表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/35

23.ギルド練習場にて

「おはようございます。マイクさん」

 ケインが爽やかな笑顔を浮かべる。俺の疲れ切った表情とは大違いだ。

「ああ、おはよう。ケイン。エリスとアガサだ」

 エリスとアガサが、俺の横腹をつつく。

「二人とも、16歳だ」

 他の人には聞こえないように、小声で言う。

「よろしくー」

「よろしくお願いいたします」

 俺の言葉に満足したのか、にこやかに挨拶する。

「よろしくお願いします。こちらが、アミイとディードです」

「よろしく!」

「……よろしく」

 アミイを見た、エリスとアガサが目を輝かせる。

「可愛いー。お姉ちゃんって呼んでもいいよー」

「え? 同い年ですよね」

 ほら、すぐにぼろがでる。

「そうでございますね。それでしたら、アガサとエリスとお呼び下さい」

「うん。よろしくね。エリス。アガサ」

 しれっとした顔のアガサの言葉に、アミイがすぐに納得する。俺は、罪悪感で心が一杯になった。

「ダンジョン攻略の件は、問題なしだ。二人とも快く引き受けてくれた」

 俺は、アミイのチャイナ服を見ながら言う。いったい、いくらするんだろうな、あれ。

「ありがとうございます。マイクさん」

 ケインが、嬉しそうな顔をする。

「おっ! マイクじゃねえか。友達できたのか?」

 そこへ、ギルド長のライルが通りかかった。俺とケインを見て、ニヤニヤ笑いを浮かべる。

「おはようございます。ギルド長。例のダンジョン攻略に協力していただけることになりました」

 ケインが、ライルに深々とお辞儀する。

「おいおい。そういう堅苦しいのはいいって言ってるだろ」

 ライルがケインの肩を抱きながら、耳元で話す。

(ほら、今度は目標を変えたみたいだよー)

(ケインさんのほうが、若くて顔も整っておりますからね)

(え。何?何の話?)

 エリスとアガサがこそこそと話し、アミイが何を言っているのか分からないという声をあげる。

「昨日知り合ってな。そういうことになった」

 俺は、ケインとライルを引きはがす。

「いいところに目を付けたな、ケイン。だが、噂を聞いただけで実際に腕を見たわけじゃないんだろう? せっかくだから、練習場でちょっと手合わせしてみたらどうだ?」

 ライルが、暇つぶしを見つけたような顔をする。だが、確かにお互いの強さは、話に聞いただけだ。ダンジョン攻略前に、試してみるのも悪くない。

「いいですね。お願いしてもいいですか?」

 ケインの言葉に頷く。

「よーっしっ! じゃあ、俺が審判してやるよ。暇だし」

 ライルがギルドの奥へと向かう。俺たちもぞろぞろと付いて行った。


   *


「じゃあ、互いのパーティーから一人ずつ出てやるか」

 ライルが、練習場にいた他の冒険者に声をかけ、場所を作る。

「さて、誰からいくか」

 向こうのパーティーは、ディードが先鋒のようだ。

「ご主人様。私が最初でよろしいでしょうか」

 珍しく、アガサが一番手を希望する。

「いいよー」

 エリスが、同意したので俺も頷いた。

「最初は、ディードとアガサか。……じゃあ、始めっ!」

 ライルの掛け声とともに、二人が動き出す。ディードは練習用の木剣の中でも最も大ぶりなもの、対して、アガサは短剣に近い長さの木剣だ。

 ディートがのそりと動き、木剣を振るう。ブルンと風が巻き起こり、離れた俺たちのところまで届く。

「さすがに、力は凄いな。アガサ! 気をつけろよ」

 まあ、心配はいらないだろうが、一応アガサに声を掛ける。

「ディード! 近寄らせたらだめよ! 振り続けて!」

 向こうでは、アミイがディードに声を掛ける。確かに、あの勢いで剣を振り回されたら、近づきにくいだろうな。

 だが、アガサには関係ないようだ。距離をとったのは、最初の一撃だけで、その後は無造作に近づいていく。ディードの攻撃は、全く当たらない。あっさりと首に剣を突きつける。

