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2.洞窟にて

「北の岩山っていうのは、あれかな?」

 木の上から森の果てにある岩山を見ながら呟いた。緑が綺麗な森と暗く木が密集した森との境界付近にちょっとした岩山が見える。あれが、レイルが言っていた明るい森と暗い森との境界ってやつだろう。どうやら暗い森は、魔族の住む地域、明るい森は人間側の領土ということらしい。

 ちょっとした休憩のつもりで、先ほどレイルから買った水筒に入っている水を一口飲む。他にもレイルからは、最初に持っていた剣と同程度の剣を1本と、野営に使うという火を出す魔法石、それと煮炊き用の鍋を購入した。全部合わせて金貨一枚だ。

 レイルは、恩人から金をもらうことに抵抗があるようだったが、それは、今度町であった時に返してもらうということにしておいた。知らないおじちゃんに物をもらうなんて、おっかないしな。

 身体能力の上昇は、いまだ留まるところを知らないようで、体を動かすごとにさらにキレが増しているような感じがする。木に登るのも、しがみついて上る必要はなく、まるで忍者の様に、枝を蹴りながら、3ステップほどで登ってしまった。

 バランス感覚も上昇しているのか、まるで映画の主人公の様に高い枝に立ちながら、格好つけて両腕を組んでいても問題ない。まあ、いつまでも木の上でポーズを決めているわけにもいかないので、枝から枝へ飛び移りながら地面へ降りる。

 方向も確認できたし、今の体の状態なら30分ほども走れば、岩山まで着けるだろう。そう思いながら、ゆっくりと走りだした。

 しばらく走っていると、目的地の岩山が見えてくる。そして、特徴的なゴブゴブという声が大量に聞こえてきた。それにしても、ゴブリンだから鳴き声がゴブゴブというのは、どういうことなんだろうか。それとも、この世界の魔物はみんなゴブゴブ言うのかな。そんなことを考えながら、静かに近寄っていく。

 岩山の前に開けた空間があり、そこに100匹以上のゴブリンがたむろっていた。何をしているのか疑問に思ったが、視線を広場の左側に移してぎょっとした。

 どうやら、地面に立てた木の棒に磔にした人間のようなものを的にして、訓練をしているらしい。周辺のゴブリンよりも一回り大きいゴブリンが、ゴブゴブ大声を出して、周辺のゴブリンに攻撃させている。

 人間のようなもの、いや元人間だったものといったほうがいいか、すでに生きているとは考えにくい状態だが、よく見ると皆股のあたりに血がこびりついている。あとは、ゴブリン達の棍棒で殴られてのであろう、黒ずんだ痣が体中についていた。

「犯して、痛めつけて、殺すのか」

 多分、魔物にとっては人間の苦痛が喜びなんだろう。なんともいやな生き物だ。すぐに飛び込んで暴れてやろうかと剣を握りしめると、不思議なことが起こった。

 5人磔にされた人間のうち、一番左側の人間がキラキラと光る粒子になり始めたのだ。まるで、さっき倒したゴブリンのように。ただ、よく見るとゴブリン死体が、霧の様になって地面に吸い込まれていったのに対して、人間の場合は、光る粒子が天に昇って行っていくように見える。

「ファンタジーだな」

 見ていると、磔にされた人々は次々と光の粒子になっていく。残念ながら、広場にいた人たちを助けることはできなかったようだ。せめて、仇をとってやるべきかと考えて再度剣を握りなおすと、ゴブリン達に動きがあった。

 ゴブゴブ、ゴブゴブ叫びながら、木の棒を棍棒でたたいている。的が無くなったのが不満なんだろう。そのうちに、広場の奥のほうに向けて叫びだした。

 どういうことかと思って、広場の奥へ目をやると、洞窟のようなものが見える。どうやら、洞窟の中にまだ人間がいるようだ。早く的を出してこいとでも言ってるんだろう。

 だが、生き残りがいると知って待っている必要もない。俺は、剣を片手に広場へと突進した。なんといっても、100匹を超えるゴブリンの群れだ。あたるを幸い剣を振るっていく。夢中になって、ゴブリン達を追い回しては、倒していく。

 がこっ!

