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32.岩の城にて

「さあて、行くとしますか」

 膝を曲げたり伸ばしたりしながら、呟く。

「マイクって、たまにそれやるよねー」

「そうでございますね」

 エリスとアガサが、俺のまねをして屈伸する。

「なんか、意味があるの?」

「いや、特に意味はないが……何となく、やる気がでるだろ?」

 屈伸するエリスとアガサの、スカートの中を覗き見ながら、答える。今日の二人は、いつもの金貨八十枚の服だ。屈伸に合わせてエリスのスカートからはチラリチラリと下着が見えるが、なぜか、アガサのスカートは鉄壁の防御を誇る。いったいどういう仕掛けなんだろう。

「そうでございますか。何やら別のやる気が出ているようでございますが」

 アガサが、俺の視線をとらえてクスリと笑う。

「どちらにせよ、やる気がでるのはいいことさ」

 立ち上がって、最後に大きく伸びをする。

「それで、どうやってあの岩までいけばいいんだ?」

 後ろにいた、エメルディアに振り返る。エメルディアは、手に持った大きな杖を掲げた。

「女神様が、最後の力を私に使わせてくれるそうです。多分、最後の魔法になると思いますが、それで、あなたたちをあの岩の上まで運びます」

「すぐに、できるのか?」

「ええ、マイクさんが良ければ、今すぐにでも」

 エメルディアが杖を前に出し、目を閉じる。

「おう、マイク。もう行くのか?」

 エメルディアの背後から声がして、ライルとガブリエルが俺達のいる、王宮のテラスへと入ってくる。

「ライル。それにガブリエラも。どうしたんだ?」

「決戦だと聞いてな。一応見物にやってきた」

 ライルが笑いながら、俺の肩を叩く。

「そうか。まあ、ゆっくり見物していってくれ」

 ライルの肩を叩き返し、ガブリエラを見る。ガブリエラは、さっとローブを脱ぎ、チアガール風のタンクトップとミニスカート姿になる。両手には、ボンボンつきだ。

「が、がんばってくださいね! 侯爵。応援してます!」

 ガブリエラが、ボンボンをもった両手を高く上げ、フリフリする。もちろん、一緒に胸もフリフリ、俺の目もフリフリだ。

「さて、今度こそ行くか。エメルディア。頼む」

 テラスの先端に立つ俺に、アガサとエリスがしがみつく。

「分かりました。…‥‥風よ、風よ、豊かな緑の森より吹く風よ、我らが果樹園より吹く風よ、強く、大きく、優しく、全てを未来に向かって運んでおくれ……」

 エメルディアの詠唱に合わせて、俺たちの周りに小さい竜巻のような風が巻き起こる。その風は、徐々に強くなり、気づくと俺たちの体は、地面から浮き上がっている。

「じゃあ、いってくるぜ。朗報を期待しててくれ!」

「いってくるねー」

「行ってまいります」

 全員が、別れの挨拶を告げると、さらに強くなった風は、俺たちを大空へと運んだ。


   *


「よっと」

 上空から見ると、岩の塊の上部に白のようなものが、立っているのが見えた。俺たちは、白の前の庭になっている場所に着地する。

「すごい、魔法だねー。あんなに遠いところから飛ばすなんてー」

「本当でございますね。さすが、エルフ族の女王でございます」

 エリスとアガサが、遠くに見えるエルフ族の王宮を振り返る。ここから、見るとまるでおもちゃの城のようだ。だが、あの小さな城にも、そしてもっと遠くにある、王宮や町にも俺にとって大事な人や、これから大事になるであろう人達がいる。俺は、気を引き締め直して叫んだ。

「よっしゃー。行くぜ、金さん、銀さん!」

「おー。久々だねー、それ」

「やる気十分でございますね。ご主人様」

 二人に声を掛け、城へ向かって走り出す。近づいていくと、巨大なゴブリンや、巨大がオークが何体も城の入り口を守っている。

「おお、いっぱいいるな。アガサ!」

 アガサに、叫ぶと心得たとばかりに頷いたアガサが、文言を唱え始める。

「私は、ご主人様の、領土であり、領民であり、騎士でございます。常に私はそばにあり、ご主人様のために敵を屠ります。……わが身は数多の世界で、女であり、剣であったもの。今この時こそ剣となりて、御身のお役にたちましょう」

 アガサの体が、銀色の霧となり、やがて俺の手の中で剣を形作る。

「今日は、しょっぱなから本気だぜ!」

 俺は、剣に力を込める。アガサが成り変わった剣は、俺の力を受け止め、まるで吸い取るように、どんどん力をため込んでいく。

「エリス!、後ろへ下がってろ!」

 俺は、エリスに向かって叫び、前にいる巨大なゴブリンと、オークどもに向かって、横薙ぎに剣を振るった。まるで、ケインが使う技の様に、俺の剣から巨大な衝撃波が発生する。

 ドカーン!

