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3.冒険者ギルドにて

「でも、ついてたよねー」

 前を歩くエリスが上機嫌で話しかけてくる。言ってることに間違いはないので、頷いた。

「そうだな」

「反応薄いなー。だって金貨200枚だよ? うれしくないの?」

 エリスは不満そうだ。

「うれしくないわけじゃないが、もともと俺の金なわけじゃないしな」

「そりゃ、そうだけどさ。魔物を倒した時に得られた報酬は、冒険者のものっていうのは常識だよ。文句つける人なんていないよ」

 何とも現実的なことを言うエリス。この世界の女性が強いのか、この世界ではそのような考えが一般的なのか。多分、両方なんだろうな。死んだ人間のことを考えているようじゃ生きていけない世界なんだろう。

 気持ちを切り替えて、明るい声を出す。

「確かに、金はいくらあっても困らないからな」

「そうだよ!金貨200枚あったら、ちょっとした家なら買えちゃうくらいなんだから」

 エリスがびっくりするようなことを言う。金貨200枚で家が買えるのか。どうも金銭感覚が分からないな、なんとなく金貨1枚が1万円ぐらいのつもりでいたんだが、どうも間違っているようだ。金貨1枚で10万円ぐらい、金貨200枚で2000万くらいの感覚なのか?

「そりゃすごいな。でも、エリスはいいのか? 俺は山分けでもいいんだが」

「いやー。さすがに悪いよ。助けてもらった上に報酬までもらうなんて」

 手を振りながら、エリスが言う。

「でも、パンツ脱いだり、頑張ったじゃないか」

「頑張って脱いだわけじゃない。脱がされたんでしょ! むしろ、脱がされないように頑張ったよ!」

 顔を赤くしながら、エリスが叫ぶ。さすがに恥ずかしい体験だったようだ。だが、それにしては不思議だと思いながら、エリスの服装を見る。

 足には、何の皮でできているのか知らないが、多分革製であろうブーツを履いている。これは、いいだろう。確かに冒険者っぽいといえる。だが、その上がいけない。深緑色の膝上のミニスカートに、薄い緑のキャミソールのようなものを着ている。しかも、生足だ。

 これが普通の冒険者の格好なのか? 非常に疑問である。しまむらかどこかで買ってきたような服だ。防御力とか考えないのか? 一応、エルフらしさを出そうとしているのか、緑色で統一されているのが救いか。

「そんな服着てたら、すぐに脱がされて当たり前だろ」

 そう言い返すと、エリスはおかしそうに答える。

「服は別になんでもいいのよ。冒険者になればFランクでも女神の加護があるんだから」

 なんにも知らないのねー。と言わんばかりの顔だ。イラッとくるな。だが、知らないことなのも事実だ。

「女神の加護って何だ?」

「冒険者ギルドに登録した人っていうのは、女神様のために働くわけじゃない? だから、ランクに応じて女神様の加護が得られるの。身体能力も強化されるし、旅をするのに楽なように暑さ寒さからも守ってくれる。病気にもかかりにくくなるしね」

「そりゃ、凄いな」

 そんなに働いてるのか女神。いや、別に女神が働いているわけじゃなくて、この世界のシステムがそうなっているってことか。

「もちろん、魔物の攻撃には完全に耐えられる訳じゃないんだけど」

「じゃあ、防具が必要だろう」

 疑問に思って聞くと、エリスが顔をしかめながら答える。

「何でかは分かんないんだけど、普通の防具じゃ魔物の攻撃は防げないのよ。防げるとしたらすっごい高価な防具なんだろうだけど。それこそ金貨200枚でも足りないんじゃない?だから、普通の冒険者っていうのは防具をつけてないのが当たり前なの」

「なるほど……女神の加護っていうのは、いつでも有効なのか?」

「ううん。このギルドカードを身に着けている間は有効みたい」

 そう言いながらエリスが自分のものらしい、首から下げているカードを胸元から取り出す。カードを見るべきから、胸の谷間を見るべきか迷うが、カードのほうを見ておくことにする。

 カードには、Fランク、ナマエ:エリス、ネンレイ:23と書かれていた。右下の隅っこに、女神が祈りの姿をした絵のようなものが描かれている。そして、どう見ても材質は紙だった。印象としては夏休みのラジオ体操の用紙に近い。騙されてんじゃないの?この子。

