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第6話

 ――ん、朝か。

 目が覚めると明るくなっていた。


 顔に貼り付いていた文をたたみ、棚へ直した。


 装束は、そのままでいいか。

 内裏へ向かおう。


 身体が怠い。しかし、書庫へ行かねば。




 機は、逃してはならない。人の世とは機に満ちている。いかに察知出来るか。いかに掴めるか。限られた生の中で探り、掴み、奪い合う。それが人の生という遊戯なのだ。



 父は掴めた。私がまだ産まれる前。帝の後継争いが起きた。


 父は天武帝に付き従った。勝ち方に元より着けたお陰で信頼と官職を賜ることができた。



 私もそれに乗ずる事ができた。律令の詔が発令されたときに右大臣に任命された。

 他の者より機を察知できたと自負している。




 そして、今である。


 今こそ、それ以上の、我が系譜今昔において最たる時機なのだ。




 大路を歩く。白鷺が空を舞い、内裏の方へ飛んでいった。


 あれは鷺か白鳳か。

 雅に舞え。私のように。



 敵は、4人。私より劣っている4人だ。庫持、石持は若い。庫持は冴えてはいるがまだ青い。欲を体より発しているのが分かる。理が付いていないのだ。未だ獣同然。


 石上、大伴なぞ下位の者にも負ける訳がない。奴らは機を掴めない。石上。悪いが利用させて貰おう。


 私には姫が必要なのだ。今の位を投げてでも姫と添い遂げたいのだ。世の半ばは女と言えど姫は一人なのだ。


 同じ代に生を受け、こうして会えた事は必然だったのだ。そうしなければならないのだ――




 内裏に着いた。


 皆既に揃っていたようだ。呆けどもが何か言ってくる。


 何を言っているのか。




 ――のように話し合ってるのですが



 なんぞ下らないことでも言い合ってたのか。



 よいよい。お主たちの好きなようにしよう。

 認める。






 書庫へ向かうと石上が付いてきた。


「いやに、通った甲斐があったな。中納言、私をあの邸へ誘ってくれてありがとう」


「いえ、そんな大仰にならなくても。私こそ感謝の気持ちはあなたより大きいので。


 それで、昨夜早速調べました。火鼠のことを。書を開き、外聞の有るものに尋ね、僅かですが見聞きすることが出来ました」


「お、お主。本当か!どこまでお主は慈悲が深いのだ」


「いえいえ、火鼠ですが、我が国には生息していません。唐の国の煙立つ山に生息しているらしいです」


「そういえば、姫に頂いた文に唐土におると書いてあったな」


 読み流していたがあの文には情報はあったのだ


「高麗との交わりも無くなり、唐とも交流の少ない今、この書のような航路は取れなくなったと伺っております。百済を経し随へ渡れた頃はそれほどの危険はございませんでしたが――」


 石上が図を差しなぞる。


「唐土へ渡るにはこのように西へ向かわねばなりません。佐世保の先、さらに西海に島が点々としてるので、それを伝い行くのが航路だと伺いました。高麗を伝うより危ういと思いますのでどうかお気をつけ下さい」


「はは。心配なぞ要らん。私の従者に任せる。私は彼の報を邸で待つだけだ。政も要が重いではないか」


「いえ、もしその者が金を持ち消えてしまわないと言えるのでしょうか。その者に力がございますか?贋作を見抜く才や識を供えていますか?


 長い時間をかけ消息を絶ち、他の者に出し抜かれても宜しいのですか?」



「それに――」






 ……え?











「それにあなたは先程自ら職を辞したではないですか――」










 ……え?











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