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家出したら異世界だった  作者: shino
砂漠を泳ぐ蛇
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007

「で、今日はどうする? もうここで一泊するなら、コリトさんに言ってくるけど」


 まだ完全によいの覚めないドロシーを連れて、ついでに柑橘系のジュースを一杯受け取って二階の部屋に戻っていた。口は達者に回ってたけど足下のおぼつかないドロシーは、どうやら酔いが体に出るタイプらしい。体に出るタイプってのがあるのか、未成年の俺にはわからんのだけども。


 てかやっぱ、この世界ってファンタジーのお約束的に、十九歳以下でも飲酒して良いんだろうなぁ……。


「んー、そうね。さすがに酔っぱらっちゃったもん。何も無ければいいけど、もし危ないモンスターに襲われたりしたら厄介だし……。ごめんね、私のせいで遅れて」


 急にしおらしくなるドロシー。かわいい。なんだよ急に。シュンってなって目尻を下げて、顔を赤くして上目遣いでこちらを伺うドロシー。かわいい。何だこの生き物。


 よく考えたらドロシーは女の子で、俺は男で、ここは個室でベッドは十分なサイズがあるんだよな。運動量が多い職業だからか、体に無駄な肉も無くて、すらりと整ったラインが服の上から微かに分かるし。肩のラインとかやっぱ女の子っぽい曲線で、少し押したら簡単に倒れそうな気がする。


 …………。


 落ち着くんだ、俺。一時の感情に身を任せてはいけない。それは今後の信頼関係に大きな禍根を残す。そうすればドロシーに養ってもらえなくなった俺は死ぬ。やめよう。落ち着け。素数だ。素数を数えるんだ。


「ん、じゃあ私、寝るわね」


 そういってぽすりとベッドに横になるドロシー。重力で旅装束が体にファンタスティックな感じになって、太もものラインが見える。ふくらはぎが露出している。そして裸足だ。靴はベッドの下だ。足は旅のせいか汚れている。


 天啓を得た。


「ドロシー。すまないがちょっとだけ起きていてくれ」


 柑橘系の爽やかなジュースを一口飲んで頭をすっきりさせる。おもむろに部屋を出る。コリトさんに宿泊する旨を伝えるとともに、桶に水を張ったやつを持ってきてもらうようお願いする。ついでにもう一つ小さい桶ももらう。届けてくれたのは猫耳少女だったが、猫耳少女の顔は極力見ないようにして(かわいかったから)俺は部屋に戻る。


 部屋ではドロシーがベッドに座っていた。いつもの感じで首を傾げる。


「なによ、桶なんか持ってきて」


「ああ、ドロシーの日頃の疲れをどうにか癒せないものかと思ってな。足を洗って、マッサージしてやるよ」


「ほほう?」


 ドロシーがにやりと笑う。サドっぽい笑いだ。おっとりした顔でサドっぽく笑う女、ドロシー。マニアに受けそうだ。俺とか。


「それじゃあ健気なコースケの為に仕方なく奉仕されてあげようかしら」


「任せておけ」


 桶をポジショニングする。ベッドの脇だ。これでドロシーはベッドの縁に腰掛け、俺に向かって足を差し出す形になる。もちろん足を前に差し出しているだけだと疲れるから、俺はそのドロシーの足を手で保持する必要があるわけだ。足首あたりを手で支えなければならないわけだ。これは必要なことだ。ああ、必要だとも。


 大きな桶に布を浸し、たっぷりを水を含んだそれを取り出す。滴り落ちる水がすこし床を濡らすが、多少なら問題ないだろう。


 どうせ埃っぽい床だ。砂漠だからどうしてもすぐに砂埃が溜まってしまうのであって、けっして掃除が行き届いていないわけではないんだろうけど。土足だしな。仕方ない。


 温い水の滴る布でドロシーの足を包み、片手でまず足の裏を丁寧に拭く。


「んっ……」


 ドロシーが声を上げる。そして俺はまるで(・・・)その声につられたかのように、ドロシーを見上げる。


 足のラインが見える。


 脛、太もも、そしてギリギリ奥まで見えるか見えないかだ。足をあげて俺に向かって差し出してるわけだからな。普段はブーツで隠れて見えないが、今はそれも無い。もちろん旅装束だから太ももまで素足ってことはないが、ドロシーの着ているやつはけっこう足のラインが出るタイプの、薄いものだ。呪文をつかって頑丈にしているらしいことを、俺は《呪文の王》の権能で把握している。


 この光景を目に焼き付けるんだ。


 俺はドロシーが不審がらないようになるべく慎重に、足を拭いていく。足の裏、甲、足首、ふくらはぎ。さすがに太ももまでは手を伸ばせないが、裾を捲ってふくらはぎまでは露出させた。これだ。このふくらはぎと足首だ。


 砂漠で風呂に入るわけにもいかないから、足の裏の汚れはなかなか落とし甲斐があった。そしてドロシーの足はエロい。そのエロい足を俺は今好き放題している。いいか、好き放題だ。この意味が分かるか。


 マッサージを始める。油なんてないので、水で濡らしてだけど、まあ大丈夫だろう。足の裏を揉んで、凝った筋肉を探していく。そうしながら、ドロシーの足の感触を手に焼き付けていく。時折、太もものラインを観察することは怠らない。


