7.テントにて
「こんにちはー。新生”エリスと愉快な仲間たち”が新たな仲間を加えて帰ってきましたよー」
装備を整え、レイルお勧めの店で昼食を済ませた俺たちは再度冒険者ギルドへと戻った。どうみても旅には必要なさそうな服が女性陣の最新型ポーチとやらに吸い込まれ、残り39枚の金貨がレイルの手元に旅立っていったが、気にしないでおこう。
「あら、ずいぶん可愛い子を仲間にしたわね。これでエリスはこの町で一番可愛いFランク冒険者から、胸が一番大きいだけのEランク冒険者にランクアップね」
アリエラがにこやかにほほ笑みながら厳しいことを言う。
「アガサと申します。この町一番の可愛い奴隷でございます」
「冒険者ギルドのアリエラよ。マイクはエルフ族が大好きねー。しかもこんな派手な格好させて。パーティー名は”エロフーズ”でいいかしら?」
「”エリスと愉快な仲間たち”だよー!それより、Eランクの依頼を受けさせてよ。近くの町まで魔法石を届けに行く仕事はもううんざりなんだから」
エリスが、期待に満ちた目でアリエラを見つめる。
「Eランク冒険者の仕事は、遠くの町まで魔法石を届けるお仕事よ」
あっさりと言うアリエラの前で、エリスはカウンターに突っ伏した。
「あのね。開拓村へ魔法石を届けるっていうのは、冒険者にしかできない重要な仕事なのよ」
アリエラが、よしよしとエリスの頭を撫でながら話し始める。
「マイクもアガサも初めてだろうから、ちょっと各ランクの冒険者の仕事について説明しておきましょうか。まず、Fランク冒険者の仕事は、近くの開拓村まで魔法石を届けること。街道を通って開拓村へ行って来るだけだから、ほとんど危険はないわ。真面目に仕事ができる人か判断するための見習い仕事っていう意味合いが強いわね」
「Eランク冒険者になると、遠くの開拓村まで魔法石を届けることになるんだけど、これは野営に慣れる訓練も兼ねているの。そして、Fランク冒険者との違いは、行きか帰りに暗い森との境界付近を通り、魔物を討伐することよ。これによって、開拓村の安全を確保する狙いがあるの」
「そっかー!じゃあ、これからは戦闘があるってことね!」
まるで初めて知ったようにエリスが喜ぶ。この説明は俺とアガサ向けのはずなんだが。きっと、忘れちゃったんだろうな。
「前、言ったわよね?胸が大きいだけの頭空っぽちゃんにランクアップさせるわよ」
「お、覚えてるよ。確認のために言っただけだよー」
「まあ、いいけど。一応言っておくと、Dランク冒険者になると魔法石を届ける仕事からは免除されて、魔物の討伐が主な仕事になるの。暗い森に分け入って魔物と戦い、魔力だまりやダンジョンを見つけることがが役目ね」
「Dランクに上がるには、どうすればいいんだ?」
魔力だまりやダンジョンといった耳慣れない言葉が出てきたが、それはDランクになってから教えてもらえばいいだろう。なってもいないランクの仕事を聞いてもしょうがないからな。
「一定の戦闘能力があることを証明する必要があるの。大魔石を持っているような魔物を倒すというのが方法の一つね。でも、Eランク冒険者は、暗い森に入ることを許されていないから、そんな強力な魔物にであることは本当にまれよ。通常は、1年間Eランク冒険者として活動した後に、Dランク冒険者のうち貢献度が低いパーティーと入れ替え戦をするのが普通ね。模擬選で勝つことができれば十分な戦闘力があると認められてDランク冒険者になることができるわ」
「そうやって、EランクとDランクの冒険者を、暗い森周辺で活動させることによって開拓村を守り、それによって冒険者ギルドは国から運営資金を得ているわけ。大事な仕事でしょう? エリス」
「うん!Eランク冒険者としてがんばるよ!」
