分岐Xへ
俺をキムラと呼ぶ者は、もういない。
地球が今どうなっているのか。宇宙亀がどうなったのか、俺に知る術はない。
冷凍催眠で半永久的に眠りにつくはずだった俺は、ある日、唐突に目覚めた。
俺は長い夢をみていた。
夢の中で俺は会長・襟長絶対だった。会長は生まれた時から麒麟児と呼ばれ、小学校、中学校と将来を有望視されて生きてきた。が、高校時代に大きな挫折をして、立ち直れず、父親と弟の巨大なカリスマに押しつぶされた。それでも何とか立ち直って、世界と人生と将来に希望を見出そうとした。でも宇宙亀は巨大すぎて、どうしようもなかった。会長は狂った。狂って、乱れた。狂乱の果て、引力と遠心力を使ったよくわからない理論で、月を宇宙亀の眼に叩きつけて退散させた。だが、お陰で地球の地軸が乱れ天変地異が起こって、結局人類が滅亡してしまう。
そんな夢だ。
まるで会長が普通の人間のようだった、会長が悩んでノイローゼになるなんて、それこそ天地がひっくり返ってもあり得ないことだ。しかも、姉と結婚したりなんかしていた。
夢の話はいい。
俺が目覚めた時、周囲は暗かった。薄暗いという感じではない。明かりの存在しない部屋で目覚めたときのような暗さだ。真っ暗だけど、目が慣れているのだ。光のまったく存在しない場所では、どれだけ眼が慣れても視界は閉ざされたままだというが、今の俺は、なんとかどこにどんなモノがあるのかを判別することができた。冷凍催眠装置とクローン製造装置の稼動を意味する小さなランプの赤い光が周囲を淡く照らしているおかげらしい。
俺は、どうしてこんなところで寝ていたのだろうか。
俺は確か、リオと結婚して、子供を作って、最後にはハチに殺されたのではなかったのだろうか。
いや……。
いや、違う。
それは、夢だ。さっきまで見ていた夢。
あれ? 夢は確か、会長の夢ではなかったか。
曖昧だ。
何が夢で、何が現実なのか。などと考えていると、俺の脳が少しずつ、夢の影響から離れていく。夢と現実の区別が付きだす。
そうだ。ここは宇宙だ。
俺は結局、相対先輩の提案を、二つ返事でOKしたのだ。
あの日、俺は結局、ハチに本当のことを喋ることができなかったし、バイオゼロも助けに来なかった。会長は死んでしまったのだろうか。
現在位置は、計画通りなら、宇宙亀の頭蓋骨の中であるはずだ。
計画にあたって、千以上のロケットが打ち上げられた。中に入っているのは相対先輩の私兵であるアブソリュートクローン(倉庫でバイオゼロに瞬殺されたやつ)を、宇宙用に改造したアブソリュートクローン改だ。
そのうち一つに俺の積載されたロケットもあった。積載という言葉どおり、俺はその時には既に冷凍催眠に入っており、クローン製造装置ごと詰まれているだけだった。
アブソリュートクローンたちは、宇宙亀の表皮でウイルスたちを除去し、表皮にちいさな穴を開け、内部に侵入、一年かけて掘り進み、俺の超能力の効果範囲である(と推測される)前頭葉の付近までたどり着いた。
そこに俺の入った冷凍催眠装置とクローン製造装置が設置され、それを維持するための発電装置と、それらを全て管理・整備する装置が設置された。発電のためのエネルギーは、自分たちが根付いた宇宙亀の体液を利用した。
永久機関とまではいかないまでも、数世紀程度は稼動し続けることが出来るだろうし、その間に亀が太陽から離れていけばよし、そうでなくともリミットは数百年近く伸びると思われていた。その間に別の打開策が見つかればよし、と。
つまり、俺が目覚めるはずが無いのだ。
俺が目覚めるとすれば、計画が途中で頓挫した時か、もしくは機械の故障だ。
しかし、機械類はああして正常に稼動している。その証拠に赤いランプが……。
……まて。赤いランプ?
稼動を示すのは青いランプじゃなかったか?
