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12.宿にて

「それにしてもさー」

「何だ? エリス」

「あんなに魔物を倒したのにさー。今回は、前みたいに金貨ざっくざくってわけじゃなかったじゃない。残念だなーと思って」

「まだ、村に被害がなかったということでございますから。良かったのではないですか?」

「そうそう。一応俺が住んでたらしい村に被害があったら寝覚めが悪い」

 アガサと俺は、突然馬鹿なことを言い出したエリスを窘める。

「第一、あんな村にそんな大金があるわけがないだろう」

「そっかー。でも今回は大魔石が手に入ったからねー。いくらになるのかなー」

「エリスはずいぶんとお金にこだわりますね。何か目的でもあるのでございますか」

「あるよー。旅に出る前に話したじゃない。銀貨亭に泊まるって」

「ああ。そういえばそんなこと言ってたな。大魔石の分があれば大丈夫じゃないか。ほかにも結構な量の魔石を集めたしな」

「ねー。じゃあ早く町へ戻ろうよ」

 そう言いながらエリスが足を速める。俺たちも顔を見合わせて苦笑しながら後を追った。

 ピピン村を出てから、もう十日目になる。帰りは街道沿いに歩いてきたので、ほとんど魔物に会うことはなかった。楽な旅だ。

 朝起きて、訓練をして、適当な話をしながらてくてく歩く。夜になれば、仲良くテントで三人で寝た。これを十回繰り返しただけだ。

 もちろん、アガサと仲を深めることはなかった。いや、精神的な仲は深まっているような気がする。せめて、深まってもらっていないといくらなんでも虚しすぎる。

 そんなことを考えながら、町の門をくぐって冒険者ギルドへと向かう。モーガイは今日は休みらしい。


   *


「やっほー。アリエラ。久しぶりー」

 相変わらずの軽い調子でエリスが、アリエラに声をかける。

「あら。無事だったようね。マイク。アガサ。エリスのお守りお疲れ様」

 にこやかにほほ笑みながらアリエラが答える。エリスが無事に戻ってきてほっとしているようだ。

「仕事は無事完了だよ。あと、これが今回集まった魔石」

 エリスがカウンターに魔石を並べる。

「ずいぶん集めたわねーって、これ大魔石じゃない!」

 驚くアリエラ。最初の仕事で大魔石を持ってくるというのはやはり珍しいらしい。

「ピピン村のはずれにゴブリンが巣を作ってたんだよー。そこにいって、あたしがバンバン矢を射って、アガサがスルスルーって女の子を助けて、マイクがでっかいゴブリンをバサーって切ったら出てきた」

 擬音ばかりで、何を言っているのかさっぱりだが、アリエラには通じたようだ。

「ゴブリンジェネラルを倒したってこと? 流石ねマイク」

「私のご主人様にかかれば、大したことではございません」

 なぜか嬉しそうに答えるアガサ。

「どうしたのアガサ。ずいぶんマイクと仲良くなったみたいじゃない」

「それはねー」

 エリスが、アリエラの耳元でこそこそと話す。ちょっと照れくさいな。

「えっ?……ネグリジェ……見て……全然……立たない?」

 ちょって待て。全然違う話になってるみたいだ。俺がいかに度胸がないかはいいだろ。

「なるほど。へたれなマイクが大魔石を持ってくるとは、恐れ入ったわね」

「いや。かなり格好良く倒したつもりなんだが」

「初めての仕事で大魔石なんて、多分この町のギルドでは初めてよ。ともかく、Dランク冒険者へランクアップおめでとうございます」

 そう言いながら、俺たちのギルドカードのランクアップ手続きをしてくれる。カードにDランクの文字が刻まれ、ランクアップ時の女神の声が聞こえたのだろう。またしても、エリスがあたりを見てきょろきょろする。それ、録音らしいけどな。

「Dランクの冒険者になれば、暗い森への常時立ち入りが許可されます。もちろん、自身がなければEランクの時と同じように、町への魔法石運搬の仕事をしてもらっても構いません」

「基本的には暗い森にいる魔物を倒すことが目的ですが、そのほかに魔力だまりといって魔物が発生する原因になっている物を壊すことも仕事になります。大体は、壺のような恰好をしているし、周辺に大量の魔物がいるのでわかると思います」

 アリエラが、俺たちの持ってきた大魔石を持ち上げる。

「魔力だまりを破壊すれば、大魔石が得られることが多いようです。そうやって、大魔石を集めていけば100個集めた時点でランクアップとなります。ですが、マイクさんの様に強い方は、侯爵への道を考えてもいいと思います」