 突然、背中に衝撃を感じた。びっくりして背後を見る。一撃いれたことで喜んでいるのか、何とも嫌な顔つきをした一回り大きいゴブリンが、槍のようなものを構えてこちらを見ている。

「油断したな」

 くやしさが隠し切れない。防御力が強化されていなければ、今の一撃で先ほどの人間たちと同じ目に合う所だった。相手も自分を殺そうとしているのだ、気を引き締めなおす。

 多分、戦闘能力もほかのゴブリンに比べたら高いのだろう、2匹いる一回り大きいゴブリンを視界にいれておこうと、いったん距離をとる。

 意識さえしていれば問題ないのか、ゴブリン達の動きがゆっくりとしたものに見える。大きいゴブリンが突き刺してくる槍を躱して、首の部分に剣を突き刺す。それに驚いた、もう一匹のゴブリンの動きが止まったところを袈裟懸けに切った。

 残りのゴブリンは、もう10匹程度だ。全員の動きを視界に収めるように慎重に移動しながら、ゆっくりと掃討していく。ちょっとした油断が死を招くのだ。気を引き締めて行動しなくては。

 すると、一匹のゴブリンが洞窟のほうへ走って逃げていくのが見えた。かといって、すぐに追うわけにもいかない。残りのゴブリン達を確実に片づけてから、洞窟の中へと向かった。

「きゃー!」

「やや、今度こそ絹を裂くよな女の悲鳴」

 期待を込めて呟く。さっきのゴブリン君が武器を持っていないのは確認済みだ。ゆっくりと、洞窟の暗さに目を慣らしながら歩いていく。

 さして広い洞窟でもないらしい、長さは10mほどだろうか、奥に大きな岩があり、そこからバタバタしている女の足と、しがみついているゴブリンが見える。

「やめてー!パンツ引っ張らないで!」

 ゴブリン君、大分頑張っているらしい。頑張れゴブリン。超がんばれ。だが、女のほうも頑張っているらしい、足を交差させてパンツを下ろさせないという構えだ。それよりも、どうやらこの世界にも下着的なパンツはあるらしい。一つ賢くなった気分だ。

「ゴブゴブ。ゴブゴブッ!」

 ゴブリン君は、どうやら近づいてくる気配を察知したようだ。慌てて、女に飛びかかる。

「ちょっとー。今度は、何するつもり! やめてってばー、なんで服脱がそうとしてんの!」

 ゴブリン君は、ターゲットを上半身に変えたらしい、死ぬ前にせめて女のおっぱいを目に焼き付けようとしているのだろうか。同じ男としては、非常に納得できる行動である。

「助けてー!誰かいるんでしょ!」

 しまった。女のほうもゴブリン君の行動から、近くに誰かいることに感づいたようだ。あまり、時間を置くと襲われるのを見ていた変態と思われてしまう。慌てて、ゴブリン向かって走りよると、蹴り飛ばした。

 女に見とれていたゴブリンが避けられるはずもなく、壁にぶつかりぐしゃっという音を立てる、しばらくするとほかのゴブリンと同じように、緑色の霧状になって消えていき、小さな魔石だけが残された。

「さて、先にどっちから服を直したほうがいいかな?」

 できるだけ慌ててきたような感じを出しながら、女に聞く。もちろん、じっくりと観察することは忘れない。いや、女として観察しているわけではなくて、異世界の女性の服や、体つきについて考察しているだけだ。おっぱいは2つ、乳首も二つ。これは問題ない。それに、この世界にはブラジャーがあるようだ。これは、重要だな。髪の毛と下の毛の色は、金髪でそろっている。あとは……。

「どっちもいいから! 早くこのロープを切ってー! それから、外へ出てなさい!」

 顔を真っ赤にしながら女が言う。

「すみません。それは思いつかなかった」

 まったくもって意外なことを言われたように応対する。確かに、両手を縛っているロープを切れば、女が一人で身だしなみを整えることが出来るだろう。でも、その間何をすればいいんだ?まったく分からないような顔をすると、真っ赤な女の顔が険しくなってきた。

「は・や・く!」

 そんなに区切って言われてはしょうがない、練習の成果を見せようと素早くロープを剣で切る。女は、びっくりしたようだが、気にせず洞窟の入り口へ向かって急いだ。

「夕焼け小焼けで日が暮れてー」

 そとに出ると、もう日が沈もうとしていた。この世界へ飛ばされたのが朝だったとすると、一日の長さは元の世界と変わらないらしい。そんなことを考えながら、広場に落ちている魔石を拾い集める。

「ちょっと大きいやつがあるな」

 ふと気づくと、ほかの魔石に比べて一回り大きい魔石が二つ落ちていた。多分、さっきの一回り大きいゴブリンが落としたものなんだろう。ちょっと眺めたあとで、リュックに詰め込んだ。ひょっとしたら、普通のゴブリンが落とす魔石に比べて価値があるのかもしれない。