俺は慌てて起き上がろうとしたが、長時間同じ状態で固定されていた体は、まるでいう事を聞かなかった。
暗く狭い密室で体の自由が利かないことに、俺は本能的な恐怖を覚える。
「……あ……うぅ……」
喉はかすれ、声も出ない。少し息苦しい。
首をめぐらせることすらできない。眼だけをぎょろぎょろと動かして周囲を確認する。
狭い室内だが、酸素がある。不慮の事故に備えてのことか、それとも何か別の要因があるのだろうか。
室内には所狭しと機械が置かれている。左方向は俺の金属性の棺の蓋が開いており見えない。右方向の壁端には鋼鉄製のタンスのような装置があり、赤いランプが二つ付いている。そこから俺の棺に向かって何本ものパイプが延びている。恐らくあのタンスは俺の生命管理なんかをするためのコンピュータだろう。
足元の方を見ると、やや長めの空間があり、やはり金属製のパイプが何本か壁に向かって伸びていた。出発前に聞きかじった知識によると、あれはクローン製造機に繋がっており、数ヶ月に一度、解凍したての新鮮な細胞をクローン製造機に送り届ける為のものだ。
視界の端にはドアが見える。そうだ。少しずつ思い出してきた。宇宙亀の頭蓋骨に設備を持ってくるのに、全ての装置をそれぞれコンテナに分けて移動させ、現地でスタッフの手によってつなぎ合わせるという作戦だったのだ。
つまり、あのドアの向こうには居住スペースがあり、文字通り死ぬまで保守作業に従事してくれているスタッフがいるはずだ。一応、全て機械任せで出来るようにしているが、人間の手で作った機械だ。故障もある。その故障を少なくとも十数年は抑えられるように何人かのスタッフも俺と同じようにこの施設に乗っているのだ。
「……ぁぁ……ぁ…」
もしまだ誰か生き残っているなら、俺のこの現状を知らせる必要がある。そう思って声を出そうとするが、かすれた声は声にはならない。
体は固定されているわけではないが、金縛りにあったように動かなかった。足に刺さった点滴から解凍時に栄養剤が流れ込んでくるはずだから飢え死にすることはなかろう。
最低でも数週間は動いていないであろう細胞の全てが眼を覚ますのには時間がかかる。
それより、俺は猛烈な喉の渇きを覚えた。焼け付くように喉が痛い。腹も減っているが、これは栄養剤が最低限なためだろう。
もどかしい。
欲望が体を支配している。
家族や最愛の人に別れも告げずにここまで来て、全てを切り捨てたつもりだったのに、今の俺は生存欲で溢れかえっている。生きたいと思う気持ちは本能だ、本能はどこまで行っても理性を上回る。だから仕方が無い。
俺の脳は現在、体を動かそうと必死だ。
全身が力の入れ方を忘れてしまったかのように動かない。もどかしい。常に自分の思い通りになってきたものがこうも言う事をきかないと、イライラを通り越して不安になってくる。
俺は焦りと共に全身に力を込め続けた。
動けるようになるまで何日かかっただろうか。
まったく物音のしない真っ暗な部屋で発狂しそうになりながらも、しかし必死で体を動かそうとした結果、ようやく俺は上半身を起こす事に成功した。
全身が震えそうなほど痛い。骨と骨の継ぎ目はキリキリと悲鳴を上げ、筋肉は今にも涙を流しそうな苦悶の表情を浮かべている。
痛みに対して俺に生まれた感情は苦ではなく楽だった。バイクは転ぶから面白い、体は動かないから面白い。ただ上体を起こすだけの動きに、俺は満足のいく達成感を覚えた。今なら、ただプールを往復していただけのドクロの気持ちが分かる。体を自由に動かすということは、ただそれだけで喜びなのだ。
時間の感覚はわからないが、相当な時間を費やした。途中に挟んだ睡眠は片手で数えられないほどで、一週間以上は確実に掛かっただろう。
最初に動いたのは喉だった。呼吸が出来る以上、声帯を震わせるだけで声が出た。腹と胸に力が入らなくて大声は出せなかったが、声を出す事は出来た。
そのか細い声でドアの向こうに対して助けを呼んだが、返答は無かった。
それにしても、恐ろしいぐらいに音がしない。か細いはずの俺の声がうるさいぐらいだ。
だというのに向こう側に声が伝わらないのはドアが分厚いせいか、もしくは途中に真空状態の空間が混じっているのか、向こう側にいる人々が俺の声を無視しているか、考えられるのはそんな所だろう。
俺は上半身だけでドアまで這いずって行こう思い、やめた。体が満足に動かないうちにこの棺から出るのは危ない。点滴をはずし、もし食料が無かったら、と考えると、うかつなことは出来ない。
それよりも俺は、周囲をよく観察することにした。
上半身を起こした事で、俺はさらに高い目線から部屋を見渡すことができた。
寝ていた上体では見えなかったが、どうやら壁際の床に入っているスリットから空気が流れ出しているようだ。
そこで俺は考える。
冷凍催眠は停止しているようだが、生命維持装置は動いている。空気が流れているということはその装置も稼動しているというわけだ。俺は手術衣のようなものを着ているだけだが、それでも寒さを感じないところを見ると、恐らくその他の機器も停止することなく動き続けているのだろう。機械の駆動は熱を生むものだ。