 俺だけじゃなくて、エリスも強いんだがな。

「侯爵ってなんですか?初めて聞くんだが」

「知らないの? マイク。あれだよ、すっごい強いんだよ。魔女と一緒に戦うの」

 エリスの説明は相変わらず分からん。

「侯爵というのは魔女を領地として与えられた騎士のことです。通常の冒険者では魔族を倒すことは不可能とされていますが。ごくまれに魔族と戦って生き残る方がいた場合、魔女ギルドから魔女を与えられ、侯爵見習いとなるとされています」

「魔族って何だ?魔物とは違うのか」

「魔族は知性があり、私たちの言葉を解する魔族です。その力は魔物とは桁違いらしく、通常の武器では傷つけることが出来ません。まあ、出会ったら逃げることをお勧めします」

「逃げてもいいのか?」

「小魔族と言われる魔族の下っ端でも十分に強いのです、単独で勝つことなど考えないほうがいいらしいですよ。まあ、出会うこと自体が滅多にないことらしいんですが……とにかく、運よく魔族との戦いで生き残った場合に、侯爵への道が開けるということなんです。マイクさんは、運がいいというか悪いというか。強い魔物に出会いやすそうなので……」

「確かにそうかもねー。あんなでっかいゴブリン初めて見たし」

 エリスがアリエラの言葉に頷く。お前も一緒にいたろ。

「それで、侯爵見習いになると魔女の力をともにつかって何かすることで魔族を倒せるようになるんですけど、中魔族を倒した場合に侯爵になれるということらしいです」

「あやふやな話だな」

「すみません。冒険者への注意喚起ということで話す決まりなんですが、ひょっとしたらマイクさんには実際に起こり得ることかと思いまして。途中からは噂レベルの話なんですよ。なんといっても魔女ギルドというのは秘密主義ですから」

「とにかく、魔族にあったら倒そうと思わずに逃げろってことだな」

「理解いただけて、ありがとうございます」

「えー。倒そうよ。それで目指せ侯爵だよ!」

 エリスが声をあげるが、周りの冒険者は生暖かい目で眺めている。どうやら、本当に噂話程度の話のようだ、魔石を集めてランクアップしていくほうが確実だな。

「侯爵がいることは事実でございます。ご主人様」

 アガサが、小声で俺に言う。

「本当か?」

 俺も小声で言うとアガサは小さく頷いた。

「王都を守る十二本の剣、それが侯爵でございます。それぞれが領土として魔女を持ち、その力をもって魔族と戦う者たち。いずれ、ご主人様も会うことがございましょう」

 いや、別に会いたいわけじゃないが。

「話はそれだけかな。終わったんなら、今回の魔石を換金して欲しいんだが」

「はい、大丈夫です。今回の報酬は……大魔石が金貨10枚、中魔石が金貨1枚、小魔石が2個で銀貨1枚ですから……」

「待ってくれ。ずいぶん前回と価格が違うんだが」

「ええ。前回は冒険者ギルドに所属する前の価格ですから、冒険者以外の人が無謀な行動をしないようにわざと価格に差をつけているんです。マイクさんが特別なだけで、普通の人はゴブリンを倒すことも珍しいぐらいなんですよ」

「そうなのか」

「そりゃそうだよ。あたしだって最初マイクが冒険者だと思ったもの」

「全部で金貨24枚と銀貨5枚ですね」

「おー。やったねアガサ。マイク。今晩は銀貨亭だよ!」

「そうでございますね。アリエラ様。ありがとうございました」

 喜ぶ二人と冒険者ギルドをでる。アリエラの話が長かったので、もう夕方だ。エリスが前から泊まってみたかったらしい、銀貨亭の一つに宿をとる。

「今晩はー。二人部屋一つと一人部屋一つでお願いします。食事は? ああ、下の食堂でとれるの?」

 エリスが宿の受付に言う。そうだよな、二人部屋と一人部屋だよな。つまり今夜は二人っきりって事か。

「先に食事してから部屋に行こうよ」

「ああ」

 エリスの言葉に頷き食堂へ向かう。アガサの食事ももちろんおいしいが、やはり落ち着いた場所で食べられる食事は安心する。今晩への期待もふくらむしな!