 衝撃波は、全ての魔族どもを巻き込み、切り裂きながら城の正面扉を破壊する。

「おー。すごいじゃないー。マイク」

 エリスが、飛び跳ねながら拍手する。

「まあな。練習のかいがあったな」

 俺は、エリスに笑いかけながら、城の中へと入っていった。

「誰も、いないな」

「そうだねー。さっきので全部だったんじゃない? すごい数の魔石だったからねー。これで、あたし達大金持ちだよー」

「王女なのに、庶民臭い事いうなよ」

「いいじゃないー。別に王宮に戻るつもりはないんだからさー。ずっと、三人で冒険者を続けようっていったじゃない」

 エリスと軽口を交わしながら、城の中を歩いていく。本当に、さっきの連中だけだったのか、城の中は静かなものだ。

「楽勝だねー。あとは、女神様を取り戻すだけだよー」

「油断するなよ。まだ、大物がいるに違いない」

 エリスを窘め、ゆっくりと広い廊下を歩く。突き当りには、またしても大きな扉が見える。

「あの中かなー。多分大広間だよねー」

「そうなのか?」

「城の作りっていうのは、大体同じだからねー。エントランスの先には、舞踏会をしたりする大広間があるのが普通だよー」

 エリスの言葉に頷き、扉へと向かう。俺たちは、近づくと扉がゆっくりと開いていく。

「どうやら、お待ちかねだったようだな。気を付けろエリス」

「分かったよー。援護は、任せといて」

 エリスが、弓を構えて部屋の中へ向ける。俺は、剣を構え直し、足を踏み入れた。


   *


「待っていたよ。侯爵」

 部屋の奥で椅子に座っていた魔族が立ち上がりながら、声を掛けてくる。

「女か」

 魔族は、女のようだった。褐色の肌に、露出の多い黒いドレスを着ている。深いスリットから、肉付きのよい太ももが見えている。髪は紫で、いかにもといった羊のような角が生えていた。

「女は斬れないかい? 侯爵」

 真っ赤な唇をゆがめながら、馬鹿にしたような口調で魔族が言う。

「いや。必要があれば斬るさ」

 俺は、正眼に剣を構えて、ゆっくりと魔族に近づいていく。魔族の女も、椅子の横に立てかけていた、豪華な剣に手を伸ばし、無造作に構える。

「あの連中を一撃で倒すとはねえ。聞いていたよりもずいぶん強いようだ」

「だれに聞いたかは知らないが、少なくとも今日の俺の話じゃないな」

 うそぶく俺に、魔族の女が笑い出す。

「なかなか、楽しい男のようだねえ。あたしは、ミレーヌ。魔王様に仕え、この世を滅ぼすものよ」

「マイクだ。女神を救い出し、そのあとはのんびりと暮らすつもりだ」

「つまらない夢だね。何なら、あたしたちと一緒にこないかい? 今なら、魔王様にお願いしてやってもいいし、あたしの下僕にしてやってもいいのよ」

「やめとくよ。女はもう十分いるからな」

 俺は、ゆっくりと剣に力を込めていく。相手の力量が分からないが、さっきの連中より弱いってことはないだろう。できれば先手を取りたい。

「ふん。つまらない夢の、つまらない男め。せいぜい、死ぬ前にあたしを楽しませるんだね」

 ミレーヌが、剣をしっかりと握る。もう、話は終わりらしい。

「じゃあ、行くぜ!」

 俺は、いきなり剣を縦に振る。先程とは違い、収縮された衝撃波がミレーヌへと向かう。

 ドーン!

 大きな音がして、ミレーヌが座っていた椅子が吹き飛び煙があがる。

「やっつけたー? マイク」

 エリスが後ろで叫ぶ。俺は、手でエリスを制し、煙をじっと見つめた。やがて、煙が薄くなっていき、バチバチと音がする、檻のようなもので守られたミレーヌの姿が見える。

「なんだ、ありゃあ?」

「魔法だよ。マイク! 雷の魔法で身を守ってるんだよー」

 驚く俺に、エリスが叫ぶ。

 魔法? 魔法だと? この世界から、強力な魔法は失われたんじゃなかったのか?