さて、その機器だが、何故動いているのか。
本来なら人がいなければそれらの機器は停止する、はずだ。宇宙亀から幾らでも電力を手に入れることが出来るとしても、余計なリソースを使うことは得策ではない。
やはり、ドアの向こうではまだ誰か生き残っているのだ。
三度の睡眠があった。
俺はようやく足を動かせるようになり、点滴を自らの手ではずした。
棺から降りて二本の足で立とうとして、派手に転んだ。床は冷たかった。
俺はハイハイを覚えたばかりの赤ん坊のように四つん這いで赤いランプの所に移動した。色は何かを伝えるもの。眼に見える情報源だ。
俺は高い位置にあるランプまで目線を上げるのに、壁を駆使して立ち上がった。いう事を聞かない足が恨めしい。
暗い中、ランプの周囲をよく調べてみる。
赤い光のすぐ上に、クレジットカードサイズのプレートが貼り付けられていた。
『Биологическая
реакция черепахи』
小さな文字でそう書いてある。
「よめないな………ロシア語か……?」
もう一つのランプの上に書かれた言葉を見る。
『Замороженные Гипноз』
これまた読めない。
この部屋においてある機械に書いてある言葉なのだから、どちらかが冷凍催眠装置に関連する言葉なのだと思うが、さっぱり意味がわからなかった。
遠目には分からなかったがさらに隣に三つほどランプが並んでいた。
点灯していない。プレートの意味もわからない。
無灯火という状況は考えていなかった。赤か青か、一かゼロかしか考えていなかった。
もしかすると黄色なんかもあるのかもしれない。
「結局、このドアから出るしかないのか」
俺は言葉にして自分の行動を決定した。声を出さなければ、またすぐ喋られなくなってしまう。声が出ないだけならまだしも、言葉まで忘れるのは避けたいものだ。
声は密室でむなしく反響した。
俺はずるずると床に座り込み、四つん這いでドアに向かって移動した。ドアはハンドル式の分厚いもので、ドアというより、むしろハッチといった方が正確だろう。もちろんミツバチではない。
俺はハッチについているハンドルを掴み、回そうとして、諦めた。
RPGで言うなら『あなたの力ではこの扉を開けることは出来ないようだ』といった所だろうか。力自慢のキャラをパーティに入れてもう一度調べれば、そのキャラが開けてくれる。そんなイベントが思い浮かんだ。
懐かしい思い出だ。そのゲームでは、事前にレベル上げをしておくと主人公の力のパラメータが、力自慢のキャラを上回ってしまうのだ。どうして主人公より力が低いのに、と子供ながらに不思議に思ったものだが、剣を振る筋肉と腕相撲をする筋肉は同じではないのだ。力といっても色々ある。
俺はハッチの事はおいておき、部屋を調べることにした。
差し当たっては食料だが、棺の裏側に保存食があった。ダンボール三箱分ぐらいだろうか。真空密閉された箱の中で、さらに密閉した容器に入れられており、賞味期限は書いていない。が、何もないよりマシだろう。俺は棺に戻り、はずしてからずっと液体を垂れ流し続けている点滴を再度体に刺した。
この点滴が流れている間は、食料に手をつけるのは尚早だ。
俺は手を開き、握り締める。何度もそれを繰り返した。
扉を開けるため、まず握力が必要だった。
そろそろハッチを開けようと思ったのは、十六度の睡眠の後だ。
俺が冷凍催眠前の、一般的な成人男性の肉体を手に入れるにはもう少し時間が掛かりそうだったが、既に部屋の中を自由に調べまわれる程度の脚力と腕力は取り戻した。
調べるといっても、この部屋にあるのは二つの機械と、食料品だけだ。
機械のうち一つは冷凍装置、つまり俺の棺で、これは外側からしか操作できない。そのためのパネルは蓋の上部にあった。例によって文字は読めなかったが。
もう一つは鋼鉄製のタンス。操作をするパネルのようなものが無いところを見ると、冷凍装置の付属品のようなものだろう。調べてみたが、操作系のパネルは付いていないようだった。恐らく自動管理装置か何かで、これを管理するコンピュータはハッチの外側にあるのだろう。
つまり、大切なのはハッチの外側だ。
深い眠りから目覚めた。
学生時代、社会人時代はこうして満足に睡眠を取ることも少なかった。時間に追われる毎日。規則正しいと言えばそれまでだが、常に制限時間を定められているようなものだ。今となっては窮屈に思う。
俺には将来の夢というものが無かった。
何故だろうか。やりたいことが無かった。子供にありがちな、パイロットになりたいだとか、消防士になりたいだとか、サッカー選手になりたいだとか、そうしたものすらなかった。
子供というのは普通、語呂や印象、もしくはゲームやアニメで得た知識だけで何かになりたいと言う。だが、俺はそうしたものから印象を受け、カッコイイと思う事はあっても、それになりたいかと聞かれると、いつも首を振っていた。
どうしてだろうか。