 一生懸命魔石を集めているうちに、あたりが暗くなってきた。洞窟の入り口に戻り、そういえばレイルから野営用の設備を買っていたことを思い出す。リュックから、もらった魔法石なるもを引っ張り出してみると、さっきの魔石よりさらに一回り大きく、赤く透明な石だった。

 だが、使い方が分からない。どうやって使うものかと、透かして見ていると、身だしなみを整えた女が歩いてきた。

「あ。いいもの持ってるねー。燃焼石じゃない」

 そう言いながら、近寄ってくる。改めて、女を眺めてみて驚いた。身長差は、10センチ程度あるようで大体165センチぐらい。金髪の、まあ美人と言っていい顔立ちだろう。さっきも確認したが、胸は結構あるようだ。巨乳といってもいい。だが、驚くべきは耳だった。人間の耳に比べ大きく、先端が尖っている。

「助けてくれてありがとう。ほんと助かったよー。あたし、エルフのエリス。Fランク冒険者よ」

 にこやかな顔で言うエリスに向かって、驚きを隠して、返答する。

「たまたまだ。俺はマイク。冒険者志望で町に行く途中だ」

 エルフ。エルフか。まあ、異世界だからいて当然とも言える。だが、この世界の女性が全員エルフということはないだろうな。

「エルフをみるのは初めて? 村で暮らしてたんなら当然だけど」

 エリスが、勘違いを正すようなタイミングで話す。どうやら、この世界では村では各種族で暮らすのが一般的なようだ。つまり、人間族の村からきたならエルフを見たことがなくても当たり前らしい。

「ああ。町へ行くのは初めてだ」

 無難な感じで返しておく。

「じゃあ。野営も初めて? 今までは、どっかの村で泊まってたわけ?」

 そう言いながら、エリスが燃焼石を手に持って洞窟の中央へ歩いていく。そして、地面に燃焼石を置くと声をかけた。

「燃えろ」

 すると、燃焼石がゆっくりと発火しだした。まるでちょうどいい焚火サイズの炎だ。なるほど、こうやって使うのか。

「便利でしょ。消すときは"消えろ"って言えばいいだけ。魔力が残っていればまた使えるし」

 驚いている顔がおかしいのか、エリスがクスクスと笑う。

「どれくらい持つんだ?」

「まあ、これぐらいのサイズだったら。3日分は使えるよ。"弱まれ"ってしとけば夜ずうっとつけておいても大丈夫。魔物はこの光が苦手みたいで寄ってこないしね」

 便利すぎる道具だな。レイルはいい商品を扱っているらしい。

「それより……」

 エリスが真面目な顔になる。

「ほかの人達がどうなったか知ってる? それに、他のゴブリン達やゴブリンリーダーはどこ行っちゃったの?」

「ほかの人達か。五人ほどいたようだけど」

 ひらひらと空へ飛んで行くように手を振る。それだけでエリスは分かったようだ。この世界では、死ねば誰でも天に召されてしまうらしい。

「ゴブリン。それにゴブリンリーダー? 一回り大きいゴブリンは俺が倒した」

 リュックを指示しながら言うとエリスはびっくりしたように大声を出した。

「嘘⁉ 100匹ぐらいいたじゃない。侯爵じゃあるまいし、そんな強いわけが……」

「油断してたんだろ。多分エリスを取り合って数を減らしてたんじゃないのか?」

 いやーん、やっぱり美しいって罪なのねー。エリスが頬を押さえながら呟いているが、流しておく。侯爵というのは初めて聞く言葉だが、あまりこの話題を続けてもどんどんぼろが出てしまいそうだし、適当にごまかしておこう。

「まあ、俺も疲れたし。今日はもう寝よう。燃焼石があれば大丈夫なんだろう?」

「そだね。明日、一緒に町まで行こうよ。冒険者ギルドに案内してあげる」

 それは助かる。そう思ったところで、腹がすいていることに気付いた。今日はずいぶん運動したからな。干し肉をリュックから出そうとして、考える。元の世界での知識が確かなら、エルフは肉を食わないようなイメージだが。

「残念ながら、食料が干し肉しかないんだ」

「いいねー。あたし肉大好き」

 エリスが、ニコニコしながら干し肉を受け取り、食べ始める。どうやら、この世界のエルフは肉を食べても大丈夫らしい。まあ、適当に作った世界らしいからな。苦笑いしながら、干し肉を食べ、横になった。

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