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20.ギルド前にて

「俺と楽しもうぜー。マーイキューリー」

 目が覚めると、いや夢の中なのか、とにかく俺の目の前に、革製のブーツとホットパンツ。そして、譲範氏は裸にサスペンダーだけという姿の女神がいた。

「どうだーいー。俺と新しい世界の扉を開かないかーい」

 女神は、腰をローリングさせながら俺に近寄ってくる。俺は、黙って女神のサスペンダーを引っ張った。

「あ、ちょっと。見えちゃうじゃないですか」

 ばちーん!

 俺は構わず、極限まで引っ張ったサスペンダーを持つ手を離した。

「痛いっ!ち、乳首とれちゃう……」

 涙目で、女神がうずくまる。

「なんのつもりだ」

 俺の怒りをこらえた無機質な声に、さすがにビビったのか女神は殊勝な顔をした。

「い、いや。ちょっとした冗談ですよ。アガサちゃんには、そんなに怒らなかったじゃないですか」

 自分の胸に、ふーふー息を吹きかけながら女神が答える。

「冗談か」

「そう、冗談です。ジョークですよ。マイクさんも知っての通り、女の子っていうのは、みんなそういう話が好きなんです」

「はあ?」

「アガサちゃんもエリスちゃんも、結構喜んでたじゃないですか」

「まあ、そうかもな」

「ほらほら」

「だからと言って、この格好が許されるわけじゃないけどな」

 そう言いながら、もう一度サスペンダーを引っ張ろうとする。

「やめてー。やめてください!今度は、本当にとれちゃうからー」

 女神が、慌てて俺から離れる。

「まあ、いいや。それより、あれは何だ?」

「あれって何の事ですか?」

 思い当たることが多すぎるのか、不思議そうな顔をする。

「ガブリエラさんだよ、訳の分からん神託とやらを与えるなよ」

「ああ、あれですか。あのですねー。神託っていうのは、別に私が狙った人間に飛ばすようなもんじゃないんですよ」

「そうなのか?」

「そうなんです。なんというか、私が考えていることが外に漏れちゃって、それを、カンのいい人間がキャッチする、みたいなことなんです」

「よけい悪いじゃねえか。お前いつもあんなこと考えてるの?だいたい、お前の中での俺の位置づけはどうなってるんだ」

「だって、マイクさん、胸が大好きじゃないですか」

 そう言いながら、女神がサスペンダーを胸のところで交差させる。Dカップらしい胸の間に交差したサスペンダーが張り付き、胸の形を歪ませる。

「ほらー。見過ぎですよ、マイクさん」

 ニヤニヤしながら、サスペンダーを動かし、それに合わせて胸がプルンプルンと揺れる。不本意ながら、俺の目もそれに合わせて上下する。

「まあ、嫌いではない」

「おー。さすが、女の子二人を相手にするような人は、落ち着いてますねー」

「まあ、そうかもな」

「今日は、一人部屋で寂しく寝てるみたいですけどね」

 痛いところをつかれた。

「べ、別に、毎日する必要もないだろ」

「まあ、そうですよね……あっちの二人は、仲良くしてるみたいですけど」

 女神が、気になることを言う。

「そりゃ、仲が悪いよりは良いほうがいいだろう」

「そうですね。でも、あそこまではなー」

「おいおい、変な事いうなよ。明日、二人と顔を会わせづらいだろ」

「まあ、そういうことにしておきましょうか」

「気になる言い方はやめろ」

「はいはい。大体不思議だと思いませんか、マイクさん」

「何がだよ」

「普通、男が一人、女が二人いたら、取り合いになるもんじゃないですか。しかも、両方ともあれだとしたら、もう戦争ですよ、修羅場真っ只中です」

「いや、それは、なんとういうか、俺の人徳で?」

「ぷぷー。人徳。そんなものあるわけないでしょ、マイクさんに」

「おいおい、背中と胸にあとが付くぐらい、サスペンダー遊びをしてやってもいいんだぞ」

「ごめんなさい。調子に乗りました」

「分かりゃいんだ。それで?」

「ですからねー。女二人が、つまり、アガサちゃんとエリスちゃんは、マイクさんの事が好きなわけじゃないですか」

「ふむふむ」

「でも、それじゃー修羅場になっちゃうわけですよ」

「まあ、そうかもな」

「でも、マイクさんのことと同じくらい、アガサちゃんとエリスちゃんが愛し合っていたらどうです?二人の間の愛は、マイクさんへの愛と同じぐらいなんです。これなら、全体のバランスがとれるわけです」