俺は棺の上に座り、読めない文字で書いてある保存食のパッケージを破り中身をほおばる。柔らかいクッキーのような食感で、口の中にいれるとどろりととろけた。
俺は冷めた子供だった。
自分の未来は暗いものだと信じていた。
中学生時代は、自分は二十歳になる前になんらかの事故か病気で死ぬと思っていた。
死にたいと思っていたわけではないが、死にたくないと思った事は一度も無い。
だからだろうか、将来の夢が無かったのは。
「でも今は生きたいと思っている」
生きてさえいればそれでいい。そうした消極的な本能の持ち主なのかもしれない。
「よしっ!」
俺は空になったパッケージを部屋の隅へと投げ捨て、勢いよく立ち上がった。
両手を見つめ、決意を胸に準備運動を開始する。
学生時代に何十回と繰り返し行ったストレッチ。屈伸、伸脚、あのハンドルを回すのに必要な筋肉は腕だけではない。
バンプアップ。全身の細胞に酸素を十分に行き渡らせ、俺はハンドルを握った。
まずは握力、ハンドルをしっかりと握り、締める。
「んっ!」
時計周り、回すときはそう決めていた。
右足に力を入れ、右手でハンドルを真下に落とすかのごとく全体重を掛ける。左手は肩から先、腕力だけでハンドルを押し上げる。
「ぐっ……うおお……」
一秒、二秒、三秒、無呼吸運動が続く中、俺は確かな手ごたえを感じていた。
一旦、力を抜き。
ドンッ、と左足を蹴り上げるようにして反動を付け、再度力を込める。
ドン、ドン、ドン。三度ほど反動を入れた時、ハンドルの奥底でゴキンという鈍い金属音がした。
後はスムーズだった。もちろんスムーズと言っても瓶の蓋を開けるかのごときスピードでカラカラと回ったわけではない。バーベルを持ち上げるような重い感覚で、ズリズリと引きずるように、ゆっくりとハンドルが回る。
それ以上回らなくなるまでハンドルを回し、俺は「ふぅ」と一息。
次の瞬間には壁に脚を掛けて思い切りハッチを引いていた。
俺の目に、何週間ぶりかの光が入った。
外に出たのかと思うほどの光量は、しかし俺の目が慣れていないだけだった。
棺のあった部屋を一回り小さくしたような部屋だった。小さく見えるのはスペースの半分が機械で埋まっているからだろう。恐らく同じ大きさだ。
俺の目の前には十個のディスプレイが並んでいた。そのうち半分は消灯していたが、残り半分は赤いランプとは比べ物にならないぐらいの光を放ち、部屋を照らしていた。
眩しくて目が痛くなった。暗がりの中で唐突に光を浴びせられたゴキブリは、こんな気持ちになるのだろうか。
光に目を細めながらディスプレイを見る。
「……まだ分かりやすいな」
ディスプレイには文字だけでなく、グラフや数字のようなものが映し出されており、それらは緩やかに変動していた。
最も分かりやすいのは、四角い記号の中に、人型のオブジェクトが描かれているものだ。脇には幾つもの数値が並んでいた。そのほとんどがゼロを示していることから、俺はこれが俺の冷凍装置を管理しているものだと理解した。
ここは管理室だ。
俺はそれ以上の理解を諦め、部屋の奥へと進むことにした。まだ扉があるのだ。
「……お」
気合を入れてあけようとした俺だったが、今回はすんなりハンドルが回った。開け閉めの回数の違いか、もしくはしっかり閉めていなかったか。
次の部屋も似たようなものだった。
違いとしては、俺の寝室と、管理室には角に扉が存在したが、この部屋は辺の中央に扉が存在し、さらに通路のように横に二つの扉が並んでいた。
俺は少し考えてから、右壁に沿って移動していく事にした。
結論から言うと、誰もいなかった。
施設は十二のブロックから出来ていた。細かく言うと、四つの施設と四つの管理室、それを繋ぐための通路だ。
冷凍装置、クローン製造装置、総合管理装置、そして居住区。
居住区は他のブロックよりも広く作られていた。食事設備、トイレ、寝袋などがそのまま残っており、生活の後が見られた。
開かれた日記帳があった。
しかし、冷凍装置や管理装置同様、俺には読めない文字だ。一冊しかもってきていなかったのか、数週間程度で日記は終わっていた。日記かどうかも怪しいところだ。
日記の裏表紙の端に書かれた単語が気になるが、今は放っておこう。
探索を続ける。
寝袋の傍にはヘタクソな落書きがしてあり、妙なリアルさがあった。
部屋の隅に転がっていたアナログ時計は半端な時間で止まっていた。
どれだけ生活臭が残っていても、人の姿は無かった。白骨死体ぐらい見つかるかと思ったが、本当に何も無かった。
「そうか、やっぱり、ロシア語か」
居住区の片隅でロシアの国旗を見つけ、俺はそう呟いた。
思えば、ハチとドクロが相対先輩のエージェントに出会ったのもロシアだったはずだ。かの組織の本拠地はロシアにあるのかもしれない。結局、例の組織と襟長財閥の詳しい関係もわからず仕舞いだ。
食料は無かった。
食料庫のようなスペースもあったが、残飯すらなかった。排泄物をリサイクルして使うのはもはや常識だが、それすらもない所を見ると、本格的に食糧難で餓死してしまったのかもしれない。
それにしては、やはり死体が無いのが不自然だ。
また何日か過ぎた。
