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サムライ・マスター



「ああ? なに寝言いっていやがンだぁ?」

 その小父さんは、不機嫌そうにそう言うと、じろりと俺を……いや、俺たちを見た。

 背が低くてちょっと太めの体形で、太い腕ともじゃもじゃした髭で覆われた口元。もしもここがファンタジー世界だったら、ドワーフかと思ってしまいそうな小父さんだ。

 今、俺たち……俺と香住ちゃんがいるのは、やっぱり薄暗い路地裏だった。

 路地裏と言っても、この世界──《銀の弾丸(シルバーブリッド)》の皆がいる近未来世界──に転移した時の路地裏ではなく、あそこよりは広いものの、それでもやっぱり路地裏って感じの場所である。それに、あそこよりは今いる路地の方がいくらか明るいしね。

 あの細い路地を適当に歩いていたら、ここに出たってわけだ。

 ここがちょっと薄暗いのは、路地の周囲を背の高いビルが囲んでいるから。日本の高層ビルなんて目じゃない、もっと巨大なビル群である。それこそ、アメリカなどにある摩天楼がびっしりと並んだその根元……というかその裏側ってイメージ。

 しかし、ここには最初の細い路地裏にはないものがあった。

 それは、活気だ。

 無数の人が気ままに歩き回り、路地裏でありながら店舗も存在する。中には地面に座り込んで露店を開いている人まで。

 ここ、本当に近未来世界だよね?

 いやいや、確かにここは近未来世界だ。だって、店舗や露店の店先に並んでいるのが、拳銃とかサブマシンガンとか手榴弾とかだし。中には見るからに怪しそうな薬とかも売っていたりするけど。

 日本でもよく見かけるフリーマーケットを、かなりガラを悪くして商品も物騒な物ばかり売っている……と言えば、理解してもらえるだろうか。

 また、歩いている人たちも実に様々だ。人種は白人、黒人、アジア系と、全ての人種が集まっていると言ってもいいぐらい。

 しかも、彼らのファッションが凄い。全身にじゃらじゃらと鎖をくっつけた革製のジャケット──多分、合成皮革だと思う──を着た、二メートル近い身長のモヒカン頭の人とか、金属製の両腕をこれ見よがしに主張したゴリラのような体格の男性とか、ほとんど下着じゃないかってぐらい際どい格好をした女性とか、背中に背負った変な機械からチューブが何本も飛び出し、そのチューブが身体の至るところに繋がっている人とか……正直、我が目を疑うような人がたくさんいる。

 もちろん、ごく普通の身なりをした人だっている。中にはなぜか、ビジネススーツを着た中年男性もいたりするし。

 ヘアスタイルもまた、千差万別だ。先程の人のようにモヒカンもいれば、スキンヘッドにタトゥーを入れた人、ハリネズミのように四方八方に尖らせた人なんかもいる。そして、髪の毛の色も黒や茶色や金色というオーソドックスなものから、赤や青や緑、ショッキングピンクに蛍光イエローまで、どこのアニメキャラですかって聞きたくなるような色彩もよく見かける。

 しかも歩いている人たちは、大抵拳銃を見えるところに持っているんだよな。あれって、威嚇の意味があるのかも。「俺、拳銃持っているぜ? 俺に下手に手を出すと無傷じゃすまないぜ?」みたいな。

 まあそれを言ったら、俺も人のことは言えないけど。俺も脇に拳銃の入ったホルスターを装備しているし、腰にはいつものように聖剣を佩いているしね。

 そんな俺の隣では、今日も活動的なデニムの上下に身を包んだ香住ちゃんがいる。

 心持ち俺にくっついているのは、周囲の異様な雰囲気に飲まれているからだろうか。その香住ちゃんの腰には、俺と同じように長剣がぶら下がっていた。もちろん、前回アルファロ王国から持ってきて彼女にあげた長剣だ。

 ちなみに、香住ちゃんの首には俺がプレゼントしたペンダントも揺れている。俺と会うということで、気を利かせてペンダントを身に着けてくれたのだろう。本当に優しい娘だね、香住ちゃんは。