「そ、そうなのか」

 何てこった。いつの間に、そんなことになってたんだ?まさか、テントで寝ているうちにか?でも、テントではいつも俺が真ん中で寝てたような気がするんだが。

「女の愛というのは、精神的な満足のほうが大事なんです。男の人のように何か放出しなきゃいけないわけでもないですしね。ちょっとキスしたり、触れあったりするだけでも十分なんですよ。でも、今夜はちょっと過激みたいですねー」

「え?お前、何見てるの?ちょっと俺にも見せろよ」

 なぜか遠くを見つめる様に目を細める女神の頭を押さえ、目をのぞき込むが、もちろん見えるのは、女神の瞳だけだ。

「痛たたたた。やめてくださいよ。ドライアイになっちゃう」

 何も、見えないので女神を解放してやる。

「まあ、私の妄想はここら辺にしといて。魔族討伐の達成おめでとうございます。マイクさん」

 ぱちぱちぱちー。まったく心のこもっていないような拍手をする女神。

「そういえば、今回は別にランクアップしてないな。魔族討伐達成のボーナスってことか?」

「まあ、そんなところです。本当は、侯爵候補になってたはずなんですけどね、マイクさんが断っちゃうから、変な感じになっただけで」

「そうか、それより、さっきの話。本当にお前の妄想なんだろうな」

「やだなー。マイクさん。二人の事を信じてあげてくださいよー。たとえ、二人がマイクさんには触らせたこともないような場所を舐めあう関係だったとしても」

「それもお前の妄想なのか?どっちか、はっきりしてくれよ」

「まあ、それはいいじゃないですか。それより、何で断っちゃったんですか?」

 動揺する俺にたいして、急に真面目な表情になる。

「侯爵になるのを断った理由ですよ」

「別に、大した理由じゃないさ」

「ほー。そうですか。でも、なかなかいいですよ、マイクさん。好印象です」

 満足そうに笑う女神。

「こうやって、私に会えるのにくだらない話しかしないマイクさんは、とってもいいですね。なんでもかんでも聞こうとするのよりはずっといいです」

「そうか?つまらない意地をはっているだけかもしれないぜ」

「その、つまらない意地がいいんです」

 そう言いながら、部屋の奥へと歩いていく女神。そこにあるベッドの上には、何故か大量のサスペンダーが置かれていた。

「さあ、体中に跡が残るくらい、サスペンダー遊びをしてください」


「ぐるぐるー。ぐるぐるー」

 目が覚めると、宿のベッドの上だった。なにか、変な寝言をいっていたような気がするが、多分気のせいだろう。俺は、立ち上がると着替えをすませ、下の食堂へと降りていった。

「おはよー。マイク」

「おはようございます。ご主人様」

 食堂では、エリスとアガサの二人が、仲良く座って食事をまっていた。

 挨拶を返しながら、二人の前に座ると、いつものように、メイド服のような恰好をした女の子が、食事を運んできてくれた。

「はい。アガサ。あーん」

 エリスがアガサに卵焼きのようなものを食べさせてやっている。恥ずかしいのだろうか、顔を赤くしたアガサがエリスの持っているフォークから食べる。ちょっと大きすぎたのか、口の端についた卵焼きをエリスが自分の指でとると、それを自分の口に入れ、アガサに笑いかける。

 仲睦まじい姿を、俺は顔を青ざめながら眺めていた。どうも、俺まで変な妄想にとりつかれてしまったようだ。

「エリス。これもおいしゅうございますよ」

 今度は、アガサがソーセージのようなものを、フォークに刺してエリスの口元に寄せる。エリスは、照れたような笑いを浮かべると、ソーセージのようなものに軽く口づけしてから、食べた。

