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13.町にて

「おはよう。マイク」

「おはようございます。ご主人様」

 朝起きて朝食をとろうと食堂へ降りていくと、エリスとアガサの二人はもう食事を始めていた。

「おはよう」

 挨拶を返して、二人の前に座る。すぐに、宿の女中が食事を持ってきてくれる。やはり、銀貨亭となるとサービスもいいようだ。

「今朝は、さっぱりした顔してるね」

「そうでございますね」

「別に昨日までと変わらないけどな」

 そう言うと、エリスとアガサの二人はこそこそと話し出した。

「……アガサの……悶々と……寝れない……の」

「……一人で……ご主人様の……」

「えっ……マイクが……マイクの……マイク……やだ。……ベッドに?」

「さようでございます」

「えー。今日は部屋を取り替えようと思ってたのに。そんなベッドで寝られないよ」

 最後には声が大きくなっている。別に一人でベッドを汚すようなことはしなかったんだが。

「何で俺が一人でしたみたいな話になってんだよ」

「したんでしょ?」

「してない。安心しろ」

 きっぱりと断言する。

 安心した顔をするエリスとなぜか不安そうになるアガサ。いや、別に健康な男子としての機能を失ったわけじゃないからね。

「大丈夫だ。俺は欲求を我慢できる健康な男子というだけだからな」

「さようでございますか。何かいい夢でも見たのではないかと心配いたしました」

 こいつ、俺の夢の中でも覗けるのか?いや、大丈夫あれはノーカンだから。

「それより、これからの目標を決めようと思うんだが」

「どういうこと?バンバン魔物を倒して、Cランクになるんじゃないの?」

「何か、考えがあるのでございますか? ご主人様。」

「ああ。俺は侯爵を目指そうかと思っている」

「おおー。大きく出たね。マイク」

「それでこそ私のご主人様でございます」

 無謀と笑われるかと思ったが、意外と好印象な感じだ。

「侯爵を目指すとすると、今後どういった感じでやっていけばいいかな?」

「考えてないの?」

「いや、小魔族を倒すんだろうってことは、分かるんだが。大体、小魔族ってどこにいるんだ?」

「魔族というのは、暗い森の奥のほうにいることが多いといいます。まずは、暗い森を探索しながら偶然出会うのを待つというのが普通でございましょう」

「結局偶然にかけるしかないのか」

「まあ、しょうがないじゃない。暗い森を探索すれば魔石だって手に入るだろうしさー」

「そうだな。まずはその方法でいってみるか」

「じゃあ。また、レイルさんのところに行って旅に必要なものを買う?」

「そうするか」


   *


 三人そろって宿をでて、ぶらぶらと歩きながらレイルの店を目指す。

「あ。武器屋がある。ちょっと見てこうよ」

 エリスが言いながら、店に入って行く。まったく落ち着きがないな。アガサと顔を見合わせるが、仕方がないと苦笑してエリスについていく。

「いらっしゃい。何かお探しのものがありますか?」

 ドワーフ族なのだろう。背が小さく俺の胸ぐらいまでしかない男が声をかけてきた。豊かな顎鬚を生やしているので年齢はよくわからない。小さいながらも頑丈そうな体つきだ。

「なんか、いい武器はあるー?」

「うちの店の武器はみんないいもんだよ」

 エリスの大雑把すぎる聞き方にドワーフの主人は気を悪くしたようだ。そういえば、ドワーフとエルフというのは仲が悪いのが通例のはずだが、この世界ではそれほどでもないようだな。