「ほら、裏も見て!」

 なぜか嬉しそうにエリスが裏側を見せる。そこには、まるでラジオ体操のように10個のマス目があり、10個のハンコが押してあった。

「Fランクの依頼を10回達成すると、Eランクにあがれるの!これをギルドに持っていけば、いよいよEランクのカードがもらえるんだー。これで一人前の冒険者だよ!」

 満面の笑みである。どうやら、Fランクのカードはいってみれば見習い期間のようなものらしい、それならばこの安っぽさも納得だ。それよりも重要なことがある。どうやら、この世界の文字表記は、カタカナと数字だけらしい。まるで8ビットパソコン時代のゲームのようだが、これで一応読み書きも問題ないことが確認できた。

「そういえば、エリスさん。なんでゴブリンに捕まってたんですか?」

「なんで急に敬語! いいんだよー、あたしのほうがお姉さんだけど、気にしなくて。……あれはねー、ちょっと近道しようとしたら、落とし穴に落ちちゃって……」

「へー。さ、早くしないと町に着けなくなっちまう。急げよ。エリス」

「急に上から目線!切り替え早すぎるよ!」

 聞くべきことは聞いたし、目の前に街道も見えてきた。とりあえずは、町へ急ぐとしよう。


   *

 

 しばらく街道沿いに歩き続けると、森を抜けた先に町が見えてきた。町は全体に壁で囲まており、出入り口であろう門があった。中心には塔のようなものが見え、それを中心に建物が建っているようだ。町が見えてきて、元気になったのか早足になるエリスを追いかけるように門へと近づいていく。

「エリスじゃねえか。昨日戻ってこなかったからアリエラが心配してたぞ」

 門番であろう40過ぎの男がエリスを見て声をかける。

「ごめんね、モーガイ。ちょっと、失敗しちゃって。町にくる途中だったマイクに助けてもらったのよ」

 エリスが、男に向かって謝るような姿勢で答え、自分のギルドカードを見せながら紹介してくれる。どうやら、町へ入るにはカードを見せる必要があるらしい。困っているとモーガイが話しかけていた。

「冒険者志望か? 魔族でなければ町に入るのには、銅貨1枚はらってくれりゃいい。」

 魔族かどうかは、門番の目で判断するだけらしい。銅貨1枚をモーガイに手渡し、できるだけ悪意のなさそうな顔をしていると、モーガイが小声で話しかけてきた。

「うまいことやったな、マイク。昔からエルフの耳と男のあれはピンと立ってたほうがいいっていうからな」

 ことわざの類なんだろうが、初めて聞く言葉だ。良くわからない、という顔でモーガイを見つめると、さらに小声で言ってきた。

「ピンと耳の立ったエルフっていうのは夜凄いらしい。俺の友達が言ってたんだけどな」

 気になったのか、こちらを振り向くエリスにちょっと待つように手を振り、エリスの耳を見てみる。確かにエリスの耳はピンと立っていた。

「手続き終わった? 早くギルドに行こうよ」

 そう、声をかけてくるエリスに向かって歩き出しながら、モーガイに片目をつぶってみせる。モーガイはすべてわかっているような顔で、うんうん頷きながら。「後で、結果を教えてくれ」とささやいた。

「さて、ギルドはどっちなんだ?」

「あの、中心の塔の一階が冒険者ギルドになってるの。町をみたいだろうけど、ギルドカードを作ってからのほうが便利だろうから、先に行こう」

 そう言いながら歩き出すエリスと並んで歩きながら、自分のものについて考えてみる。20歳に若返っているわけだから大分ピンとしているはずだが、どうだろう。今朝は、エリスと一緒だったから落ち着いて観察するような状況じゃなかったからな。

 そんなことを真剣に考えているうちに冒険者ギルドの前に着いた。まるで正月の鏡餅のような円形の2階建ての建物の上に煙突が付いたような不思議な形をしている。

「静かだったけど、何か考え事? でも初めて町に来たんなら、珍しいものばっかだよね。あたしだって最初に来た時はきょろきょろしてばっかだったからねー」

 そう言いながら、エリスが扉を開け、中に入っていく。何か勘違いしているようだが、まあいいだろう。エリスに続いて、初めての冒険者ギルドへ入ると、そこはまるで市役所の受付のようなところだった。