「今朝は、ずいぶん仲がいいな」

 心の動揺を悟られないように、にこやかに笑いながら問いかける。

「えー。そうかな。いつも、こんな感じだよね」

「そうでございますよ。ご主人様」

 二人が、にこやかに笑い合う。そうかな。そう言われればそうだったかもな。

「まあ、仲が良いのはいいことだよな」

 そう呟く。そうだ、別に悪い事じゃない。気にするのはよそう。二人が、顔をあわせてクスクス笑いながら、お互いの手を撫でているが、気にしない。

「ところで、今日はどうする?」

「エリスが、何か考えがあるようでございます」

「そうなのか?」

 エリスを見ると、にこにこと笑顔を浮かべている。気のせいか、テーブルの下でお互いの太ももを撫で合っているようにも見えるが、気にしない。

「あのさー。マイクって一人で冒険者ギルドに行ったことないでしょ」

「そうだけど?」

「いつもあたしたちが一緒にいるからさ。他の人達に話しかけられないんだと思うの」

「なるほど」

「まあ、しょうがないけどねー。こんな、可愛い二人を連れてたんじゃさー」

「そうでございますね」

 うんうんと頷くアガサ。自信家だな、お前ら。

「だから、たまには一人で行ってみるといいかなーと思って」

 どう?という顔で二人が俺を見る。確かに、一人で冒険者ギルドに行ったことはない。

「いい考えかもしれないな。二人はどうするんだ?」

「あたしたちは、買い物にでも行ってくるよ。お昼に待ち合わせしよう」

「分かった。じゃあ、レイル商会の前の店で待ち合わせよう」

「うん。じゃあお昼にね」

「お気をつけて下さい。ご主人様」

 こうして、俺ははじめての、一人冒険者ギルドに向かうことになった。体よく、二人に追っ払われたような気もしないでもないが、とにかく気にしないでおこう。

 といっても、別に焦っていくほどの用事があるわけでもない。俺は、町のあちこちをぶらぶらと見ながら、のんびり冒険者ギルドへ向かった。

「おい、お前」

 冒険者ギルドの前につくと、急に誰かに声をかけられた。

「なんだ?」

 答えながら、振り向くと冒険者らしい四人の男たちが、俺を見ていた。パーティーのリーダーなのだろう、髭面の男が俺に近寄ってくる。残りの男たちも、リーダーの後をついてきた。

「お前か?急にDランク冒険者になったマイクってのは」

 髭面の男が、ニヤニヤ笑いながら言う。

「確かに、俺がマイクです」

 別に、嘘をつく必要もない。それより、俺は驚いていた。まさか、エリスの作戦がこうも見事に当たるとは思わなかった。せっかく声をかけてくれた相手に、丁寧な言葉で返答する。

「どうせ、金でも使ってDランクになったんだろう?どっかの貴族のご子息様なのか?」

「いえいえ、たまたま運がよかったんですよ」

 おかしいな、丁寧な言葉で答えているはずなのに、雲行きがあやしくなってきたぞ。

「兄貴。こいつ、大魔石一個でDランクに上がったらしいですぜ」

「本当かよ。どうせ、どっかで拾ったんじゃねえのか?」

「こんな野郎に、大魔石クラスの魔物が倒せるわけねえよ」

 髭面の周りの男たちが、口々にはやし立てる。

「ちょっと、証拠を見せて見ろよ。マイク」

「はあ、証拠と言われても。もう、全部換金してしまったんですよ」

 そう答えると、髭面の男は急に怒り出した。

「はあ?いいから、俺に見せてみろって言ってんだよ。いや、見せるだけじゃねえ、あるだけの魔石を置いてけよ。痛い目みたくなかったらな」

「はあ」

 さすがに気づいた。どうやら、俺は脅されているらしい。

 きっと、彼らはEランク冒険者なのだろう。俺の様な新米冒険者を捕まえては、魔石を奪ってそれを換金しているのかもしれないな。

 それは、分かったがどう対応したものか。まさか、街中で剣を振り回すわけにはいかないだろう。そう、思っていると、いつの間にか髭面の男の仲間たちが俺の、左右と後ろに回り込み、俺を取り囲んでいる。

「ほら、早くだせよ」

 髭面の男が、俺を急かす。うーん。どうしたものか。そう考え込みながら、あたりを見回す。すると、道の反対側に女一人、男二人のパーティーを見つけた。助けを求めようかと、見ていると、ちょうど女の子と目が合った。

 すると、何を思ったのか、女の子が突然こちらへ走ってきて、俺の目の前の髭面の男に、華麗な飛び蹴りを炸裂させた。

「ぐあぁっ!」

 吹っ飛ぶ髭面の男。慌てふためく、周りの男たち。華麗に、着地を決めた女の子は俺のほうを見て言った。

「危ないところだったわね!でも、あたしが来たからには大丈夫よ。安心して!」

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