 そして、そんな俺たちの前にいる、どこか怪しげな小父さん。薄暗い路地裏の片隅で、なぜか陶器類を商っていた露天商の小父さんだ。

 小父さんは俺をじろじろと見た後、隣の香住ちゃんを同じようにじろじろと見た。そして、再び俺の全身を見る。

「おンめぇ、《銀の弾丸》の一員だろぉ? でなきゃ、そのジャケットは着れンねぇだろぅが」

 小さな眼鏡の向こうで、小父さんの目がきらりと光った……ような気がした。

「ま、まあ、《銀の弾丸》の一員というか、準一員というか……《銀の弾丸》のブレビス団長とかその娘さんのセレナさんとかには、少しお世話になったというか……」

 小父さんは俺の言葉を聞きながら、ずいっと身を乗り出した。そして、俺の耳元で小声で囁く。

「さっきから周りの連ン中がおンめぇらを見ていること……気づいてンか?」

 俺は小父さんの言葉に頷いた。だって、この広い路地裏に出てからというもの、周囲から無遠慮に向けられる無数の視線……気づかないわけがないからだ。

「そっちの姉ちゃンみたいに小綺麗なカッコしてンとよ? ここではあっと言う間に身包み剥がれンだが……おンめぇがそのジャケット着てるンで、連中は手出ししてこねンのよ」

 み、身包み剥がれるっ!? 思わず香住ちゃんが身包み剥がされちゃったところを想像して、つい見てみたいなんて思っちゃったけど……い、いかん、いかん! 俺は紳士。紳士なのだ!

 ってか、やっぱりここはそんなに物騒な所だったんだ。道理で道ゆく人たちも、これ見よがしに拳銃をぶら下げているわけだ。

「《銀の弾丸》ってぇ傭兵団は、規模は小さいけンど、身内意識が強いンで有名だからよ。下手にメンバーの一人にでも手を出すと、団員総出で報復に来ンだわ。特に、あそこン団長は鬼のように容赦ないからよ。だから、誰も《銀の弾丸》にはちょっかいかけねンだわ」

 う、うわー……。

 あのブレビスさんが怒り狂って報復に来るなんて、ちょっと想像しただけでも相当恐いぞ。それにこの小父さんが言うには、過去に《銀の弾丸》に潰されたマフィアみたいな組織がいくつもあるらしい。

 気のいい連中ばっかりだったけど、やっぱり傭兵団なんて舐められたらいけないんだろうな。

 しかし、良かった。《銀の弾丸》のジャケットを着ていて本当に良かった。ありがとう、セレナさん。おかげで香住ちゃんを危険な目に遭わせずに済んだよ。

「で? なンで身内のはずのおンめぇが、《銀の弾丸》の居場所を聞くンよ?」

 そうだった。俺、この小父さんに《銀の弾丸》の居場所を知らないかって聞いたんだっけか。



 細い路地裏を出た俺と香住ちゃんは、当然ここがどこだか全く分からない。となると、土地勘のない俺たちにできることと言えば、誰かに《銀の弾丸》のことを聞くぐらいだ。

 では、誰に聞こうかと俺と香住ちゃんは相談した。

 周囲には、見るからに怪しい人たちばかりだ。もちろん、中にはきちんとした身なりの人もいるが、そんな人たちは足早に歩き去ってしまって、声をかけても立ち止まるどころか振り向きもしてくれない。

「だったら、お店の人に聞いてみたらどうでしょう?」

 という香住ちゃんの提案に従って、俺は店舗を営んでいる人に話を聞くことにした。営業中の店舗の人なら、さっきの人たちみたいにこっちを無視して歩き去ったりしないだろうし。

 で、適当に周囲を見回して何となく声をかけやすそうだったのが、このドワーフみたいな小父さんだったわけだ。

 俺が少し前のことを思い返している間も、小父さんは俺をじっと見つめている。

「まぁ、教えてやらンでもねえがよ? 当然、出すモン出してもらンぜ?」

 髭に覆われた口元がにやりと歪む。なるほど、情報料ってわけか。

 俺はポケットを探り、その中に入っていた物を数枚掴み出すと、小父さんの前の地面にゆっくりと広げた。

「…………ほう。金貨(コイン)か」

 眼鏡の奥にある小父さんの目に、好奇の光が宿ったことに俺は気づいた。

 以前この世界に来た時、セレナさんが言っていたんだ。この世界ではほとんどがオンラインマネーになっていて、紙幣やコインなどは使われていないらしい。実際、俺もセレナさんに宝石を売って装備を買い取り、残ったお金をマネーカードに記録してもらったし。

 で、そのマネーカード──もちろん、今回も持ってきた──で情報料を支払ってもいいが、必要以上の金額を勝手に引き落とされるかもしれない。マネーカードに記録されている金額では足りないとか言われるかもしれない。だったら、最初っからコインで支払った方がまだ安全じゃないかって思ったんだよ。

 同じくセレナさんから聞いたところによると、コインって奴は実際の金額以上に、古美術的な価値が付加されるらしいのだ。もちろん、物や場所にもよるだろうけど、オンラインマネー以外のコインや紙幣も、全く使えないってわけではないらしい。

 この前アルファロ王国へ行った時、マリーディアナさんを暗殺者から守った褒美としてかなりの量の金貨をもらったしね。今回俺はその金貨を十数枚、ポケットの中に入れておいたのだ。金貨だけじゃなく、宝石とか装飾品とかも持ってきたけど。

 小父さんは地面から金貨を一枚拾い上げると、傍らに置いてあった機械にセットした。そして、その機械を起動させる。

 おそらく、あれって何らかのスキャナのようなものじゃないだろうか。金貨の真贋とか過去のどの時代のどの国で使われたとか、そんなことを調べているのだろう、きっと。

 でも、調べても無駄だと思うよ、小父さん。だってその金貨、別の世界の金貨だから。

 あれ? ってことは、この世界でアルファロ王国の金貨は使えないってことじゃ……?