俺は保存食でほそぼそと食いつなぎながらロシア語の勉強をしていた。
教科書はそこらじゅうにあった。各装置に書かれている専門的な文字はわからなかったが、居住区にある小説や日記は比較的わかりやすい字で書かれていたし、落書きや、そのへんの日用品に書かれている文字からも単語が読み取れた。
誰かの思い出の品だろうか、雑多な物の中に、一つだけ手垢にまみれた絵本があったのが大きい。それのお陰で俺はロシア語の簡単な文法を学ぶことができた。
わかったことが一つ。
『さようなら』
日記の末尾に書かれていた言葉はそれだった。
その言葉から、ここには誰もいないし、俺は二度と誰とも会う事が無いのだと悟った。
それから数日後、俺は発狂した。
■
何時間、何日、何週間経過しただろうか。
俺はふと、我に返った。
ブロック内はめちゃくちゃだった。煌々と光を放っていたディスプレイは叩き割られ、ランプは消え、よりいっそうの闇が空間を支配していた。
俺は、そんな中、どこかのブロックの中央で仰向けに寝転がっていた。
自分が何をしていたのか、曖昧にだが、思い出せる。
何故自分がこんな目にあうんだと喚いた。孤独が辛かった。暗闇の中、誰ともコミュニケーションを取れないことがこれほど辛いとは思っても見なかった。
両の拳をところ構わず打ちつけた。手の骨が砕けてもやめなかった。手の痛みよりも他の痛みの方が勝っていた。
疲れることは無かった。俺は飽きることなく喚き続け、暴れ続けた。
いや、もしかすると時折、糸が切れたように意識を失っていた時間があるのかもしれない。夢の中で、暗闇の中に向かって暴れていたのかもしれない。
飯を食った記憶もある。やけ食いだった。その場にある全てを食い尽くすかのごとく食いまくり、吐いて、また食った。食料が無くなる事は無かったが、排泄物はそこらに垂れ流しだったため、部屋の中は凄まじい異臭がするようになった。
そんなある日、俺は我に返ったのだ。
後悔した。泣き出した。
あのまま発狂したまま疲れ果てて眠るように死ねれば楽だったのに。
我に返ってしまったのだ。
さめざめと泣いた。泣いている途中で、ふと我に返った理由が見つかった。
目の前に扉があったのだ。
扉というより、ハッチというのが正確な感じの。
目の前というと、俺は仰向けに寝転がっているため、天井に扉が付いている事になる。
俺はのっそりと立ち上がった。
各所から乗れるような箱を持ってきて、積み上げ始める。
黙々とその作業を続け、すぐに不安定な山が出来上がった。
その山を登り、ハッチに手をかけ、不安定な足場に苦戦しつつ、ゆっくりとそのハンドルを回していく。
やがて、確かな手ごたえを感じて、俺は手を止めた。あとはこれを押し上げるだけだ。
と、その時だ。
声が聞こえた。
「兄さんは今、シュレディンガーの猫なのです」
幻聴だと思い振り返ると、姉の姿があった。なぜかスーツ姿だった。
「姉さんが、シュレディンガーの猫なんて知ってるなんて思わなかったな。どんなものか説明できるのか?」
幻視だ。そう思って問いかける。
すると、姉は苦笑した。
「……確か。箱の中の猫が生きているか死んでいるか、開けてみるまでわからないって話じゃなかったかしら?」
「そう、確か、そんな話だ」
俺は笑おうとしたが、乾いた音が喉の奥から出ただけだった。
幻が突っ込みを放棄して冷めた意見を言ってきた。幻とはいえ、姉さんらしい。
俺が黙ると、姉さんが口を開いた。
「様々なパターンの中で、兄さんが冷凍装置に入る確立はほんのわずか」
どうやら、俺がシュレディンガーの猫であるということに関する話らしい。
「姉さん、いきなりパターンとか、確立とか言うと、学が無いのがばれるぜ?」
俺は冗談交じりにそういうが、姉はそれを無視した。
「いい、兄さん。兄さんが相対君の組織に攫われる可能性は、たった五%しかないの。なぜかというと、それは絶対さんがあまりにも優秀だから。本当にね、本当に些細な事でも相対君の計画に気づいてしまうの。例えば大学時代、兄さんに相対君のことで相談したけど、その時の返答次第では、直接的に関係なくても、直感的に相対君の目的に気付いて、潰してしまうの」
いきなり変な話を始める姉。
姉が変なのは今に始まった話じゃないが、さて、これは幻覚だったか。
「買いかぶりすぎだろ。会長だって普通の人間だよ。気付けないものには気付けないし、現に気付けなかったじゃないか」
「そう、気付けない確立は、たった五%。気付けば絶対さんは確実に相対君を処理する。相対君も天才だけど、分野の違いね。研究者としての才覚がいくらあっても、王者には勝てないのよ」
俺はそんな言葉を聞きつつ、俺はまじまじと姉の姿を見ていた。
久しぶりにみた人の姿は俺に感動を与えている。
姉の姿は、歳は十代後半だろうか。俺が見た事の無い歳格好の姉。引き篭もっていた頃の姿だろうか。俺の想像にしては、よく出来ている。
「攫われた兄さんが相対君に言われるがまま、冷凍装置に入る確立は十%。ハチちゃんが生きていなければ絶対に首を縦には振らない。ハチちゃんが生きている確率は五〇%。その前に、リオちゃんが死んでしまっているとハチちゃんは一〇〇%生き残るけど、その場合もやっぱり兄さんはOKしない」
