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優しい時間  作者: 華南
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酸いも甘みもあるからこそ

Act.8  酸いも甘みもあるからこそ




着替えてリビングに向うと忍がソファに座り、新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。


夏流の姿を見ると微笑み、「食事が出来てるから」と短く言う。


出来ている朝食に夏流は、今迄幸せな気分が一気に落ち込んだ。


そう、忍の朝食は自分の許容範囲を超える腕前であった…。


「す、凄い…」と呻くしか出来ない。


「料理は4歳の時からしてる。


島に住んでいた時、亡くなった母が余りにも料理が下手だったので、子供心にも生命の危機感を感じた俺は、父に教わって料理をしだしたんだ。


まあ、ある程度のモノは作れるから、夏流がいつここに引っ越しても食事の準備は交代で出来る。」と、笑いながら話す忍に、呆然とするしか出来ない。


味も上品で、それにこのオムレツのふわふわさときたら、どう表現したらいいんだろう…。


おそるおそる食材についても聞いた。


「ねえ、忍さん。

この食材って、全部、無農薬の野菜に、卵は生みたてを購入って言う訳ではないよね…?」


夏流の言葉に目を見開く。


「何言ってる、夏流。


当たり前だろう?


坂下財閥が今、一番力を入れてるのは食材に関する事なんだ。


各地方で優れた食材を生産している農家に直に取引を行って、取り扱う食材の品質のグレードを高めている。


世界規模でホテル、飲食業を展開している高槻グループに、坂下が全ての食材の取引を行っているのだが、これも食材に関する品質の確かさが物語っている。


その坂下家の一族である俺が食材に関して、無関心な訳ではないよ。」


忍の言葉に「じゃあ、何故あの時、食材よりも俺の心配をしろよ」と、食材に関してうるさい人が、あんな言葉を言ったのかな?、

ちょっと理解に苦しむよね?と夏流は思った。


(ま、言わないけどね。


もし言っても、忍さんは頑として自分の考えが正しいと言い切るから、反論する気持ちにもならないけど…。


だけど、これは本当に深刻な問題だわ。


もし、仮に同棲をすると仮設してみて暮らしだしたら、絶対に、味に関していちいち文句を言いそう…。


絶対にそうよ!


だって、交代で料理を作ると言った時点で、自分は料理が上手いと自慢しているのと同じじゃない。


冗談ではないわ!


確かに料理が上手い男性はポイントが高いし、私の中でもそうけど、忍さんが、と言う時点で、これは絶対にあってはならない事柄だわ。


これで掃除、洗濯に関しても精通してると言われたら…。


真面目に付き合いに関して悩もう。


だって、好きでもこれは別問題よ。


はああ。


だって顔の作りから言って、比較するのにしても次元が違うけど、どんな美人も霞む位綺麗だし、料理も悔しいけど私よりも断然上手だし、財力はあるし、性格は…、さて置いといて、パーフェクトじゃない。


10年前、恋愛とかそういう観点で忍さんを見ていなかったから、気付かなかったけど。


なんか今まで余り実感しなかったけど、私、本当に凄い人と付き合ってるんだ…。


個人の性格はまあ、考えるのはやめよう。)


急に黙り込んで悩む夏流の姿に、忍は首を傾げた。


「口に合わなかったか?」と心配する様子に、夏流はかぶりを振った。


「…こんな上手だと思わなかった…。


私、忍さんに料理を作る自信がないわ」とぽそりと呟く夏流の様子に困惑した。


「…もしかして落ち込んだのか?」とこれもまた、心臓にぐさりと突き刺さる言葉に夏流はテーブルに突っ伏した。


(もう、この人はどうしていつもストレートなの?


触れて欲しく無い気持ちって解らないのかな…)


思わず涙が出そうになる。


忍は忍で、先程から自分の世界にどっぷり浸り、完全に自分の存在を忘れている夏流の態度にむっとしていた。


(本当に夏流は10年前と変わらない…。


どうして俺がいるのに自分の世界に毎回、浸る事が出来るんだ?


夏流にとって俺の存在とは…。


いや、考えるのはよそう。


考えるだけ空しくなるだけだ…)


はああ、と深いため息を吐く。


お互いの欠点を突きながら、心ゆく迄悶々と悩む、忍と夏流であった…。



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