「じゃあ、今回の行き先を決めましょうか。えいっと!」
そう言いながら、アリエラはカウンターの中の引き出しから書類を一枚引き抜く。まさかのランダム抽選方式である。ダーツの旅方式じゃなかっただけよしとしよう。
「じゃじゃーん。行き先はピピン村ね。ここから普通に歩いて10日くらいの距離にある村よ。ここへ、魔法石を運んでもらうのが今回のお仕事。これでいい?」
「大丈夫だ。それで頼む」
「じゃあ、お願いします。緊急性のある仕事じゃないし、初めての旅だろうから、自分たちのペースがつかめるまでゆっくり行ってもらっても大丈夫よ。行きは暗い森との境界を進んで魔物退治をするのが普通。帰りは街道を戻ってきてもいいわよ」
「分かった」
「すぐに出発します?それとも、今日は宿にとまって3人で楽しんでから出発?」
「まだ、そんなんじゃないよ!」
「私はご主人様のお望みのままに痴態をさらす覚悟でございます」
油断するとすぐ下世話な話にもっていこうとするアリエラ。真っ赤になるエリス。なぜか、やる気まんまんのアガサ。
「いいじゃない。エリス。Eランク冒険者になったから銀貨亭に泊まれるよ?」
「あたしは、銅貨亭だって気に入ってるけど」
「銅貨亭の固いベットでがんばったら、マイクは膝が擦れて痛くなっちゃうし、エリスとアガサのお尻の皮が剥けちゃうよ?銀貨亭のふかふかベットのほうがいいって」
「ご主人様、銅貨亭というのは銅貨3枚程度で泊まれる安宿のことです。これに対して銀貨亭は銀貨1枚する高級な宿でございます。もちろん、この上に金貨亭というCランク以上の冒険者や貴族が止まるような宿も王都にはございます」
アガサがこっそりと教えてくれる。記憶はないが知識は豊富だ。
「そーゆーことをする予定はないから!」
「私はご主人様の望むままです」
「マイクは、そんなこと望まないよ!あたしはマイクのこと信じてるしー」
急にエリスの俺に対するハードルが高くなった!信用してくれるのはうれしいが、それは本当に信用していると言えるのだろうか?信用していたら全てを委ねてもおかしくないはずだが。
「せっかく装備も整えたんだし、すぐに町を出よう。帰って来て報酬を得てからどちらの宿に泊まるのか決めればいい」
「じゃあ、魔法石をとってきますから、待っていてください」
そう言ってアリエラがカウンター奥の部屋へ入って行った。それを見たエリスが、アガサの耳元でこそこそと話す。
「なんで膝が痛くなるんだろう?女神の加護があるから、固いベットで寝たぐらいじゃ大丈夫なのにね」
「きっと、アリエラ様は寝相が悪いんですよ」
まさか二人とも分かってないんじゃないだろうな。いや、アガサのあの人の悪そうな笑みは分かって言っているに違いない。ちなみに、後で聞いた話だが、そういう行為の時には女神の加護は働かないそうだ。多分、女神が嫉妬しているからに違いない。
「じゃあ、この魔法石を村長に渡してください。村長の指輪をギルドカードに当ててもらえば、依頼が完了したことになります」
そう言いながら、アリエラが袋を渡してくれる。
「じゃあ行くか」
「アリエラ。行ってくるねー!」
「アリエラ様。行ってまいります」
「はい。気を付けて。無事に帰っていること願ってるわ」
アリエラに見送られ、俺たちは冒険者ギルドを後にした。町の中を抜け、門へ着くと今日はモーガイが門番をしていた。
「おっ!エリス。Eランクになったらしいな。気を付けて行って来いよ」
「うん。マイクもアガサも一緒だし、大丈夫だよー」
にこやかな笑みを浮かべながら歩いていくエリス。その後ろには、アガサが静々と付いていく。俺も遅れないように行こうとすると、モーガイに呼び止められた。
「俺のために二人のエルフ族を比較してくれるとは。お前ほど素晴らしい奴はいないな、マイク!」
