告白×3
ビーチサンダルを履いて砂浜を歩くと、サラサラとした砂が、歩くたびに足にかかってくすぐったい。
沙世ちゃんと熊本君が海の家に行ったと聞いて、しばらくシートで待っていたのだけど、なかなか戻ってこなくて心配になってきた。
十二時も近くお腹がすいてきたので、みんなの昼食を買うついでに海の家へと向かった。
私の後ろをなぜかついてくる、カンナと東条君。
うん、まぁ、一人で五人分のご飯は持てないからついてきてくれるのはありがたいんだけど、さっきからカンナの様子が少し変な気がするんだよね。
うーん。
上手く言えないんだけど、なんかいつもの二割増し紳士度が上がってキラキラしてるのに、そうかと思うと時々空気がピリピリしてるし……
どうしたんだろ?
道路に面した砂浜には、海の家や移動販売の車が並んでる。お昼時間ということで、お店にはたくさんの人がいた。
沙世ちゃん達がどのお店にいるか探すのが大変そうだな。
ことはと河原君からは、やきそばを二つとお好み焼きを一つお願いされて、着替えをした海の家に売ってたのを思い出して、まずはそこに行ってみることにした。
焼そばを五個、好み焼を二個買って外に出て、側に移動販売のパン屋があるのを見つける。
「あのパン屋さん行ってみない?」
「いいよ」
そう言って、カンナが私の肩を引きよせて歩きはじめた。私は、不思議そうにカンナを仰ぎ見ると。
ばちんっ!
カンナと至近距離で目があった。私はそのまま、カンナの瞳をじーっとみつめた。どうして今日は、いちいち肩を抱き寄せたり、べったりくっつくのかしら。そう疑問に思うけど、声には出せなくて、その代わりにカンナの瞳の中に答えを見つけようとしたの。
すると、カンナの顔がみるみる赤くなって、ふいっと顔をそらした。
わー、びっくり。
カンナがこんなに顔を赤くするなんて。見ると耳まで真っ赤になっていた。恥ずかしいなら、こんなに 近づかなければいいのに……
そんなことを考えてて、ふっと前を見ると。
「私とつきあって!」
人ごみの切れ間に沙世ちゃんと熊本君がいて、沙世ちゃんがそう言ったところに居合わせてしまったの。
その瞬間、私は立ち止まってしまった。私が止まったことで、カンナと東条君も立ち止まる。
海の家の横、移動販売の自動車の裏で、沙世ちゃんが熊本君に告白してたの!
私はどうしようかと思ったけど、沙世ちゃんは私たちに気づいていないし、人が通って沙世ちゃん達が見えなくなったので、見なかったことにして戻ろうと思った。カンナと東条君も同じく思ったようで、沙世ちゃんには声をかけずに三人でシートの方へ歩き出した。
わー、わー。
一人ドキドキとする。心の中で小さなおじさんが、飛び跳ねてくるくる回って踊ってるみたいに、胸がうずうずとした。
告白現場を目撃するなんて!
しかも、友達の告白なんて……びっくりだわ。
今まで告白されたことも――御堂君のはノーカウントよね――したこともないけど、リアルにその緊張感が伝わってきて、人ごととは思えなかった。
なかなか帰ってこないと思ったら、沙世ちゃん、告白してたのね。上手く行くといいけど……
そんなことを考えながら、カンナと東条君の後ろをついて歩く。
シートには、すでに沙世ちゃんと熊本君が先に戻ってて、シートの上には大量に買ったパンが置いてあった。
さっきの告白のことが気になったけど、みんなの前で聞くわけにはいかないし、何より、二人が普通にしてたので、今は聞くべきじゃないと判断して、シートに座る。
みんなもシートに座って買ってきたやきそばとお好み焼きとパンを分け合って食べた。
ご飯を食べ終わると、みんなそれぞれシートの近くで時間をつぶした。
さすがにね、ご飯食べたすぐ後には泳げないでしょ。
太陽が空の真上に登って、パラソルの影が大きくシートを覆った。私はお腹が落ち着くまで、パラソルで日陰になったシートのはじっこの方に座って砂遊びをしてた。
「譲子ちゃん、ちょっといいかな?」
唐突に声をかけられて、声のした方を振り向くと東条君が立っていた。シートの方を見ると、なぜかことはしかいなかったけど、行ってきていいよ、と言うので立ち上がって東条君に連いていった。
しばらく行くと、東条君が振り返って聞いたきた。
「あのさ、譲子ちゃんと菊池って…… ホントに付き合ってないんだよね?」
そんなことを聞かれてビックリ。
「うん」
付き合ってはいないもんね。うん、って答えるべきでしょ。
私はなんで急にそんなことを聞くのか不思議に思いながらも、東条君に聞き返した。
「それがどうかした? なんで、みんな私とカンナが付き合ってるって思いたいのかしら……」
前半は東条君に、後半はひとり言のようにつぶやいた。
東条君はしばらく海の方を見つめてて、思い切ったように私の方を向くと言ったのだった。
「譲子ちゃん、俺とつきあってほしいんだ!」
駅に向かうバスに乗り、海が後ろに遠ざかって行く。
楽しかった海での一日はあっという間に終わり、沈みかけた太陽のオレンジ色が、なごりおしい気持ちと複雑な気持ちを一緒に、海を染めていた。
バスが駅に着き、海で遊んだ人々がぞろぞろと降りて散っていく。私たちもバスから降り、別れを告げた。
「じゃ、またねー」
そう言って、沙世ちゃんとことはと河原君がM線の改札へ、東条君と熊本君はT線の改札へ、私とカンナはS線の改札へと向かった。
のだけど……
私は、お昼の出来事からどこか上の空でぼーっとしてて、カンナが同じ電車に乗ることもすっかり忘れて、一人で改札に向かって歩きはじめた。
「待って!」
そう言って、カンナが私の手首を掴んで、引き止める。
ボーっと歩き続けて、気が付いたらすでにホームに立っていた。
カンナがぐいっと掴んだ腕に力を込めて、その勢いで後ろに倒れそうになった私を、カンナが後ろから抱きとめた。私の鼻先で、電車が勢いよくホームに進入してきた。
「譲子さん、午後からなんか変だよ? なにかあった?」
抱きしめられた格好のまま、カンナが耳元でささやいた。
その声がせつなげでくすぐったくて、頭を金づちで殴られたように、それまでぼーっとしてた神経が戻ってきて、背中に感じる熱に体中の神経が集中した。そうして今、カンナに抱きしめられてるんだって実感したの。
肩を抱きしめたカンナの手に力が込められて、私の鼓動がドキンっとはねた。
「譲子さん、好きだ」