「楽しそうだね。マイク。やっぱり、大魔石がいいお金になったから?」

「確かに金貨24枚は、最初の仕事にしては十分なお金でございます」

 分かっているくせに、エリスとアガサが聞いてくる。別に金が入ったからだけじゃない。

「今晩は、安心して寝られるからな」

 そう、エリスなしで安心できるからな。そう思いながら答える。

「そうだね。じゃあ、食事も終わったし、部屋に行こうか。アガサ」

「そうでございますね。エリス。ではお休みなさいませ。ご主人様」

 エリスとアガサがくすくす笑いながら部屋へ向かう。どういうことだ? いや、どういうこともない。女二人で二人部屋。男一人で一人部屋。普通のことだ。

 いや、普通なのか? ひょっとして、二人で俺のことを待っているんじゃなかろうか。そう思いながら、一人で部屋に入り、ベットで横になる。あー、でもこのベット本当にふかふかだな。だんだん眠くなってきたよ。


   *


「お客様の中にお医者さんはいませんかー?」

 どうやら、またしても夢の中にあいつがやってきたようだ。

「お客様の中に、大きなお注射をお持ちのお医者さんはいませんかー?」

 なぜか、薄いピンク色のミニスカナース服の女神が口に両手をあてて卑猥なことを叫んでいる。

「何でナース服なんだ?」

「最近マイクさんの頭が高野豆腐の様にスカスカなようなので治療が必要かと思いまして」

「いやいや、どっちかっていうとお前の頭がスカスカだよ。だいたい、どういうことだよ?」

「え、そんなにスケスケじゃないですよ。モザイク不要な範疇です」

 スカートをたくし上げて、ガーターベルトとパンツを見せる。確かにスケスケのようで肝心な部分は隠れている。問題なしだ。

「いや、そこじゃない。マイクの事だよ」

「お注射じゃなくて、マイクってことですか。一物自慢はやめてくださいよ」

「そうじゃねーよ。なんでマイクにこの世界の過去があるのかって聞いてるんだよ!」

「ああ、その件ですか。それは、色々事情があってですね。ひょっとして、元のマイクさんの人生を奪ってしまったことを悔いているんですか?大丈夫ですよ、あのままだったらマイクさんはあの場所でゴブリンに殺されるところだったんです」

「え。そうなの。まあ、ちょっと気は楽になったけど」

「そうでしょう。そうでしょう。あのですね、あの世界では魔女ギルドがすごい力を持っていて、国中の人間を監視してるようなもんなんです。だから、急に人を増やすわけにはいかなかったんですよ」

「それで、俺をマイクに乗り移らせたわけか」

「まあ、そんなような感じです」

「どっちなんだよ」

「あれ。まさかマイクさん。違う世界から来たことが嘘だなんて思ってませんよね。だって、元の世界の記憶があるじゃないですか」

「いや、一応あるんだけどさ。なんか大分記憶が希薄になってるんだよ」

「それは一日千秋使ったからじゃないですか。大体あの不思議アイテムは。使うたびに体が元にもどることを利用して何度も処女をいただくためのものなんですよ。何普通に特訓してるんですか」

「そうなのか? そりゃ、悪かった。確かにそのせいもあるかもしれないけど、それならこの世界での記憶も薄らいでもよさそうなもんじゃないか?」

「ちっ。余計なところで頭が回りますね」

「いま、舌打ちしたろ。どういうことだよ。実は俺はこの世界の人間ってことはないんだろうな」

「さあ。どうでしょうか。それより、ナースキャップは外したほうがいいですか?それともつけたままのほうが興奮します?」

「露骨に話をそらすなよ。どうも、怪しいな」

「いいじゃないですか。出自がどうあれ、あなたはこの世界のマイクさん。20歳。非童貞。ついにアガサちゃんとやっちゃいましたね。その後してないけど」

「その話はやめろ」

「せっかくの宿なのに、寂しく一人寝ですか。私が夢に現れなかったらどうしたんですか?」

「いいじゃねーか。それより、さっきの話を続けろよ」

「それはまだ言えません」

「言えないことがあるっていうことだな」

「そうとも言いますね。知りたければまずは侯爵になることですね」

「侯爵か。つまり魔族を倒せということだな」

「そうですね。マイクさんは運がいいから、きっとそのうち会えますよ」

「そうか。じゃあ今日はもういいや。お休みー」

「え。ちょっと待ってくださいよ。まさか、アガサちゃんがいるから私は用無しですか?」

「まあ、そうだな」

「いやいやいや。これは夢の中ですからノーカウントですよ。ノーカン」

「でもなあ」

「じゃあ。アガサちゃんにはできないことでがんぱっちゃいますから。ナースキャップもつけたままにしますから」

「アガサにできないことって?」

「マイクさんのマイクを胸に挟んで歌っちゃいますよ。このD……そういえば、Dランクにランクアップおめでとうございます。……おまけに、何度でもOKですよ!」

 Dカップか。うん。今日は長い夜になりそうだ。


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