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ここからはじまる物語  作者: 滝沢美月
第3章 蒼と碧のあいだ
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うちよせる波



 パラソルで出来た日陰の部分にちょこんと座る。

 ……

 …………

 シートに東条さんと二人きりになって、沈黙が続く。私は人見知りする性格で、初対面の人とはなかなかうまく話すことができない。

 間が持たなくて、とりあえず日焼け止めをぬろうと、鞄から日焼け止めを出して塗り始めた。


「譲子ちゃん、前に一度会ったことがあるんだけど覚えてる?」


 って、東条さん。

 突然聞かれて、東条さんを仰ぎ見て、首をかしげる私。


「やっぱ、覚えてないか……、部活帰りに駅で、菊池が譲子ちゃんの事追いかけていったことあったでしょ? その時、菊池と一緒にいたんだけど」


 って言うの。私は頭をフル回転して、その時のことを思い出す。

 そういえば、カンナに会った次の日に、そんなことがあったような……


「ごめんなさい、覚えてなくて」


 私は、言葉を選びながら謝って、東条さんを見た。


「あの日は、ちょっと考え事してて、それにカンナとはあの前の日に会ったばかりで緊張してたから、周りの人とかぜんぜん記憶になくて……」


 記憶にない、とか言ったら失礼かしら。でも正直に言うしかないよね。申し訳なく思いながら言った私に、東条さんは違うところにビックリして。


「えっ? あの時、菊池とは会ったばっかりだったの?」


「実は、そうなの」


「てっきり、もっと前から知り合いだと思ってた……」


「ぜんぜん違うの。突然、電車で声かけられて。まだ知り合ってから二カ月しかたってないの」


 そう言って、自分でも改めてこの二カ月を振り返ってみると、短い間にいろいろあったなとしみじみ思う。

 それから、日焼け止めを塗る間、東条さんとはいろいろ話した。得意科目の話、学校の話、部活の話、夏休みに行った場所の話。なんか、東条君――えっと、同い年なんだからさん付けじゃなくていいよって東条君に言われて――って、第一印象は大人っぽいと思ったけど、話してると安心するっていうか和むっていうか、かわいい人だな。

 私のまわりにいる同年代の男の子って、御堂君にしてもカンナにしても、話し方が色っぽくて、いちいちドキドキしてとっても緊張するのよね。

 その点、東条君は和み系でいいわ~。

 そんなことを考えながら、日焼け止めを塗って、一通り塗り終わった時、カンナ達が戻って来た。




 すでに海に入ってきたようで、体に水滴がついて、涼しげなみんな。


「海、冷たくて気持ちよかったよ。譲ちゃんも入っておいでよ」


 ことはが笑顔で言う。


「うん、ありがと」


 そう言った私を、やっぱり何か言いたそうに見てるカンナの視線に気づく。


「譲ちゃん水泳部だもんね、早く泳ぎたいでしょ? 今度は私が荷物番してるから行っておいで」


「あー、泳いだら喉乾いちゃった。私もちょっと休憩ー」


 そう言って、沙世ちゃんがシートに座って私に手を振ってくれた。河原君と熊本君もそれぞれペットボトルを取り出して飲んでいる。

 みんな休憩するみたいだしと思い、私は東条君を海へ誘った。


「じゃ、行ってこよっか」


「ああ、じゃ荷物よろしく。行こう譲子ちゃん」


 そう言って、歩き出した。その後ろで。

 シートの横で立ったままだったカンナに、ことはが他の人には聞こえない様な小さな声で言う。


「気になるんでしょ? 行ってきていいよ」


 満面の笑みで。

 カンナは、頷いて、私たちの後を追ってきた。



「譲子ちゃん、水泳部なんだ? なんか、そんな感じするね」


 そう言った東条君。


「そうかな? 水泳部の子ってみんな焼けてて、水泳部には見えないって言われることのが多いんだけど……」


「そう? そういえば、日焼け止め念入りに塗ってたけど、焼けたくないの?」


「ううん、違うの。私、すぐ真っ赤になっちゃう体質だから、なるべく日焼け止め塗るようにしてるんだ」


「譲子ちゃん、色白で綺麗だよね」


 東条君が、かわいい笑顔でそう言ってくれて、私と嬉しくなった。


「ありがとう」


 波打ち際まで来て、足先だけ水につかる。カラッとした空気に、冷たい海の水が気持よくて、早く海に入りたくてうずうずしてくる。


「もうちょっと海にはいろうか?」


 私がそう言った時、ギュっと、後ろから両方の肩を抱き寄せられて。

 ビックリして後ろを振り向くと、カンナが立っていた。


「カンナ?」


 そう聞く私に、にこっと笑ってから肩にかけてた手を離して、砂浜の方を指さす。

 こころなしか、東条君から離れた位置に押されたような……


「ビーチバレーするっていうから」


 カンナの指先を見ると、シートの前で四人がビーチボールで遊んでるのが見えた。沙世ちゃんと熊本君、ことはと河原君の二人ずつ、左右に別れてる。

 あぁ、あぶれちゃったのか、と納得。


「カンナは、泳ぎ得意?」


 私は、さっきまで東条君と話してたのもすっかり忘れて、カンナに話しかけてしまった。


「んー、どうかな」


 そんな風に話してる私とカンナを、少しさびしそうに見てる東条君には気づかず……


「じゃあ、泳いでみて」


 そう言った私に、くすっと東条君が笑う。


「菊池は、泳ぎ得意だろ?」


「うーわー、東条さんがそんなこと言います? 元・水泳部のくせに」


 ちょっと口をとがらせて、カンナが言う。


「えっ? 元・水泳部?」


「あぁ、中学の時ね。河原も確か中学の時は水泳部だったと思うけど」


 言われて、河原君が水泳部というのには納得!

 あの色黒! あの筋肉!

 まぁ、テニスやってても焼けたり、筋肉ついたりするけど、なんか河原君は違う感じがしたんだよね~。一人でうんうん頷いて納得する私。


「でも、カンナも泳ぎ得意でしょ?」


 私は首をかしげて聞く。


「なんで、譲子さんまで肯定するかな……」


 眉間にしわを寄せて、カンナが私の顔を覗き込む。


「だって、男の子が海に誘うくらいだから、泳げるでしょ?」


 勝手に持論を繰り広げ、決め付けた私に、カンナと東条君が顔を見合わせて苦笑した。




 それから三人で海に入って、足が着くか着かないかの深さのところで、波で遊んだり泳いだりした。ことは達に荷物番をお願いしてることも気になって、少し泳いで早めにシートに戻ることにした。

 海から上がってシートに戻ると、ことはと河原君しかいなくて、沙世ちゃんと熊本君は海の家に何か買いに行ったという。




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