運命なんて、慣れてしまえば
どんなものも薄れていく。錆び付いて、がらくたになって。なんでこんなものが『大事』だったのか不思議に思えて。
大切だから。ばれないように、見えないように。誰かに奪われないように。宝と名付けて箱にいれて、それを必死に守り続けて。名付けたからには誰にも譲らないと誓って。
それなのに。目の前にあるものや、心のなかにあるもの。時間がそれらを普通にしていく。特別が、当たり前になる。
「好きだよ」
「私も」
そんな幸せなやり取りが、いつからか甘ったるく感じてしまって。どこか他人行儀で。まるで台本でもあるみたいで。言う、のではなく。言わされているみたいに感じて。
これじゃだめだ。これでいいんだ。賢くもないのに、頭は二つの考えを螺旋のように絡ませる。本質を、求める答えを隠すように。
君はこれでいいですか?
なんて、聞けるわけがない。僕が決めた道、君と歩む道。その道はまだ、途中なんだから。 一緒に歩いてきたのに、ここからは互いの道をなんて。言えるわけ、ないじゃないか。
薬指に光るそれは、まだ輝きを失ってはいない。いつまでも、二人の手で輝いてほしいと願ったことは覚えている。今もその気持ちがあるかは、答えを出せないけれど。
君を嫌いになったんじゃない。むしろ、その逆なんだよ。好きだと伝えた、共に歩くことを誓った。じゃあ、その次は?
君はこのまま、僕の手を握って。年老いて、声がかれて。いろんなものが衰え、死が近づいたその時まで。ぼくのとなりに、いてくれますか?
「運命なんて、そう呼ぶしかないから仕方なく呼んでるだけ」
君はそういって笑う。
「大層な名前だけどさ。結局は、人生の一部でしかないよ」
少し開けた窓から、まだ冷たさの残る春風。白いカーテンが風に揺れている。
「どんな特別も。慣れればそれは普通のことなんだよ」
「・・・悲しいね」
「うん。そうかもね。だけど私はーーー」
「君の隣の『普通』は、とっても居心地がいいよ」
「・・・好きだよ。ずっと、ずっと」
「うん。私も」
なんでかな。涙が出てきてしまう。嬉しいのか、悲しいのか。分からない。分からないけれど。 止めることも、隠すことも出来ない。
「・・・こんな、僕だけど。これからも、一緒にいたい」
「こんな私ですが、どうぞよろしくね」
僕は泣いて。君は笑って、そう答えた。
重ねた手。いつか、しわくちゃになってしまうのだとしても。君といつまでも、こんな風に。
一緒にいることが、当たり前の運命をーーー
・・・いや。君の言葉を借りていいなら。
一緒にいることが、普通だと。君の隣で、生きていきたい。
終
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