「そこまで!」

 ライルが叫び、アガサが華麗なお辞儀を披露する。観戦していた他の冒険者から、歓声があがる。

「さすがだな」

「練習用の木剣でございましたから。普段使っているハンマーでしたら、もう少しは難しかったかと思います。ご主人様」

「よーし、次はあたしだねー。かかって来いー。アミイ」

 やる気満々のエリスが前に出る。向こうは、アミイが出るようだ。あたりを見回すと、いつの間にか観客が増えている。どうやら、エリスが戦うと聞いて見にきたらしい。いや、男ばかりがいるところをみると、エリスの特定の部分を見に来たようだな。

「マイク。あたしの強さを見ときなさいよ!」

 アミイが、前にいるエリスを無視して俺に向かって叫ぶ。

「アミイ! 油断しないでくださいね」

 だが、ケインが声を掛けると思いなおしたのか、エリスに視線を戻す。ケインのいう事は聞くんだな。

「よーし。じゃあ、始め」

 ライルが掛け声を掛ける。エリスは訓練用の木剣。アミイは素手だ。

 開始と同時に、エリスがアミイに斬りかかる。だが、アミイはあっさりと躱し、掌底をエリスの腹に叩き込んだ。

「プギャッ」

 何とも言えない声を出し、エリスが吹っ飛ぶ。

「あれ?」

「やっぱりな」

「天才的なのは、弓だけでございますからね」

 予想通りの結果に納得する俺たちに対して、不満そうなアミイ。観客たちも、あまりに早い幕切れに不満そうかと思ったが、そうでもないようだ。倒れたエリスの服が良い具合に乱れて、先程とは違う種類の歓声が上がっている。

「まだ、負けてないよー」

「いや、それはもういいから」

 エリスが、よろよろと立ち上がるが、引っ張って戻し、服の乱れを直してやる。

「すまんな。アミイ。エリスは弓矢が専門なんだ」

「えーっ! じゃあ、あたしがアガサとやればよかった」

「まあ、お前の強さは分かったよ」

「そう! それならいいけど」

 満足そうなアミイが戻り、ケインが木剣を持って前に出る。

「お願いします。マイクさん」

「ああ」

 俺も、木剣を一本選びマイクの前に立った。

「本気でやれよマイク」

「俺は、いつだって本気だよ」

「そうか。じゃあ、いつも以上に本気をだせよ。……始めっ!」

 ライルの言葉に頷き、ケインと軽く剣を合わせる。

「いきますよっ」

 開始早々、ケインが突っ込んでくる。さすがに、素早い動きだ。俺は、いつものように、まずは攻撃を避けることに集中する。

 ケインが、上から横から、何度も俺に攻撃を仕掛ける。隙の無い攻撃で、反撃の機会が掴めない。俺は、より集中を増し、反撃する可能性を探る。

 十回ほど、ケインの攻撃を躱し続ける。すると、急にケインが攻撃をやめた。

「さすがですね、マイクさん。ギルド長が、魔族と戦う練習になると言っていた意味が分かりました」

「避けてるだけだけどな」

「あれを避けられたら攻撃しようがないですよ。でも、ちょっとだけ試したいことがあるので、お付き合い願えますか?」

 ケインが、今までとは違う構えをとる。何か、力をため込んでいるような動きだ。

 とりあえず防御を固めるべきかと思うが、考え直す。魔族相手の戦いで、防御などない。俺は、そんな戦い方など練習したことがない。

 むしろ、この攻撃を避け、反撃する可能性を見つけるべきだ。俺は、ケインの動きを見逃すまいと、さらに集中する。

「いきますっ」

 掛け声とともに、ケインが横薙ぎのような動きで剣を振るう。当たるはずのない距離だ。だが、俺にはケインの斬撃が広範囲にわたる衝撃波となって押し寄せるのが分かった。

「広範囲攻撃かっ」

 なるほど。魔族も俺の様に、攻撃を避ける可能性を本能的に見出しながら戦う。それならば、この攻撃の様に可能性をすべて潰す攻撃は有効だろう。俺は、集中力を限界まであげる。たとえ、広範囲の攻撃だろうと、反撃の可能性は見つけられるはずだ。