 不安にかられる俺だけど、そんな俺を無視して、小父さんはじっと機械を見つめていた。しばらくそうして機械を睨み付けていた小父さんが、不意に満足そうに頷くと再び俺を見た。

「おもしれぇもン持ってンな、兄ちゃん。この金貨がいつ頃どこで使われていたモンかは不明だが、金貨に使われている金そのものはかなり上モンだな」

 へえ、あの機械、金貨に使われている金属の成分とかも解析できるのか。さすがは未来世界だ。

「コインとしての価値はほとンどねえが、金としてならそれなりに価値があンぜ、これ」

 にかりと笑う小父さん。どうやら、情報料としてこの金貨は充分だったようだ。

 小父さんは再び身を乗り出して、小声で囁く。

「あまり、おおっぴらにこンなもンを見せンなよ? 可愛い姉ちゃんを連れてンことだし、周囲の目には十分気ィつけンことだ」

 あ、この小父さん、いい人っぽい。

 見かけは気難しそうな感じだけど、根はいい人なんだろうな、きっと。

 でも、俺が地面に置いた数枚の金貨は、全部ちゃっかりと懐に入れたけど。ま、こんな所で商売している以上、これぐらい逞しくないと駄目なんだろうな。



 露店の小父さん──後から聞いたのだが実はあの小父さん、この界隈では結構有名な情報屋でもあった──に教えられた通りに薄暗い路地裏を歩く。

 ここがどうして薄暗いのかと言えば、周囲を背の高いビルで囲まれているからだ。そのため、ここまで太陽の光が届かないらしい。

 おそらく……いや、間違いなくここは以前に聞いた巨大な未来都市だろう。その都市の裏側……ダウンタウンとかそんな感じの場所だと思う。以前この世界に来た時に、未来都市にも行ってみたいと思ったけど、その願いが叶ったってことだね。

 できれば華やかであろう未来都市の表側を見てみたいが、それは《銀の弾丸》のみんなと合流してからでいい。

 そんなことを香住ちゃんと話しながら歩いていく。途中、周囲からさまざまな視線を投げかけられるが、それらは全部無視した。時折、腰の聖剣に手をかけたり、脇の拳銃に軽く触れたりするなど、さりげなく周囲を威嚇したりもしたけど。

 そして、目的の建物が見えてきた。露天商のドワーフみたいな小父さんが教えてくれた通り、その建物はあった。

 五階建ての中古ビル。そのビルの玄関の上には、弾丸をモチーフにした看板のようなものが掲げられている。もちろん、そのモチーフの下には「SILVER BULLET」のロゴもある。

「ここが《銀の弾丸》の本拠地……オフィスビルか」

 そうなのだ。こここそが傭兵団《銀の弾丸》の本拠地であるオフィスビルなのだ。傭兵としての活動中はトレーラーを拠点にする彼らだが、それとは別に、こうして本拠地となるビルも所有しているのだった。

 どうやら俺たちは、幸運にも《銀の弾丸》の本拠地のすぐ近くに転移していたみたいだ。

 脳裏にブレビスさんを始めとした、《銀の弾丸》のみんなの顔が過っていく。

 彼らに再会できることを嬉しく思いながら、俺がビルの玄関へと一歩踏み出した時。

 その玄関のドアが不意に開いた。どうやら、ビルの中から誰か出てきたみたいだ。

 ビルの中から出てきた人と、俺の視線がぶつかり合う。

 その人は、俺の顔を見て凄くびっくりしていたけど、すぐに破顔した。破顔してくれた。

「シゲキ……? シゲキじゃないか! ったく、相変わらずおまえさんは突然現れる奴だな!」

「はい、ご無沙汰してます、ブレビスさん!」

 大股で俺に近寄ったブレビスさんが、俺と握手しながらばんばんと俺の肩を叩く。

「まあ、細かいことはいいや。まずは再会を喜ぼうじゃねえか。なあ、《サムライ・マスター》?」

 え、えっと……確かにブレビスさんと再会できたことは嬉しいけど……《サムライ・マスター》ってどういうコト?




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