第4話
そうこうしているうち、姫に会えぬまま月日が流れていった。春を越えて夏に差し掛かろうとしている。
家の周りにいた人は一人、また一人と消えていき、今では家に通うのは私達5人になっていた。
石持はうんざりしているようだが、庫持に連れられ、嫌とも言えず毎日付いてきている。
私達は雨にうたれようとも欠かさず訪れた。雨でさえ私達を応援しているようだ。服に染みていく雨粒が心地よい。
ある日、5人がいつものように揃ったところ、家から誰かが出てきた。確かあのときの女中。今にもこけそうになりながら私達の元へ寄ってくる。
「あ、あの……姫様から文を預かっております」
……ふみ?……文?!文とな?!
「それは私にか!」
4人の声が重なる
「ふふっ。いえ、皆様其々にです。こちらになります」
女中がくすくすとしながら文を渡してきた。
あー。通った甲斐があった。私達は勝ったのだ。互いに熱い握手を交わす。ふと、頬に何かが触れた。確かめてみると濡れている。視界もぼやけている。
泣いているのか?胸から熱いものが込み上げてくる。
……ありがとう。父様、母様。私は今日ほど生に感謝した日はございません。努力すれば報われると毎日のように諭してくれた父様。私はあなたの教えのお陰で右大臣まで登りつめることができましたが、勅諭を承った日以上の感動を今覚えています。
封を開ける。文の頭を見てその場で崩れ落ちた。
――親愛なる阿倍御主人様。
会えないと伝えたにも関わらず毎日のように通っていただき、又、文も多分に頂き感謝の意に満ちております。
縁談を頂戴して長き間返事をしておりませんでしたが、今お受けしようと思います。――
う……うぁぁぁ……あーー……
万物の霊気が宿る。胸に全ての力が収束され、気を増して全身を駆け巡る。
古来よりの祖先が続々と降りてくる。
「ありがとう。ありがとう」
私が述べたのだろうか。言われたのだろうか。
地にうずくまり、嗚咽の止まらない私の元へ八百万の神が降臨してきた。祝辞を述べている。
とめどない。感謝、感激、感無量。
森羅万象をこの矮小な身体で受け止め、自由が聞かない。
未来が光の速さで巡っている。その後、阿倍御主人はかぐや姫と末長く幸せに暮らし、太政大臣になり帝の世を支えていくのでありました。めでたしめで――
「なんだこれは!どういう事だ!」
未来から引き戻される。首を向けると石持が顔を真っ赤にして吠えていた。何が書いてあったのだろう。私だけが受けたと言うことなのだろうか。そう言えば文は続いていた。何かあるのか。
手元に握りしめた文を開き読み進めてみる。顔は変わり力の無いため息が漏れた。
「――はぁ?」
――ただ、相手の本心を知らないままに結婚してしまうときっと後悔してしまいます。世の中でどんなに素晴らしいとされる方でも愛情の深さを確かめずには結婚できません。
貴方達5人がいつも家に来られている事は家の者から伺っております。5人のお気持ちは同じでしょうから私ではその中での優劣というものがつけられません。
なので考えたところ、5人のなかで素晴らしいものを見せて頂いた方を愛情の深い方と判断させて頂き、お話をお受けしようと思います。
其々にお題を出させていただきます。
貴方は唐土にあるという火鼠の皮衣を持ってきてください――