自己紹介
【みう】
ふぅ、と浮き上がるように目が覚めた。
ぼんやり目を開くとサシャ兄に抱き締められたまま眠っていたようで、サシャ兄の胸元は私の涙やいまだに握ったままのせいでぐしゃぐしゃになっていた。
少し上向けばぐっすり寝ているサシャ兄の顔。
………格好いい、な………何かちょっと恥ずかしくなってきた……
何となく恥ずかしくて、でも起こしてしまうと思うと動けなくて、どうして良いかわかんないでいたら静かにドアの開く音がした。
「…よぉ、起きてたのか、
お嬢ちゃん。おはようさん。」
覗き込んで私が起きているのに気付いたみたいで、小さな声で話し掛けてきた、知らないおじさん。
「ぉ、はよう、ございます。」
知らない人に緊張したせいか凄く小さな声になってしまったけど、静かな部屋のお陰で聞き取れたみたい。
ニッと笑って優しく頭を撫でられた。
この人、見た目はちょっと怖いけど、サシャ兄みたいに優しい人だ。
何となくそんな風に思ってニコっと笑ったらまた笑い返された。
「サシャはぐっすり寝ているな。」
潜めた声で話しかけてきながら、どうやったのかすんなり私をサシャ兄の腕から取り出して抱き上げてくれた。
びっくりして同じ高さにある顔を見つめたら、悪戯っ子みたいな顔で笑われて、体から緊張が飛んでったみたい。
「嬢ちゃんが寝込んでた間、付きっきりでほとんど寝てなかったから、嬢ちゃんの熱が下がって安心したんだろうな。
もうちょっと寝かせといてやんな。」
そう言って私を抱き上げたまま静かに部屋を出ると、廊下を歩いて他の部屋に行く。
そこには綺麗な長いピンクの髪を一つに結んでテーブルにお鍋を置いてる最中の女の人と、足元にまとわりつくようにしながらお手伝いをしてる小さな二人の男の子が居た。
「まずは自己紹介からだな。
俺はローリィ・マクレーン。そっちにいるのが嫁さんのエマに6歳になる息子のロロとトトだ。見ての通り双子なんだ。」
私を食卓の椅子に座らせて向かいに座ったおじさんが口を開いた。
「若月美羽です。10歳です。」
「10歳!? 嘘だろっ!? どう見ても7、8さ、あだっ!」
「上手に自己紹介出来て偉いわね。ミュ、ミュー、ミ、ウ・・・ミウちゃん?」
合ってるかしら?とばかりに首を傾けるエマさんにコクコク頷く。
「あー、ワカヅキってのは名前じゃないのか?」
?
「名前です」
「あー、いゃ、そうじゃなくて、家名はどっちだ?」
「家名?」
ローリィさんが何を聞きたいのか分からなくて困ってたらエマさんが、コップを差し出しながら尋ねてきた。
「お父さんとお母さんにはなんて呼ばれていたの?」
お礼を言って一口飲んでみると、ちょっとすっぱくてすっきりする甘さのジュースが美味しかった。
「みう、とかみーちゃんって呼ばれてました。」
「じゃあ、ワカヅキ、がお父さんやお母さんとおんなじお名前かしら?」
コクっと頷くと、家族でおんなじお名前を家名って言うのよ、私達はマクレーンね、と優しく頭を撫でてくれる。
サシャ兄に撫でられるのも好きだけど、エマさんに柔らかく撫でられると何だかママやお姉ちゃんを思い出す。
ポカポカした気持ちになってたら、ローリィさんがまた尋ねてきた。
「それで、お前さんのお父さんとお母さんはどうしたんだ?」
ビクっ!?
思わず家族の最期の姿が目に浮かんでくる。
「ぁ、マ、マとパパは・・・ママと、パパは、お隣のお兄ちゃんが・・・お兄ちゃんが、夜寝てる時にお家に入ってきて、ママとパパを・・・それで・・・それで、美羽のお兄ちゃんがお姉ちゃんと美羽は逃げろって、でも、お姉ちゃんに押されて玄関出ようとしたら・・・したら、ぁ、ぇと、ドッカーンって、体が飛んで、気付いたら、森に・・・」
「すまん、悲しいことを思い出させちまったな。教えてくれてありがとよ。・・・辛かったな。お前さんは生きてて偉かった。」
ローリィさんの撫で撫ではサシャ兄より自然で、ワシャワシャ撫でる感じがパパみたい。パパに偉かったって褒められた気がして、思い出して悲しい気持ちがちょっぴり減った気がした。
「・・・ドッカーン? 爆発か? 衝撃で気を失ってる間に森に捨てられた?」
ローリィさんが小さな声でブツブツ呟きだした所で、今まで静かにジュースを飲んでいたロロ君とトト君が一気に喋りだした。