壁打ち
ねえ、と問う。
応えはない。
代わりに、絶えずキーボードを叩いていた指先が止まっている。
「私のこと、好き?」
言葉は返ってこない。
ふ、と息が漏らされるのを聞く。その口は三日月の形。まっすぐな横顔の、その目が一度、ゆっくりと閉じられる。
指先が再び動き出し、さざなみのようによどみなくキーボードを叩き始める。言葉はないし、振り返るどころか目も向けてもらえない。
それでも案外、事足りる。
今のご時世、綺麗な言葉は安くなった。好きだとか、愛してるとかは、有名人が万人向けに垂れ流す、ただのセリフに成り下がった。
聞けたら聞けたで、それは嬉しいのかもしれないが、私は言われたことがない。
でも、あの心は確かに私のものだ。
返事はしてくれないけれど、話はちゃんと聞いてくれる。
好きだと言えば、しみじみと笑ってくれる。
そこに嘘なんてない。
キーボードの音は止んで、伸びてきた指先が私の首筋をくすぐる。
優しい眼が私の顔を映している。私も、しみじみと笑っていた。
ただ単に、信じていられる。
熱と呼べるほど激しくはないけれど、これが絶えることはきっとない。今すぐ離れ離れになっても平気だ。もちろん一番は、こうしてそばにいること。
人とつながっていることを素直に望んで、信じられるのは幸せだと思う。
だから自分は今、こんなに温かい。