当たり前
私が思うに、カンナは私の事を好きなんだと思う。
……こんなこと言ったら、自意識過剰って思われるかな?
でも、そう思うの。この勘は当たってると思う。
ここ数日、カンナと一緒に登校して、そう感じた。
だからカンナが御堂君に対して、何か気にしてる様子だったのもそのせいだと思う。
✜✜
あの日の朝……
「うん、クラスメイトより友達のが仲いいよね? ならいいや」
そう言って、カンナは笑った。
それから、もう一度確認するように聞いてくる。
「今は、御堂ってクラスメイトよりも俺のが譲子さんと仲いいんだよね?」
カンナは涼しげな眼もとに笑いを含んで私を見た。
私は、カンナのその言葉と表情に、確信を持った。私の事好きなんだ、って。自分が一番仲いいって確かめるように聞いてくるんだ、って。
だから一瞬、返答に詰まってしまった。
私は顔をぐいっと上げて、カンナを見た。
「クラスメイトよりもカンナとが仲いいよ」
あえて御堂君とは言わずに、曖昧に答えた私。
カンナは、少し皮肉な感じの、でもすごく魅惑的なほほ笑みを浮かべた。
「それでいいよ」
今はまだ、それでいいよ、ってカンナが言った。
カンナが今の関係で満足してることがわかったから、私もそれ以上何も聞かないことにした。
✜✜
試験が目前に迫っても、カンナは私の下校時間に合わせて待っていて、一緒に帰るのが、当たり前になっていた。
「試験前は部活ないから、本当は早く帰れるんでしょ? 待っててもらって、なんか悪いな」
私が申し訳なさそうに言うと、カンナが首を横に振りながら言う。
「大丈夫。俺も譲子さんを見習って図書館で勉強してんだ。家だと他の事に気がいっちゃって勉強進まないから」
おかげで今回の試験は赤点免れそう、って笑いながら言う。
「明日から試験だね、初日から三教科もあるから大変」
「俺は、明日は二教科だけだ……」
言いながら、カンナはちらっと私を見る。
「じゃ、明日は先に帰ってていいよ」
なんとはなしに私がそう言うと、カンナはちょっと不満げ。
「あーあ。明日、譲子さんに会えるのは朝だけか。寝坊しない様に気をつけないとな」
カンナは、頭を掻いて言う。きっと、今日は徹夜して勉強するつもりなんだろうな。
「あー、やべぇー。寝坊しない自信ない……」
ふふっ。
ずっと、頭を掻いて悩んでるカンナが可愛くって、笑ってしまった。
「試験の日はいつもより遅い電車に乗ってるの?」
私が聞くと、カンナは頷く。
カンナと出会ってから、毎日、登校も下校も一緒なのだから、時々は会わない日があってもいいと私は思うんだけど。カンナは、なるべく一緒に登下校したいらしい。
「譲子さん、試験中、朝の電車に俺がいなかったら、寝坊だと思って」
カンナは片目をつむって、申し訳なさそうに言う。
実は、私とカンナはお互いの連絡先をいまだに聞いてない。メアドもケータイ番号も交換してないのだ。
だから、寝坊とかいざという時、お互い連絡を取る手段がないの。
今まで、その必要がなかったから、教えあわなかったけど。
もしかしたら、明日からカンナは同じ電車には乗ってこなくて、試験が終わるまで会わないかもしれない。その事をカンナが気にしてるなら、教えた方がいいかしら……
アドレスを教えるかどうか考えている間に、カンナが降りる駅に着いてしまった。
「じゃ」
そう言って、片手をあげて別れの挨拶をするカンナが、一瞬、何かを言おうとして、動きが止まる。
「やっぱ、いいや。じゃ、また明日」
電車を降りて、手を振るカンナ。
「また明日ね」
私もアドレスを言うタイミングを逃して、笑顔で答えて手を振り返す。
プシューっと音を立てて、電車のドアが閉まる。
閉まったドア越しに、カンナが私を見てる。口が動いた。私はドアに近づき、カンナを見る。
“し・け・ん・が・ん・ばっ・て・”って言ったみたい。
私も、声を出さずに口だけ動かして、“カ・ン・ナ・も”と言う。
言い終わる前に電車が動き出して、私もカンナもお互いに手を振って別れた。
✜✜
次の日の朝。
やっぱり、カンナはいつもの電車には乗ってこなくて。その次の日も、その次の日も、試験期間中は会うことはなかった。
試験初日は、朝の電車にカンナがいないことに、少し寂しさを感じたが、二週間前まではそれが当たり前だったのだと思うと、なんとも不思議な気分だった。
試験二日目以降は、電車の中で試験の勉強に夢中になって、カンナの事は全く考えもしなかった。
そうして、あっという間に中間試験が終わっていった。
✜✜
試験明けの朝。
いつもの電車に、カンナが乗ってきた。私が先に気がついて、挨拶する。
「おはよ、カンナ」
カンナは、爽やかな笑顔で言う。
「おはよ、久しぶりだね」
「試験どうだった?」
「んー、まぁまぁかな」
カンナはうつむきながら、頭をくしゃっと掻いた。
「遅刻はしなかった?」
私が笑いながら聞くと、カンナが苦笑する。
「なんとか……」
そう言って、2人して笑ってしまった。
試験が明けて、また、カンナと一緒に登校する日々が始まった。
カンナとはつい二週間前に会ったばかりなのに、いつの間にか、それが当たり前になっていた。
もし、試験前日に、メアドを教え合っていたら、試験中すれ違いになることはなかったかもしれないとか、そんなことを考えたこともあったけど。たとえ、会わない日があっても、こうしてまた、当たり前のように一緒に登校する日が来るんだなぁ。
ひょんなことから、一緒に登校することになったカンナと私だけど、今ではすっかり友達になったんだな、と実感する。
ふふっ。
そんなことを考えて、笑ってしまった私を、カンナが怪訝そうに見てる。
まさか、私が今更、カンナを友達と認識したなんて言うのも恥ずかしくて、こう言うことにした。
「ねぇ、カンナ。メアド教えてよ!」
これでひとまず、第1章は完結です。
譲子はカンナの事を友達と認識することが出来ました。
次は、恋愛模様に突入できるといいです。
よかったら、感想をお聞かせください。