 俺は、雷の魔法で身を守るミレーヌの背後に今まで見たこともないような、大きな魔石があることに気がついた。

「エリス! あの魔石を狙えるか?」

 俺の言葉に頷いたエリスが、弓を構え矢を放つ。狙いたがわず、矢は一直線に魔石に向かう。

「はっ! その程度で!」

 気づいたミレーヌが、剣から雷の魔法を飛ばして撃ち落とす。今だ! 俺は、ミレーヌへ攻撃できる、可能性のある俺達を、ミレーヌの四方に出現させる。

「いただきだ!」

 四方の俺が、同時に剣を振り下ろしミレーヌを狙う。

「馬鹿め!」

 だが、ミレーヌもそれに気づき、俺の攻撃よりも一瞬早く防御の檻を作り上げる。

「ぐあああぁ」

 雷に切りつけた俺たちが、電気ショックで弾き返される。ちくしょう、隙をついても駄目なのか。俺は、いったん距離を取る。攻撃に集中し過ぎた。いつもの様に回避してからの、攻撃に活路を見出すしかない。

「おやおや、急に縮こまってどうしたんだい? もっと遊んでおくれよ」

 ミレーヌが、剣から雷撃を飛ばす。俺は、いつものように回避しながら、攻撃の隙を見つけようとする。だが、遠距離で攻撃を繰り返すミレーヌには俺の攻撃が届かない。

「ジリ貧かよ」

 だが、あきらめる訳にはいかない。俺は、何度も雷撃を避けながら、じわじわと前進しようとする。ミレーヌの魔力には限りがないのか、一向に攻撃のやむ気配はない。いや、あの魔石から、魔力が供給されているのか。

「マイク! あたしが!」

 俺の動きにじれたのか、エリスがミレーヌに向かって矢を放つ。しかし、ミレーヌはあっさりと躱す。

「邪魔な小娘め! まずは、お前から黒こげにしてやろうか?」

 まずい! ミレーヌがエリスに剣を向ける。矢を撃ったばかりのエリスには、避けられないだろう。

「くらえっ!」

 ミレーヌの剣から、雷撃がエリスに向かって放たれる。動きの止まったエリスの前に、体を飛び込ませ、剣で雷撃を受ける。

「ぐっ……うあああっ!」

 あまりの衝撃に目から火花が出そうだ。だが、エリスの前で俺が倒れる訳には、いかない。雷撃を剣で押し返そうと力を込める。

「おや、ずいぶん勇ましいことだね。だが、無駄だよ。二人で仲良く光になっちないな!」

 ミレーヌが再度、雷撃を放つ。ちくしょう! これで終わりなのか? いや、あきらめるな。俺は、ありったけの力を剣に込める。剣の力と魔法の力が、拮抗し、爆発を起こす。

「ちっ、くしょうめ!」

 俺は、叫びながら吹っ飛ぶ。俺の手から離れた剣が、転がりアガサの姿に戻る。俺は、転がりながらなんとか、アガサのもとへたどり着き、彼女を抱き起す。

「大丈夫か?」

 アガサは、ゆっくりと目を開ける。かなり辛そうだ。

「大丈夫でございます。ご主人様」

 アガサは、何とか体を起こそうとするが、腕に力が入らず、俺に縋りつくのが精一杯だ。

「頼みの綱の剣もそのざまか。そろそろ、お終いにしようか。マイク。二人で、光になってから、のんびりした暮らしを楽しむんだね」

 ミレーヌが、俺達に剣を向ける。

「まだ、負けたわけじゃないさ」

 俺は、剣の先に魔力が集中していくのを眺めながら、必死に可能性の糸を探ろうと頭を働かせる。そうだ、まだ負けたわけじゃない、ラミラエルからもらった剣もある。やつの、攻撃を喰らいながら、俺の剣を突き立てることが出来れば……。

 俺の考えが分かったのか、アガサが俺の服の裾をぎゅっと握る。俺は、アガサの顔を見ずに、少し首を振った。アガサが、あきらめたように俺の服から手を放す。

「そうかねえ? これで、決まりだと思うけど!」

 ミレーヌが笑いながら、雷撃を放とうとする。これを躱せば! 俺は、ボロボロの体に鞭打つように、立ち上がり剣を抜こうとする。しかし、俺の体は、心に反してゆっくりとしか動こうとしない。

「まだ、きまりじゃないよ!」

 その瞬間、俺とアガサの前に、エリスが両手を広げて立ちはだかる。

「無駄なことを!」

 ミレーヌの剣から、エリスに向かって雷撃が撃ち込まれる。

「三人そろって、光になっちまいな!」

 ミレーヌの高笑いが、大広間に響き渡った。


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