「ごめんねー、アリエラ。ちょっと失敗しちゃって」

 エリスが、そういいながら一人の受付嬢のところへ近づいていく。彼女が、さっき門番のモーガイが言っていたアリエラなのだろう、いかにも受付嬢らしく白のブラウスのようなものを着ている。スレンダーな体つきの知性的な容貌をした美女だった。年齢は、エリスよりも上、28ぐらいかな。髪の毛はセミロングで栗色、頭の上には猫耳のようなものが……いや、本物の猫耳がついていた。

「心配したわよ。今頃ゴブリンのトゲトゲ付きで大人の階段を上っている頃かと……」

「登ってないわよ!ちょうどあの人に助けてもらったの」

 知性的な容貌のくせに、いきなり下世話なことを言い出すアリエラに驚いていると、顔を赤くしたエリスがこちらを向く。

「冒険者志望のマイクだ。パンツが膝まで下ろされているところで助けた」

 アリエラが喜びそうなコメントを加えて自己紹介する。エリスの顔がさらに赤くなるが、アリエラの顔は満足そうだ。

「いい人じゃない。冒険者ギルドのアリエラよ。獣人族です」

 獣人族か。この世界へきて2種族目だな。カウンターに近づくと、アリエラの背中越しに、ふさふさした尻尾が見える。語尾が普通なのが気になるが、常に変な語尾をつけられても困るしな。

「それより、見てよアリエラ。やっとFランク脱出よ!」

 顔色の戻ったエリスが、自慢げに胸からラジオ体操カード、いや、ギルドカードを引き出し、裏面をアリエラに見せる。

「あら、おめでとう。巨乳エルフにお使いは頼むなっていう言い伝えを無視して、依頼をし続けたかいがあったわね」

 ブロンドは馬鹿が多い、みたいな言い伝えだろうか。この世界にはエルフにまつわる民間伝承が多いらしいな。

「いや、そんな大きくないから。これくらいは有能さの証だよー。それより、早くランクアップしてよ」

 エリスが無駄に大きい胸を張りながら言う。自分のことを言われているのが分かってないのかもしれないな。だが、どうやってランクアップするのかは気になる。一緒にアリエラを見ると、アリエラは事務的な動作でエリスのギルドカードを受け取り、カウンターの上にあるスタンプを押して返した。

「え? それだけ?」

 隅に描かれている女神像を大きくしただけのスタンプを押されたギルドカードを見て、エリスががっかりしたような声をあげる。確かにこれでは、がっかりだ。だが、次の瞬間ギルドカードが仄かな明かりを発し始めた。

 次の瞬間、エリスが何か聞こえたような顔をすると、あたりをきょろきょろと見回す。アリエラが、ほほ笑みながら、エリスに話しかけた。

「女神様の声が聞こえた? あっ、何て聞こえたかは言わないでね」

 この問いに、エリスが首をぶんぶんふって頷く。何か、驚くようなことを言われるらしい。

「変わってるー!」

 今度は、何かと見るとエリスの首から下がっている元ラジオ体操のカードが、薄い銅版のようなカードに変わっていた。

「見て見てー、マイク!」

 エリスが、カードをこちらに向けて見せる。今朝の失敗を思い出したのか、ネンレイのところにさり気なく人差し指をあてている。さすが巨乳エルフだな。

「おめでとう」

 一応、お祝いの言葉を述べ、カードを見る。確かにEランクと刻印されている。

「自慢してくるー!」

 そういって、エリスはロビーのような場所へ向けて走って行った。Eランクになったせいなのだろうか、若干足が速くなって、胸の揺れが大きくなったような気がする。

 そんなことより、ここへ来たもう一つの目的をすっかり忘れているな、苦笑いしながら、アリエラのほうに向かう。

「すみません。冒険者登録をお願いします」

「はい。承ります。……その前にエリスのパンツが下りてた時のことなんだけれど……」

「ああ。ちゃんと上下揃いの色でしたよ」

 ニヤリと笑いながら、満足げに頷くアリエラの前の椅子に腰かけた。

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