誤解
「えっと、私と菊池君って……友達、だよね?」
「うん、友達だね?」
私が突然、変なことを聞くから、菊池君は不思議そうにこちらを見てる。
「昨日、話したばっかりだけど、俺は友達だと思ってるよ」
だっ、だよね~!
はぁ……
さっきまで、一人で悶々と考えてたのが馬鹿みたい。
「俺は友達だと思ってるし、譲子さんは年上なんだからさ、俺のことカンナって名前で呼んでほしいな」
「えっ? 名前で?」
そう言えば、菊池君ははじめから私の事を名前で呼んでたなぁ。友達とは、名前で呼びあってるのかな?
「友達はみんなカンナって呼んでるし、ねっ!」
そう言って、上から覗き込んでくる。
ちっ、近いんですけど、顔がっっっ!
菊池君にまっすぐ見つめられると、目をそらせないっていうか、逆らえなくなっちゃう。
「わっわかった、名前で呼ぶから、ちょっと離れてっ」
私は、菊池君から顔をそらして言う。
そんなに、見ないで~!
「カンナって呼んでくれるまで、離さない」
両手で私の頬を挟んで、無理やり顔を向けさせる。目と目があって。
「……カ、ンナ……」
私がそう言うと、彼は嬉しそうに笑う。
私はもう顔を合わせてるのが恥ずかしくって、下を向いて両手で顔を覆う。
友達にこんなことするなんて、反則じゃないですか? あんな目で見つめられたら、好きになっちゃっても文句言えないよ?
「もう、からかうのはやめて」
とんっ。
カンナの胸を叩いて、そっぽを向く。
なんか、ホントに今日は疲れる一日だな……カンナに気づかれない様に、ため息をつく。
「あれ? 譲子さん、怒っちゃった?」
そっぽ向いたままの私に、あわててカンナが誤ってきた。
「ごめん、ごめん!」
両手を顔の前で合わせて、ペコペコ頭を下げる様子はかわいいのになぁ。
普段は、人懐っこい子犬みたいなのに、急に男の子の顔になる時があるから、ドキドキしちゃうよ……
✜✜
月曜日の朝。
「おはよう、御堂君」
地元駅の改札で、御堂君に会った。
「桜庭、おはよ」
「いつもこの時間の電車に乗ってるの?」
朝の駅で御堂君に会うのは珍しくて、聞いてみた。
「今週、週番だから、いつもより早く来た」
あくびをしながら、御堂君が言う。
「そうなんだ、私はいつもこの時間だよ」
階段を下りきってホームに着くと、電車が来るまで、まだ少し時間があるようだった。同じ学校に行くのに、そのまま別れるのも変なカンジがして、御堂君に聞いてみる。
「ホームの一番前まで行ってもいいかな?」
「ああ、いいよ」
私が歩く後ろをゆっくりと御堂君がついてくる。ホームの端に着いた時、ちょうど電車が来て一緒に電車に乗り込んだ。
二人分空いてる席がなかったから、座席の前に並んで立つ。
「御堂君と話すの、すごい久しぶりだよね」
ほんとうに久しぶりで、緊張しちゃう。
「そうだな、一年の時はクラス違ったし」
御堂 晃紘君、中学三年間同じクラスだった。高校も同じで、一年の時はクラスが違ったけど、二年の今はクラスメイト。クラス替えの時ぶりに話すかな。
なんか話題はないかと考えて、昨日のことを思い出す。
「あっ。昨日、中野達と集まったんだよ。それでね、今度、同窓会やろうかって話になって」
中野とは、中学三年のクラスメイトで私と御堂君の共通の友人だ。
「へぇ、おもしろそうじゃん」
「まだ、日にちとかは決まってないんだけど、御堂君も来られそう?」
そこまで言って、自然に話せてるかなって、ちらっと御堂君を見る。
「バイトじゃない日だったら大丈夫」
吊革につかまりながら、そう言って笑う御堂君に、しばらく見とれてしまった。御堂君はクールなカンジで、本当に話すのも、笑顔を見るのも久しぶりだったから、ついつい、見とれてしまったの。
あまりにじっと私が見てたから、御堂君と目があってしまい……
わわっ。
誤魔化すように目をそらして言う。
「あ、奈緒は元気? 奈緒にも同窓会のこと言っといてね」
一瞬、黙り込む御堂君。
「いや、最近会ってないからわからない。……奈緒とは別れたんだ」
頭を掻いて、少し困った顔をする御堂君。
「えっ?」
御堂君と奈緒が別れた……?
急に言われた言葉が理解できなくて、黙り込んでしまった。
「譲子さん? おはよう」
考え込んでいて、カンナが電車に乗り込んできたことにすぐ気付かなかった。
「……あっ、おはよう、カンナ」
ぎこちない挨拶だったかな……
カンナは、私の横にいる御堂君を見て軽く頭を下げる。
「ども」
私と御堂君の間には、気まずい空気が流れてた。
「じゃ、俺、向こうにいってるから」
「えっ、御堂君?」
カンナが来たら、御堂君はスウッと隣の車両の方へ行ってしまった。
「譲子さんの友達?」
去っていく御堂君を見ながら、カンナが聞く。
「うん。クラスメイトの御堂君」
さっきのことが気になってしばらく考え込んでいると、カンナが聞いてきた。
「邪魔しちゃった?」
カンナを見ると、無表情で、まだ御堂君の後ろ姿を見ていた。
「えっ、違うよ?」
カンナがなぜそんなことを言うのか、なんとなく想像ついて、苦笑いする。
「御堂君とは、駅で偶然会っただけだよ」
なんか言い訳っぽい言い方になっちゃったかな。
「ふ~ん」
困ってる私に、カンナは意味ありげに言う。
✜✜
国府台駅に着いて、私とカンナが歩く少し先を、御堂君が一人で歩いている。
話しながらゆっくり歩いてる私たちと、サクサク歩く御堂君はどんどん距離が離れていく。
御堂君は、私とカンナのことをなにか勘違いしたのかな?
一緒に行く約束をしてると思って、一人で行っちゃったのかな?
いろいろ想像してみるけど、御堂君がどういうつもりだったのかはわからなかった。ただ、勘違いされたと思うと、少し胸が痛んだ。
ただの友達だよ、って言いたいけど、もう話す機会もなくて、そんなことは言えないだろうな。
更新が遅くなりました(^^;
カンナ、御堂の初対面です。御堂……愛想ないですね~
カンナは、譲子と御堂の関係をどう思ったのでしょうね。御堂は御堂で、カンナと譲子をどう思ったのでしょうか……