はじまりはいつだって唐突に・・・
「譲子さん、好きだ」
カンナが私を抱きしめたまま肩越しに言った。
えっ?
びっくりして私が振り返るのと同時に、電車が到着し、降りる人と乗る人の流れに押されるようにして私は電車に乗り込んだ。
あまりの人の多さに、カンナを一瞬見失ってしまって探す。
「あっ、カンナ……」
カンナは、私のすぐそばの扉の外のホームに立っていた。
プルルル……
『電車が閉まります。白線の内側にお下がりください』
ホームにアナウンスが響き、ベルが鳴る。
私は、扉とホームのギリギリのところまで移動した。早く乗らないと扉が閉まっちゃうよ、って言おうとした瞬間。
「譲子さん、好きだよ。返事は次に会った時に教えて」
そうカンナが言うのと同時に音を立てて電車の扉が閉まり、電車が動き出した。カンナは、電車から一歩下がって、真剣な瞳で私を見ていた。
いつもだったら笑顔で手を振って別れるはずが、今日はぜんぜん違うカンナで、ツキンっと胸が痛んだ。
私は、扉に両手をついてはりつくようにして、扉の窓から斜めに遠ざかって行くカンナを見つめた。すぐにトンネルに入り、ホームもカンナも見えなくなる。
そうなって、やっと、さっきの言葉を思い出す。
『譲子さん、好きだよ』
思いだした瞬間、ドキンっ、ドキンって胸が尋常じゃない早さで打ちはじめて、どんどん顔が赤くなるのが分かって、片手で顔を押さえた。
私、カンナに告白されちゃったんだ……
うれしい……
頬がゆるむ。
御堂君の時は戸惑いが大きくて、どうしよう? って悩んだけど。
今の気持ちは、とても明快で、自分で自分の気持ちがわかりすぎるほどだった。
私、いつのまに、こんなにカンナのことが好きになってたんだろう。自分でも気付かないうちに、心の中で、好きって気持ちが育ってたみたい。
二年間の長い片思いを終えたばかりだったけど、いつのまにか恋してたみたい。
思い返せば、カンナとのはじまりはいつだって唐突にやってきた。出会いもそうだし、恋も……
あぁ、私は、カンナのことが好きなんだ。