決心ついた?というかやっぱり先に私のところ来たんだね……」
心配してくれてるのか失望されてるのか、複雑な気分だ。
「ああ、今回は俺も悪かったと思ってる」
「ほんとかぁ??もう酷い事言わないって誓えるのか?」
ジーニズがまた俺を馬鹿にしてくる。だがこれからは言い過ぎたりしないようにと反省はしている。
「ふざけてないで、さっさと行きなよ!」
鈴が痺れを切らしたのか注意してくる。
「そういや、あんた最近トレーニングしてるの?」
「そこそこは」
「愛美の事をどうこう言う前に自分を鍛えなさい?」
「…………」
今度は結衣に問い詰められ俺は黙ってしまう。
「無事に仲直りできたら付き合ってあげるわ」
結衣の誘いだし断れない。だが結衣と戦うのは楽しいがあまり好きではない。
勝つときも負けるときもあるけどそういう意味じゃない。
好きだからこそ傷つけたくないんだ。
「あれって嫌そうな顔?」
「結衣さんよくわかったね。最初はにやけてた。気持ち悪い」
わかりすぎだろ……そうじゃなくて結衣と行きたい場所があったのに。
「違う。嫌なわけじゃない。他に行きたい所があっただけだ」
とりあえず鈴の病室を後にした。
乱威智が去った後の病室、結衣はその扉をじっと見つめていた。
「あっ、行っちゃった……」
鈴ちゃんは少し寂しそうに言う。
「機嫌損ねちゃったかなぁ……」
私も少し心配だった。
「結衣さんもついていかないの?」
「私はここにいるわ。あいつ自身だって、一人で行かなきゃ意味無いってわかってるよ」
彼女を説得するが、実は私も最近愛美に避けられている気がした。
親友なんだし悩んでる事ははっきり話してほしいけど。
「うん。でも帰るときは一緒に帰ってあげてほしい……かな?」
彼女は金髪のツインテールを揺らしながら少しお願いする口調で言う。
下から目線でこんなふうに言われたら断れないだろう。
この年でこんなあざとい視線ができるなんて……羨ましい。
「もちろんよ。でも家であの二人の仲を保つの大変でしょ?」
「おまけの刀が抑止力になってます」
彼女は笑顔を浮かべ、笑いながら楽しそうに答える。
「ふふっ。そうね」