「剣はあるか? 魔族も切れそうなやつがいいんだが」

 そういうとドワーフの主人は、がははははと大声で笑い出した。

「お前さん。新人冒険者か? 魔族を切れる武器なんてこの世に存在しないんだぜ」

「そうなのか。今度、魔族と戦う予定があるんでね。一応用意しておこうかと思って」

「馬鹿なことを考えるんじゃない。そんなことをいってたら、すぐに死んじまうぞ。可愛い娘を二人も残して死んだらもったいないだろう」

 俺が本気らしいと思ってくれたのか、主人が心配そうに言う。いかつい割にいい人のようだ。

「どうしても魔族を倒さなきゃならない理由があるんだ。……じゃあ、今使ってるこの剣よりちょっと上等な奴はあるかな」

「魔族を倒さなきゃならない理由ならこの町の全員にあるさ。出来ないっていうだけでな。だが、お前さんにはできるってのか?」

「さあな。だが、やると決めたんだ」

「なるほど。決めたんじゃしょうがないな。せっかくだから死ぬ前に名前を聞いておこうか。わしはこの店をやってるダットという。」

「マイクだ。こっちはエリスとアガサ」

 そう言って、今まで使っていた剣を見せる。最初から持っていた剣なので愛着もあるが、何度かの戦いで大分痛んできている。

「大分痛んでるな。だが、腕は悪くないようだ」

「ありがとう。俺にあう剣があるかな」

 ダッドは、ちょっと考えていたが何か思いついたように店の奥へ行くと一振りの剣を持ってきた。

「特に、今のやつと変わらないように見えるが」

「別に貴族様じゃないんだから、装飾のついた剣などいらないだろう。この剣は、魔族を倒そうとしていたやつが鍛えた剣だ。そいつは魔族にやられて死んじまったんだがな。ひょっとしたら、お前さんの助けになるかもしれん」

 俺は、ダットが渡してくれた剣を見る。もしかしたら、死んでしまった奴というのはダットの弟子か、本当の息子なのかもしれないな。

「じゃあ、俺がこの剣で魔族に一太刀食らわしてやるよ」

「いいのー?マイク。そんな約束しちゃって」

「大丈夫です。ご主人様が嘘をつくようなことは私が許しません」

 エリスとアガサが茶化すが、俺はダットを真っ直ぐ見て剣を鞘にしまった。ダットは、大きく頷くと片手を差し出した。

「金貨2枚だ」

 握手をしようとした俺の手が途中でとまる。てっきり今の流れは、この剣を譲ってくれるものだと思ったが。まあ、商売だしな。おとなしく金貨2枚を払う。

「じゃあ、結果を楽しみに待っていてくれ」

「まあ、死なない程度に頑張れよ」


   *


「ご主人様。服屋でございます」

「そうだな」

「ご主人様。服屋でございます」

 今度は、アガサか。俺が頷くとアガサとエリスは連れだって服屋に入って行く。ここは、難しい場面だが金が無限にあるわけじゃない。俺は、外から二人を眺めることにした。

 かといってずっと店の中を眺めているわけにもいかない、俺は何とはなしに通りを歩く人々を観察する。

 冒険者の町というだけあって、やはり冒険者らしき人が多い、みな4~6人くらいのパーティーで歩いている。冒険者ギルドのほうから歩いてくる人達は、報酬を得たばかりなのか笑顔がみえる。きっと、これから装備でも整えるんだろう。

 門のほうからやってくる冒険者たちの中には、どことなく暗い表情を浮かべている人たちもいる。きっと戦闘で仲間を失うようなことがあったんだろう。残りの人も怪我をしたりしているようだ。

 冒険者以外の人達もいる。今夜の夕食の買い出しに出かけるのであろう宿の女中のような人や、走りまわっている子供の姿もみえる。

 色々な人達がいるな。

 そう考えると、俺はこの人達になにかできるのだろうかと思う。

「何を思い上がったことを考えてるんだ。馬鹿め」

 呟き、自分を戒める。別に俺は神様じゃない。やれることをやっていくだけだ。まずは魔族を倒す。あとのことはそれから考えればいいだろう。

「マイクー。ちょっと来てー」

「ご主人様。金貨5枚でございます」

 俺にできること……まずは、財布から金をだすか。


   *


「久しぶりだな。レイル」

「これはこれは、無事で何よりです。マイク様。そういえばDランクにランクアップなされたようで、おめでとうございます。多分この町のギルドでは最速記録ですよ」

 相変わらず謎の情報網があるらしい、実は魔女ギルドの手先なんじゃないか?