「それはどうかな。リオがいようがいまいが、俺はあの場で判断を求められたら、やっぱり冷凍装置に入ったと思うよ。こうなる事がわかってたら、別だけどね」
「ドクロ君がリオちゃんに勝つ確立はそれほど高くないけど、ドクロ君が生きていたら、兄さんはイチャつく二人に当てられて、また、リオちゃんが死んだことを悲しんで、世界がどうなってもいいと思ってしまうのよ。冷凍装置には、兄さんが少しでも世界を救おうという気持ちがなければ入らないわ」
ああ、そうかもしれない。
ドクロが生きていたら、リオが死んでしまったら、確かにこの選択はしなかったかもしれない。もっと別の道もあるんじゃないかと思っていたかもしれない。
過ぎた話だ。
「それで冷凍装置に入って、宇宙亀に取り付ける確立はたったの一%。理由は様々ね。スペースシャトルの故障、ウイルスによる攻撃、クルーの急病……でも設備がしっかり設置されてしまえば、亀は確実にその動きを止める。さすが兄さんね。相手の大きさに関係なく食欲を失わせる」
「『肉』食欲を失わせる、だろ?」
そう指摘すると、姉さん悲しそうに首を振った。
「あのね、兄さん、私たちに与えられた超能力は、そんな限定的なものじゃないの」
「というと?」
「兄さんはその気になれば相手に野菜を食べさせないで置くこともできる。それだけじゃないわ。何も食べなくても生きていられるような状態にさせることもできる。それどころか不老不死にする事もできるわね」
「そうなのか、そりゃ知らなかったな。どうやるんだ?」
「私の能力は兄さんのとは違うもの。やり方はわからないわ。でも」
と、姉の幻は一拍置いた。
「兄さんは不死身よ。だってこの部屋、本当はもう酸素が無いんだもん」
重要なことを告げるような言葉を、俺は鼻で笑った。
「はあ? 何いってんだ?」
「兄さんは目覚めた瞬間、自分の体を酸素無しで生きることができる身体に変化させた」
どうやら冗談ではないらしい。
俺は一瞬戸惑い、そして指摘した。
「じゃあ、なんで姉さんと会話できるんだ? 空気がなきゃ、声なんて伝わらないし、そもそも肺に空気が入らなきゃ、声なんて出せないだろ」
そう言うと、姉は困った顔をした。
「だって、今、兄さんが見てるのは幻覚だもん」
論破された苦し紛れの一言……には、聞こえなかった。
「ああ、やっぱりそうなのか」
素直にそう思った。
「もちろん、視覚だけの話よ」
姉はそう言って懐から携帯電話を取り出す。古い型だ。もう十年ちかく昔に流行っていたやつだ。
「今の状態は、言ってみれば電話ね。テレビ電話が一番近いのかな。兄さんは今、ピチピチの十六歳の双子の姉と、電話で話しをしているのです。電話なら、その間の空間に空気がなくても大丈夫でしょ?」
なるほど、そういうことにしておこう。
「十六歳っていうと姉さんが引き篭もりしてた頃か」
「そう。その時に私は『私が生きている間に起こりうる全ての可能性の知識と記憶』を手に入れたのよ。全並行世界における自意識の統合、とでもいうのかな?」
拙い説明だったが、つまり、十六歳の時点で全知全能になったというわけだ。自分が知りうる事とできること前提で。
「その時、私は私の超能力の限界を知ることが出来たのよ。何をどうできるとか細かい説明はしないけど、私の超能力なら、こういう事も出来るのよ」
つまり、こうして会話できているのは、姉の超能力のおかげというわけか。
「なるほどな。なんで十六歳なんだ?」
「それは私の平均年齢が十六歳だからよ」
「……どういう意味だ?」
姉は肩をすくめた。
「無限の可能性の中、どう辿っても太陽が宇宙亀によって破壊されて、私は三十二歳で死ぬってこと」
俺は少し考える。
つまり、姉にとって一歳から三十二歳までの姉は同一であるということで、それらの平均値が十六歳。全ての時間を把握した瞬間、主観時間は無と化し、絶対時間の中で生きるようになった。といった所だろうか。
「つまり、こうして幻で現れる場合は、必ず十六歳の姿というわけよ」
「理由になってないじゃないか。別に二十歳の姿にもなれるんだろ?」
「なれるけど、いいのよ、そんな事は。どうでも」
「……」
まぁ確かに、姉の姿がどうであれ、話は変わるまい。
とはいえ、俺は人恋しさのあまり、姉にさらなる質問を問いかけた。
本題に入られて会話が終わるより、どうでもいい話でも続けていたかった。
「聞き返すようだけど、今見えてる姉さんは、俺が作り出した幻覚じゃなくて、姉さんのテレパシーの副産物として出現してるってことだよな」
「さぁ、兄さんの超能力はすごい力だから、『今後私が生きている間に起こりうる全ての可能性の知識と記憶』を私に与えたのも兄さんかも知れないわよ。もしそうなら、結局この幻も兄さんが作り出したものといえるわね」
鶏が先か卵が先か、みたいな話だ。
要するに何か。
俺が今、どうしても誰かと話したくて、それで姉さんの超能力に細工を加えたって?