「いや、別にそんなつもりじゃないんだが」
「おいおい、照れるなよ。長旅にはチャンスがいっぱいある。結果報告を楽しみにしているぞ!」
「まあ、期待しないで待っていてくれ」
長話をしていては、二人に遅れてしまう。適当なところで話を切り上げ、エリスとアガサの後を追う。
「モーガイと何を話してたの?」
「たいした話じゃないよ。冷静さと情熱。戦いにはどちらが大事かっていう話だった」
「なるほど。それでご主人様はどちらが大切だと思っているのでございますか?」
アガサは、まるで話の内容を分かっているような顔をして問いかける。
「どちらも大事なんじゃないのか?さて、早速行くか!」
なんとなくばれているような気がして、ついつい大きな声を出してみる。
「そうだね。出発だー!」
「私たちの旅は始まったばかりでございますー」
気になることを言うやつが一人いるが、気にせず歩き始める。町の傍だからなのか、それとも先日ゴブリン達の巣を潰したからなのか、特に魔物に出会うこともなく夜になった。
レイルお勧めの冒険者セットを使い、アガサが食事を作ってくれる。うまい。燃焼石を弱めに光らしておけば、このあたりでは大丈夫とのアガサの言葉を信じ、レイル商会特製の最新型テントに3人でもぐりこみ寝ることにした。
*
「へろー。へろー」
なにやら不思議な声がすると思って目を開けると、そこには、なぜか眼鏡をかけ、女教師風の格好をした女神が建っていた。ミニのタイトスカートに、サイズの合っていないストライプのブラウス。ぱっつんぱっつんの胸元を見ていると、視線に反応するように突然ブラウスのボタンがはじけ飛び、黒い下着がちらりと見える。
「いやーん」
「いやーん。じゃねーよ」
胸を両腕で隠すどころか、むしろ強調するように押し上げながら、なぜか片足立ちポーズをとる女神を見ながら考える。
「ひょっとして、今俺は寝てるのか?」
「そうですよー。ここは夢の世界です。まーいく?」
「いや、確かに英語の教科書に出てきそうな名前をうっかり名乗ってしまったのは後悔してる。だからって、片言の英語みたいな真似はやめろ」
「今日の私は、異世界美人女神女教師です」
「教師の前につく言葉が多すぎる!女神なんだから、その後の女はいらなくない? 大体、観察する以外に行動できないじゃないのか?」
「今回はスペシャルなんです。Eランクにランクアップしたミスターマーイクにコングレッチュレーションするためにドリームにカムしたわけです」
「だから、片言はやめろ。いくら、眼鏡をくいっとしても馬鹿にしか見えないから」
「普通は、ランクアップしたときに録音した声を聞かせるだけなんですよ。パンパカパーンって。マイクさんは特別です」
「そりゃ、ありがとう。じゃあ、もう寝るから帰っていいかな?」
「すぐ帰りたがらないで下さいよー。あれですか、もう立ち耳エルフと、寝た耳エルフがいるから女神には用無しってことですか? ずいぶんと偉くなったもんですねー」
「そ、そんなことねーよ。じゃあ、ちょっと話していってもいいけど」
「ずいぶん上から目線じゃないですか。さすがエロフーズのリーダー」
「そんなパーティー名じゃないけどな。大体エロフーズなんて言葉がでてくるのがおかしくないか?そうかと思うと、一般人は魔法が使えなかったり、魔法を使うと魔物が生まれるとか。緻密な設定とガバガバな設定が混在してるじゃねえか。」
「秘密のところがガバガバなんて、ひどいですー!」
女神が怒ったように言った後、なぜか顔を赤くしてもじもじする。
「それに、もし私がガバガバだったら、マイクさんのせいじゃないですか」
「そんなところの話はしてねーよ。頭がガバガバなんじゃないのか?」
