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優しい時間  作者: 華南
12/14

ターニングポイント

Act.12 ターニングポイント




「夏流、開けろ!」


と何度もドアを叩く忍の様子を見て、夏流は怖くなっていた。


そう、忍は殊の外、機嫌が悪かった…。


このまま無視してやり過ごそうかと思っても、美咲が自宅にいると言ってる所為で居留守は出来ないし、忍がドアを叩き続けると流石に近所迷惑にも成りかねない…。


(既に近所迷惑になっているわ!


いや、忍さんと話したく無い。


あんな不機嫌な忍さんの相手をする事なんて、出来る訳ないじゃない!


もおおお、美咲のバカ〜!!!)


と、心の中で美咲に悪態をつきながらも、覚悟を決めて、恐る恐るドアを開けた。


ドアが開いた途端、忍は直ぐさま夏流の腕を掴み、ずかずかと部屋に入っていった。


そして10帖の洋室に置いてある2人かけのソファに夏流を座らせ、隣に座った。


肩を震わせ顔を紅潮させながらも、忍は一言も喋らない。


気まずい雰囲気の中、夏流は今自分が置かれている立場を思うと、何とも居たたまれない気持ちになっていた。


この重苦しい空気をどうにか和らげようと忍に「お、お茶を入れてくるね…。あ、それともコーヒーがいいかな?」と、上目遣いで機嫌を窺う。


「…このままでいいから、夏流も動くな」と忍は冷ややかな声で即答した。


(怖い…。

今迄に無い程、怒っている…!

ど、どうしよう)


がたがたと身体は震え、背中には冷や汗が出て、体温が一気に下がる。


「ご、ご免なさい…」


と、消え入りそうな声で忍に謝罪する。


「何か夏流は、俺に対して謝罪しないといけない事をしたのか?」と、思いっきり皮肉を込めた嫌みが返って来る。


「さ、さっき、美咲が言った言葉を信じないでね。

私に好意を持つ人なんていないし、ほ、本当にモテた事なんてないんだから…。

交際に関しても全然悩んでないから!」


恐る恐る言う夏流の言葉に忍は更に不機嫌になり、殺気を全身に漂わす始末だ。


「ね、だから機嫌を直して、忍さん。

私、誰よりも忍さんが好きよ…」


夏流の言葉にぴくり、と眉を上げ言葉を返す。


「…じゃあ、何故、あの女が夏流が悩んでいると言う?


夏流。


あの女には言えて俺には言えないのか?

夏流はいつも俺には本心を出さないんだな?


何故だ?


俺は夏流にとって、それだけの付き合いなのか?

答えてくれよ、夏流!」


忍の容赦のない言葉に、夏流は言葉を失う。

なかなか返答をしない夏流に忍は苛つき、更に言葉を続ける。


「どうしたら夏流は俺に心を預けてくれる?


10年前、あの時もそうだった。


夏流は肝心な所で俺に心を開かない。


自分の殻に閉じこもって、俺の想いを受け入れようとしない?


そんなに自分の世界を壊すのが怖いか?

無言は止めてくれよ。


俺は夏流が答える迄、ずっと夏流が聞きたく無い言葉を言うからな」


忍の言葉にただただ首を振るばかりだ。


「…夏流。


どうして俺との結婚に目を逸らす?


生活水準とか環境とかで本心を隠すのは止めてくれよ!


そんな事、最初から解っている事だろう?」


「…」


「解っていて俺と付き合いを始めたんだろう?


理屈では解っていても感情はと言うのも止めてくれ!


それも人として、当たり前の事だ。


どうして、夏流は俺と正面から向き合わない?」


「…めて」


「今朝迄、あれだけ愛し合って俺の心を垣間見たはずだ。


俺は夏流に心を全て見せた。


今も、そして昔も…!」


「やめて!」


「あれも受け入れてないのか?夏流は。


あれだけ愛し合った行為も夏流にとっては、ただのの身体の関係と読み取ったのか?


ははは、じゃあ俺たちの関係はセックスフレンドと言えばいいのかな?」


「止めて、もう止めて!」


「夏流。


いい加減、母親の影から出てこいよ!」


忍の衝撃とも言える言葉に一瞬、全ての思考が停止した。


「なに…」


「いつまでも母親と言う防壁から自分を守るのは止めろ!」


「いや…」


「俺がいる!

俺がこれからの夏流の人生の中でずっと側にいる。


だから現実を受け入れろよ!

自分が作った箱庭に逃げるのはいい加減に止めろ!


愛してる…!

心から愛してるんだ、夏流!


もう夏流が一人で哀しむ姿を俺は見たく無いんだ…!


ずっと側にいる。

一人には絶対にさせない。


だから俺を愛してくれ…!

おれと言う存在を夏流の心に受け入れてくれ!」


「いやだ!

嫌、助けてお母さん…!


いやあああ!!!」


大声で泣き叫び立ち上がろうとする夏流を、腕の中に綴じ込め強く抱きしめる。


「いや、いや、いや」とうわごとの様に唱える夏流の耳元で静かに囁く。


「もう一人ではないんだよ、夏流…。」




忍の何処迄も優しい言葉が、いつの間にか夏流の心に波紋として広がっていた…。



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