馬鹿馬鹿しい。
「さて兄さん。本題に入りましょう」
どうやら、姉は世間話をするつもりはこれっぱかしも無いらしい。
「そうだね、姉さんも暇じゃないだろうし」
「ええ、それはもう現在進行形で忙しいのよ」
姉はそう言うと、ポケットから携帯電話を取り出し、ディスプレイを見て渋面を作った。
「どうしたんだ?」
「また一つ、可能性が潰れたの」
俺は鼻で笑った。
そのセリフは、俺が中学時代に何度も言った言葉だ。中ニ病の俺は、携帯電話で空メールを自分自身に送りつけ、これみよがしにそんな台詞を言ったものだ。
「時間が無いわけじゃないけど、本題に入るわね」
「……おう」
俺は話題を探したが、思いつかずに頷いた。
狭く、暗く、誰もいない空間に閉じ込められると、言語野が衰退するのかもしれない。
「まず目的として、私は世界を救いたいのよ」
「へえ、姉さんは世界なんてどうなってもいいと思っていると思ってたよ」
「それはあながち間違ってないわね」
矛盾している。
けど、姉のことだ。きっとゲーム感覚なのだろう。クリアしても意味は無いし、ストーリーの終末も特に知りたくないけど、クリアぐらいはしておこう、みたいな。
「で、その方法なんだけど」
「うん」
長ったらしい説明が始まる。
「地球はほとんどの場合、太陽を失ったことで引力を得られなくなり、太陽圏を大きく離脱し、隕石となって他の星にぶつかるわけだけど、太陽がなくなって一年以内に全生物は滅ぶからあまり関係ないわね。ほとんどの場合って言ったけど、これはほぼ確定的で不可避の未来なの。どうしようもないぐらい強い力で引っ張られる運命なの。宇宙亀っていうのは私たちにとってそれぐらい凄まじい生物なの。でもね、全知を得た私には、地球が滅亡を免れるたった一つのパターンがある事を発見したの」
「ほほう」
「そのパターンが本当にあるのかわからない。もしかすると、どこかのパターン中で私が見た夢かもしれない。三十三歳でようやく結婚して、三十五歳で子供を産んで、遅い結婚だったけど子供は早熟で、還暦を迎える前には小学校に上がるぐらいの孫が居て、八十六歳で曾孫に見守られて大往生する。そんなパターンがあったの。夢かもしれないけど、私はそれが夢でないことに賭けたわ。一抹の希望よ」
姉は何かを反芻するように目を閉じた。
「その唯一のパターンにたどり着くための方法は、カオス理論を利用したわ」
「カオス理論?」
「知らない? 中国での蝶の羽ばたきがアメリカのハリケーンを発生させるとか」
「理論はいい、姉さんは何をしたんだ?」
俺はそう聞く。難しい説明なんて聞きたくも無い。
「自分の行動一つ一つに『する・しない・別の行動を考える』を当てはめて、それ以後の行動を『なにもしない』で締めくくっていくの。そうね、例えるなら、ドラム型のキーがあるじゃない?」
「ああ、あの四つのやつに一から九までの数字を当てはめるやつか」
「そう、それを一つずつ試していったの。全部試してダメだったら、桁を増やしてもう一度、それでもダメなら、桁を増やしてもう一度。気の遠くなるような作業だったわ。平行的に進めたけど、終わるような気はしなかったわ」
一日で行う動作というのは、以外にも多い。
その中で、どんな行動をすれば誰にどんな変化があるか、どんな発言をすれば未来に変化があるかを確かめていったという事だろう。
気が遠くなるなんてものじゃない。
永遠に終わらない作業とも言える。
「それで、地球が助かるパターンが見つかったら、どうするんだ?」
「見つかったら、意識体を統合して、そのパターンが百パーセント起こるように調整するわ。それで、地球は確実に救われる。救われた事実が必然、運命と化して、全ての未来を塗り替える。結論から言うと、うまくいったわ」
「姉さんの根気があったればこそ、なんとかなったってわけだ」
「そう。でも、それには一つ、致命的な欠陥があったわ」
姉は悔やむように唇をかみ締めた。