「どう? 痛くない?」


「ちょっと気持ちいい……かも」


 録音した。


 いや、そうじゃない。ドロシーの疲れを癒すことができているみたいでとても嬉しいよ。こうだ。間違えるな。


 そんな感じで両足とも終わらせて、童貞的な思い出とともに俺の奉仕活動は終了したのだった。


「ありがと。なんか足が軽くなった気がする。前の世界でもやってたの?」


 やらせてくれる女の子がいたら良かったんですけどね、ええ。


「いや、そういうわけじゃないよ。でもやり方はなんとなく知ってた」


「ふうん」


 小さい方の桶に溜まったドロシーの足の汚れは放置して、ついでに俺も上着を脱いで体を拭く。ドロシーの足を拭いた布で、体を拭くのだ。意識しだすと何でもエロい。これが男子高校生の力だ。


「ねえこのジュース飲んで良い?」


「ん、別に良いよ。どうせドロシーのお金だし」


「それとこれとは別でしょ」


 そういいながら机の上に放置していた柑橘系のジュースを一口飲むドロシー。心無しか顔の赤さも少し引いている気がする。


「はあ、それじゃあ疲れたし、寝ましょうよ」


 録音した。


 ……いや、しかしまずいな。三大欲求の一つが抗議の声を上げている感が否めない。有り体に言えばムラムラする。どうするかなこれ。


 いや、とりあえずはどうしようもないか。せめて自分で稼げるようになってから、そういうお店にでもいこう。そうしよう。むしろそれしかない。


 ドロシーに頼ってばかりで入られないという男子的モチベーションの他に、早く自分で稼ぎたいという男子的モチベーションが合わさった感じだ。


 《暗がりの呪文》で魔煌灯(まこうとう)の明かりを消す。夕日ももう落ちていて、部屋は寒くなり始めている。一つしか無い毛布をドロシーに渡して、俺は荷物の中からいつも遣っている毛布を取り出して、それを被った。


「別々なんだ」


「え、いやそりゃそうだろ。いつもと変わらないだろ」


「……まあ、いいけど。じゃあ本当に寝る」


 うん? なんか変な感じだ。まあいいか。


 しばらくするとお酒が入っていたからか、ドロシーはスースーと寝息を立て始めた。砂漠で寝る時はもう少し距離があるので、なんだか落ち着かない。足の感触が思い出される。


 いや、やめよう。あの足の感触は使うべき時がきっと来る。その時まで心の中に留めておくんだ。


 眠ろう。そう思って目を閉じ、心を落ち着ける。


 ……寝れない。


 仕方ない。日課でもこなすか。そう思って、俺は目を開ける。意識的に、もう一度、二つ目の視力(・・・・・・)を開く。


 白いウィンドウが現れた。天井に吊るされた魔煌灯(まこうとう)から、視界の隅に微かに映る毛布から、ドロシーの身につけたアクセサリーから、鞄の外側に括り付けられた短剣から、無数の情報が表示される。


 《呪文の王》の権能。異世界にやってきたときに渡された、俺のチート能力。


 この世界の物品にはいわゆる魔法具っていう類いのものがある。魔法具っていう名称は正式なものではない。この世界で「魔法のような力を使うことができる品物」はありふれていて、そうじゃないものの方が珍しいからだ。そしてそういったもののうち、呪文をつかって不思議な効果を得ているものがある。


 俺はそういったものに刻まれている呪文の内容を読み取って、しかも必要ならそれら呪文の構造を理解するためにさらに情報を得ることができる。隠された文字を見つける能力と、その文字の辞書を一緒くたにしたような感じの力だ。この力を使って、俺はすべての呪文を理解することができる。


 科学と文学が異なるように魔法と呪文も異なった技術体系で、関わりはもちろんあるんだけどそれぞれの限界もある。だから俺の能力だって万能ってわけじゃない。万能にほど近いと言っても過言ではないと思うが。


 表示された白いウィンドウを手繰って、まだ知らない情報がないか探していく。


 こうやって知識を貯えるのが、魔法の練習とは違うもう一つの日課だ。


 《明かりの呪文》、《暗がりの呪文》、エルゾアの光結晶(エルゾア・トーチ)、エルゾア・ディアノートの記した原典の準精霊化、《街灯の呪文》、《閃光の呪文》……。


 呪文に反応して光を灯す魔煌灯(まこうとう)の詳細から、順繰りに辿っていく。旅の途中ではたき火を使っていたから、この道具を見るのは初めてだ。ドロシーが持ってないってことは、高価なのかもしれない。高価で持ち運びに不便なものを持っていると困ることがある、ってドロシーは言ってたしな。


 そうやって眠くならない頭を無理矢理に働かせていると、騒ぎ声が聞こえてきた。楽し気な感じじゃない、剣呑としたやつだ。


 ドロシーを起こさないようにそっと起き上がって、部屋を出る。


 再び酒場に降りると、テーブルが倒れて酒場の真ん中に人だかりの無い空白ができていて、そこには青い鱗のアテアグニ族の少女と、蛇っぽい鱗の戦士とが、向かい合って立っていた。

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