 どうにか、頼りないながらも一本の糸が脳裏に浮かぶ。俺は、それに沿って剣を突き出す。

「ぐっ」

 ケインの生み出した衝撃波の最も弱い部分を腹に受けながら、剣を突き出し、首元へと突きつける。エリスが歓声をあげ、アミイが舌打ちする。

「参りました」

 首に剣を突きつけられたケインが、あきらめたように首を振る。どうやら、あの攻撃を出した後は、しばらく動けないようだ。

「いや。凄い攻撃だった。もし、俺が魔族だったら、これで侯爵候補だな」

「いえ、その後に死んでいたら何の意味もありませんよ」

「実戦では、俺たちがいる。問題ないさ」

「そうですね。その時はお願いします」

 俺が剣を引くと、ケインも剣を納める。

「まあまあだな。マイク。帰ってきたら、俺とも手合わせしようぜ」

 ライルが近寄ってきて、俺達の肩を叩く。

「よーし。全員解散。散った散ったー」

 観客達に声を掛けて、ライルが建物に戻っていく。

「最後の攻撃は、何だったんだ? 斬撃を飛ばしたように見えた」

「アミイに習ったんですよ。彼女の一族に伝わる秘伝だそうですが」

「そうなのか。俺にもできるかな?」

 アミイが、近寄ってきてケインの首を心配そうに撫でる。

「さあねー。一応教えてあげてもいいけど」

「マイクさんなら、大丈夫ですよ」

「だといいけどな」

 俺は、駆け寄ってきたエリスとアガサに振り返る。

「すごかったよー」

「中々でございました。ご主人様。もし、防御などしようものなら、私がご主人様のお腹に蹴りをいれているところでございましたよ」

 エリスは満足そうな顔をしているが、アガサは、若干不満そうな顔だ。俺が、一瞬防御しようと考えたことが分かったらしい。

「よーし。これで”エリスと愉快な仲間たちの”勝ちだよねー。アミイ」

「いや、エリスは負けたじゃない!」

「パーティー戦なんだから、あたし達の勝ちって事でいいじゃない」

「まあ、そうだけど」

 アミイが、不満そうな顔をする。

「じゃあ、こっちがリーダーってことでいいかな?」

 エリスがとんでもないことを言い出した。

「おいおい、ちょっと待てよ。いつの間にそんな約束してたんだ?」

「マイクとケインが戦ってる間だよ。アミイがケインは絶対に負けないっていうからさー」

「そうなんですか? 期待に応えられず申し訳ありません。アミイ」

 ケインが、アミイに頭を下げる。

「いいよ。そんなことしなくても!」

 アミイが、慌てて両手を振る。

「でも確かに負けたのはこちらですから、マイクさんがリーダーでも僕は構いませんよ」

「おいおい、うちのパーティー名を忘れたのか? リーダーはエリスだよ」

「えー。それじゃあ、やっぱりおかしいよ! あんなに吹っ飛んだのに!」

 アミイは納得できないようだ。もちろん俺も納得できない。

「確かにおかしいし、元々この話は、ケインのほうから持ってきたんだ。別にリーダーを変える必要はないだろ」

「えー。別にいいけど」

 別に、リーダーをやりたかったわけではないらしい。エリスも頷く。

「では、間をとって私がリーダーということでよろしいでしょうか」

 なぜか、アガサが急に話に入ってくる。

「いや、まったく間をとってないだろ。本当にやりたいのか?」

「いえ、やる気は全くないのでございますが」

 そりゃそうだろうな。

「とにかく、今回はケインが全体のリーダーで決まりだ」

 いつまでも話してもしょうがない。ケインの肩を叩く。

「分かりました。皆さんよろしくお願いします。では、明日の朝、ギルド前に集合してからダンジョン攻略に出発ということで、いいですか?」

「大丈夫だ。二人ともそれでいいな?」

「おー」

「大丈夫でございます。ご主人様」

「じゃあ、シャワー浴びにいこうよ! アガサ、エリス」

「そうだねー。服が土埃だらけだよ」

 和気あいあいと話しながら、女性陣が、ギルドの建物へと去っていく。それを見送りながら、俺はあることを思い出した。

「そういえば、リーダーの件の代わりと言っちゃあなんだが、一つ教えてくれないか?」

「何でしょうか。僕に分かることで良ければ」

 ケインが、不思議そうな顔をする。俺は、他の人間に聞こえないように小声で言った。

「アミイの服は、どこで売ってるんだ? ついでに、値段も教えてくれ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