目覚め
【サシャ】
街に入った辺りからぐったりとして呼吸の荒くなったみうを慌てて知り合いの治癒士の所へ運び込んだ。
大怪我と精神的ショックによる貧血と高熱。
時折、うなされてうわ言を言う以外 3日間 目を覚ますことなく眠り続けていたみうが、治癒士に呼ばれて部屋を空けた僅かの間に目を覚ました。
森での出来事を思い出し、俺の体にしがみついて痛々しい程に泣き続けるみうをひたすら抱き締め、声を掛ける。
慟哭、と呼べる程の泣き声が外に漏れないよう部屋には防音結界を張っておいたが、外から結界にちょっかい掛けられちょっとイラっとしたので思念話を繋げた。
[お前! 話が途中だ…]
[…みうが目を覚ました。しばらく待ってろ。]
[…嬢ちゃん、目ぇ覚ましたのか。
様子はどうだ?]
[熱は大分下がってる。…が、今はちょっと出られない。]
[…分かった。落ち着いたら出てこい。]
それからしばらくは泣き続けるみうの背中を優しく根気強く叩いて撫でてあやしていたが、未だ体調が完全ではないのもあり俺の腕の中ですっかり泣きながら寝入ってしまった。
小さな体をゆっくりベッドに下ろすと、俺の胸元をギュッと握って離さない小さな拳が可愛くて可哀相で切ない…この感情は一体なんだろう?
出会ったばかりの幼い少女…同情か、保護を頼まれた故の保護者意識が既に出てきたのか…
とりあえずローリィとの話の続きだな。
結界を解いて念話で呼べば、丁度手が空いていたのかすぐさまローリィが扉を開けて入ってきた。
「待たせたな。」
「いや。嬢ちゃんは落ち着いたか?」
「あぁ、しばらく泣き続けてまた寝入ったよ。」
手早くみうの様子を診察するとローリィは一度首肯いた。
「まぁ、熱は微熱程度、まだ貧血は残ってるか。次に目を覚ましたらたらふく食わせて寝かせてを繰り返させればすぐ良くなる。」
「あぁ、有難う。助かった。」
素直に感謝の言葉を伝えればため息をつかれた。
「で、さっきの話の続きだが………引き取るつもりとは本気なのか?」
「まぁな。みうの保護者から死に際に託されて請け負ったんだ。みうにも話してる。中途半端にするつもりはない。」
「人一人の人生が掛かってるんだ。簡単には決められない事だ。子どもを育てるってのはお前が思ってるよりずっと大変なんだぞ。」
「………まぁ、そう思うけど…でも約束しちまったし、何よりもうみうは俺の家族だと思ってるから!
幸い暫く稼がなくてもやってけるだけの蓄えはあるし、何とかなるさ!」
俺がニカッと笑って言えば、やれやれ、と言わんばかりに深いため息をつくローリィ。
「まぁ、何かあったら相談しろ。決してお前一人で抱え込むなよ。」
なんだかんだ結局そんな事を告げるお人好しの知人の姿に感謝しながら、早速これからの予定を相談することにした。