「意識体を統合したら、それ以前のパターンをいじれなかったのよ」
「いいじゃないか。地球は滅亡を免れたんだろう? 少なくとも、姉さんが寿命で死ぬまでの間は」
「良くないわよ」
姉さんは、床を指差した。
「だって、このパターンは必ず兄さんが生贄になるんだもの」
「知ってて統合したんじゃないのか?」
俺がおどけてそう言うと、姉は激昂した。
「極秘裏に進められていた計画を、私がどうやったら知ることが出来るのよ!」
「私は! 私はね! 兄さん! 死ぬ直前まで兄さんのことを忘れていたのよ! 八十六歳まで、兄さんのことを一切忘れさせられていたの!」
「あの忌々しい襟長絶対が! 私の記憶をいじったのよ! 悲しまなくて済むように!? 私から最愛の人の記憶を奪って、自分と摩り替えて、のうのうと……ああ、畜生!」
「あいつは全部知ってたのよ! 一卵性双生児の双子でありながらも、異性同士という私達の異常性を、兄さんの超能力と、私が超能力を持っている可能性を!」
「数少ないパターンの中で、最後にあいつが言った言葉は何だと思う!? 君のお兄さんのお陰で僕らは生きていられるんだ。よ! ふざけやがって! その気になりゃあてめぇの権限で幾らでも止められただろうに!」
「兄さん! 今の私のパターンにはもう誰も生き残っていないわ! まず絶対のお父さん、肯定さんが裏切られて殺されるわ! 次に、リオちゃんが兄さんをダシにされて返り討ちに遭う! 次は敵対していて、秘密を知っている相対君! ハチちゃんは相対君が逃がしたけど、執拗に追いかけて殺したわ! あいつは、襟長絶対は悪魔よ!」
ようやく。そしてようやく俺は姉がどうしてここに現れたのかを悟った。
最後の力を振り絞ったのだろう。
意識体を統合して、幸せな世界を手に入れた。けれども、それは幸せではなかった。
会長が見せた、偽りの夢だった。
我に返れば、知人は全滅、自分は洗脳され、人生をもてあそばれた女だけが残った。
姉は肩で息をしていた。荒い息だ。
夢にまで見た幸せを求めて、その結末がどんでん返し。
やりきれない思いがようやく俺の元に届いたというわけだ。
「それで、話を戻すけど」
「うん」
姉は、ため息を一つ、ついて、荒んだ目で話を続ける。
「宇宙亀は兄さんの超能力のせいで拒食症になって、やせ細って死んだわ。その時に失われた巨大な生命エネルギーは周囲一体に、時空の歪みみたいなものを生んだの。光の速度で移動すると相対的に時間の流れが遅くなるわけだけど、それと逆で、巨大な生命体が完全に停止したことで、その内部の時間の流れが止まってしまったのよ」
「……ありうるのか? そんなことが」
「さぁ、でも、兄さんは今『動いていない』。この扉を開けるまで、誰にも観測されることなく、ここで生き続けることができる」
ここで、ようやく最初の言葉に戻ってくる。
俺はシュレディンガーの猫。
この扉を開け、宇宙亀の外に出れば、そこで時が動き出す。
亀とうごきが切り離されて、俺は時間に観測される。
つまり、その瞬間、俺は……。
「俺は、外に出たら、どうなるんだ?」
「宇宙空間に吸い出されて、宇宙のあまりの広さを目の当たりにした、兄さんは覚醒して、生物という存在を超越、そのままなんだかよくわからない超存在になって、自我も何もかもを失って、神として宇宙空間をどこまでも彷徨うことになるわ」
「そいつは凄いな」
それはそれで楽しそうだ。ここにいるよりは。
「そっか、わかったよ姉さん。どうして姉さんがここに現れたのか」
死ぬ寸前の最後のともし火で、姉は、妹は、俺に助けを求めたのだ。
超能力を駆使して、それでも行き詰ってしまった自分を助けられるのは、同じように超能力を持つ俺しかいないと。
「姉さんに助けを求められたのはこれが初めてだ」
そういいながら、俺は扉に手をかけた。
たまには、兄貴風を吹かせてみよう。
おそらく、ロシア語もカオス理論も間違っています。