「私はまっとうな商人ですよ。商人には商人の繋がりがありますので」

 真面目な顔で答えるが、何とも胡散臭い。

「今日は、どういったご用件でございますか?」

「マイクがねー。侯爵になりたいんだって」

「侯爵を買いに来たみたいに言うな。まあ、そんなわけで暗い森に探索に出かけようと思っている」

「なるほど。何日ぐらいのご予定で?」

「最初だからな。行きに10日、帰りに10日で20日くらいか」

「それでしたら、前回の装備品を確認させていただいて、いくつか補充するだけで良いとおもいますよ。リュックやポーチを見せていただければ、ジルに確認させましょう」

 そういって、ジルを呼ぶ。ジルが俺たちの装備を確認している間に、ピピン村での出来事を話す。

「もうねー。でっかいゴブリンをマイクがズバーッババババンとやっつけて」

 エリスが身振り手振りに加えて謎の擬音を交えて話してくれるが、多分伝わってないだろうな。

「旦那様。装備品を補充しておきました」

「そうか。ありがとう。……マイク様。今回は補充だけのようですので、金貨2枚で大丈夫です」

「安いな」

「テントや鍋類などは、前回いいものを買っていただきましたからね。これからも続けて使っていけると思います。まだ、修理が必要なほどではございませんし」

「そうだ。テントもう一つ買う?」

 エリスがにやにや笑いながら言う。今度は、騙されないぞ。どうせ一人用のテントを買ったら、その夜は女二人と男一人に分けられるに決まっている。

「いや。俺たちはパーティーなんだから一緒でも大丈夫だろう?」

「そうでございますね。慎み深いご主人様と一緒でしたら私たちも安心でございます」

 アガサが俺に釘を刺す。今回の旅もせいぜい慎み深く過ごすことにしよう。だが、あまり慎み深すぎると女性たちの魅力が薄いと思わせてしまう。難しいな。

「さて、行くか。また、報酬が沢山出たら来るよ」

 そう言って立ち上がる。あまりここに長居するのは危険だ。何を売りつけられるか分からない。

「期待しております。お気をつけてマイク様」

 にこやかに笑うレイルに手を振り、店を出た。そのまま、町をでるために門へと向かう。


   *


「おっ。エリス。Dランクに上がったんだってな。スピード出世じゃないか」

「まあねー。マイクとアガサのお蔭だよ」

 今日の門番は、久しぶりに会うモーガイだった。

「まさか、Eランクの初仕事で大魔石をもってくるとはな。美女二人に囲まれて、もう一生分の運を使い果たしてるんじゃないかと思ったが、まだ運があったみたいだな」

「そうだな。だが、これからもっと運が必要になりそうなんだ」

「どういうことだ?まさか、さらに女を増やそうって訳か?」

 モーガイの言葉に反応したのか、エリスとアガサがこちらを振り返る。否定するように首を振った。

「そうじゃない。笑わないで聞いて欲しいんだが……実は魔族を狙ってる。何か情報みたいなものはないか? ちょっとしたことでいい」

「情報か? そりゃ俺は門番だからな。いろんな冒険者から話は聞くが。だが、タダというわけにもいかないな」

「金か?」

「おいおい何言ってるんだ。情報には情報っていうのが決まりだろ。例の件はどうなった?」

「その話か……実は、比較にまでは至っていないんだ」

「なるほど。だが、今回の旅ではやってくれるんだろうな。もし、そうならば情報をやってもいい」

「……努力するよ。劇的なことが起こるようにに願っててくれ」

「もちろんだ。俺は毎日女神様への祈りを欠かした事がないのが自慢なんだぜ。じゃあ、ちょっとした情報をやる。ここから暗い森が見えるだろう。左斜めの方角に進んだ連中はバーティーメンバーを失ったり、けがをしたりの奴らが多い」

「そうか。ありがとう」

 モーガイに礼を言って、先行するエリスとアガサを追いかける。

「何の話?」

「暗い森の情報だ。左斜め方向にいけば魔族と出会う確率が高いらしい」

「素晴らしい情報でございます。ご主人様。それで、情報の対価はどういったものを差し出したのでございましょうか」

 アガサが口の端に笑みを浮かべながら言う。すべて分かっているような顔だ。いや、分かっているような顔で俺を騙そうとしているだけに違いない。

「モーガイは親切な男だ。情報に対価なんて要求しない」

「さようでございますか。ご主人様。今回の目的が達成できるとよろしいですね」

 アガサが優しい微笑みを浮かべる。ちくしょう。やはり分かっているのか。

「そうだな。まずは魔族だ」

 アガサの言う目的とやらには触れずに答える。

「そうだよー。がんばろー!」

 エリスが元気な声をあげる。

 俺たちは、暗い森へ向けて歩き始めた。

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