「ガバガバ言わないで下さいよ。しょうがないじゃないですが、最初のうちは頑張って矛盾のない世界を考えてたんですよ。でも、ゲームとかアニメ見てるほうが楽しくて、つい提出期限がきちゃって」
「ほら、あれですよ、読書感想文の一枚目だけ字が綺麗だったり、最初の10分だけ凄いCGが使われている映画みたいな」
「そういうのを尻切れトンボっていうんだ」
「え、そんなお尻が綺麗だなんて。アガサちゃんより綺麗ですか?」
「聞き違え多すぎだろ」
「大きい胸は、嫌いですか?エリスちゃんよりちょっとだけ小さいですけど」
「さりげなく、そういう方へ話をもっていってごまかすなよ。そういえば、ちょっと聞きたいことがあったんだけど」
「なんでしょう。まさか、この異世界セクシーダイナマイツ美人女神女教師の存在を疑っているんじゃないでしょうね。あんな小娘の中二病的な妄想を信じるんですか?」
「信じてるわけじゃないが、証明できる手段もないしな。俺が40歳の地球人だったのか、それともこの世界にもとからいて記憶を消されたマイクなのか。そのどちらでもない、2日前に作られたばかりの魔物かなにかなのか」
「なるほどー。でも、その答えは私が教えてもしょうがないですね」
「そうだな。その答えは自分で納得できるまで探すしかないんだ。そのためにこの世界で強くなる必要がある。でも今の俺の強さは、女神らしきなにかにもらった仮初の強さなんだ。頼れるようなもんじゃない」
「ほうほう。自分が信じられないわけですね。じゃあ、アガサちゃんに鍛えてもらったらいいじゃないですか。」
「そんな急に強くなれるわけないだろ。努力もせずに強くなっても不安が増すだけだしな」
「まったく面倒くさい人ですね。女神からもらった力で俺ツエーでいいじゃないですか。でも、そんなあなたに朗報! これです、いーちにちーせんしゅー!」
「なんだそりゃ?どう見ても一万円札にしか見えないんだが」
「自分で修行すれば満足できるんでしょ?アガサちゃんに鍛えてもらうときにこの不思議アイテム一日千秋を胸に挟んでもらうとですねー。なんと1日が千年になっちゃうんですよ。つまり、一日一時間修行するだけで……えーと、とにかくたくさん修行できちゃうわけです」
「すごいアイテムぶっこんできたな。そんなズルして大丈夫か?」
「ズルじゃないですよ。こんなクイズを知ってます?1分で2匹に増える虫がビンの中に入っていて、ちょうど一時間でビンが一杯になるとします。じゃあ、最初に虫を2匹入れたらどうなるでしょう?」
「半分の30分になると思わせておいて、59分で一杯になるんだろ? 知ってるよ」
「そうそう!そういうことです、このアイテムはせいぜい最初の虫を2匹いれる程度のことなんですよ。半分になってズルしてると思うかもしれませんが、実は最初のちょっとした手助けをしてるだけなんです。ついでに最初に与えた強さもなしんこにしておきますよ。せいぜい、自分の力だけで強くなってみてください」
「悪いな。せっかくもらった力なのに迷惑みたいなこと言って」
「いえいえ。そういうちっぽけでまったく意味のない虫けらのようなプライドって大事ですよね」
「全然、大事そうな感じがしないんだが……でも、俺にとっては大事なんだ」
「まあ、せいぜいアガサちゃんとがんばって、修行してください。開拓村につくまでの10日間もあれば、100年連れ添った夫婦のようになれますよ。せいぜい頑張って下さい。……それより、20歳の体はどうですか?エリスちゃんの耳の様になってます?」
そこで、女神は再度メガネをくいっと直すと上目づかいでこちらを見た。
「もちろんメガネは外さない方がいいんですよね?」
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