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ここからはじまる物語  作者: 滝沢美月
第1章 この関係は友達?
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気になる人



(ゆず)! ついに彼氏ができたのね~!」


 教室の自分の席で本を読んでいた私のとこにかけてきた親友の沙世(さよ)ちゃんの第一声がそれだった。


「なんのこと?」


「もう、とぼけちゃって! 見たんだから~、N高の彼氏と一緒に登校してるとこ!」


 その言葉で、沙世ちゃんの言う『彼氏』が誰のことを指してるのかわかって。


「あぁ、彼氏じゃないよ。友達」


 苦笑して、返す。

 ん? 友達でいいんだよね? 昨日知り合ったばかりだけど、友達でしょ?


「えー、だってすごい仲良さそうだったよ?」


 友達と言っても納得してくれない沙世ちゃんに、昨日と今朝の出来事の一部始終を話した。


「えー、電車で話しかけられた? 毎朝同じ電車って、それって譲に気があるから見てたんじゃないの?」


「そーかな」


 私は苦笑する。沙世ちゃんはなんでも、恋愛方面に話を持って行きたがって困ってしまう。




 南 沙世(みなみ さよ)ちゃんは、高校一年から同じクラスで私の親友。肩までのウェーブヘア茶髪で、おしゃれ大好き、恋バナ大好きな乙女チックな子。噂話に目がなくて、いろんな情報を知ってるけど、他人事に深入りして騒ぎにしてしまうことが多々あって……それがたまにキズ。


「菊池君は、誰とでもすぐにお友達になれちゃう子なんだよ、それだけ」


「ホントにぃ?」


「ホントだって。とくに連絡先だって聞いてないし、ただの友達」


 そう言って私は、誰にも気づかれない様に近くの席に座ってる御堂(みどう)君をちらっと見た。彼は友達と話してて、こちらを見たりはしない。


「あっ、沙世ちゃん、今日のリーダーの……」


 話をそらして、また沙世ちゃんと話し始めた時、御堂君が私を見たこと、2人の会話が聞こえていたことには気づかなかった。



 ✜✜



 なんか、今日は疲れたな……

 結局、あの後も、沙世ちゃんの質問攻めにあって、菊池君のことを根ほり葉ほり聞かれた。そんなに聞かれても、昨日知り合ったばかりなんだからほとんど知ってることもないし、最後にはただの友達だって渋々納得してくれたみたいだけど。

 でも、沙世ちゃんと話してて、疑問に思った。

 菊池君と私は、どんな関係?

 もちろん、彼氏彼女ってのは違うし。友達って言ったけど、昨日会ったばかりなのに『友達』でいいのかな? それとも単なる知り合いレベル? 顔見知り?

 考えてると、どんどん分からなくなってくる。

 もし、私が菊池君の立場だったとして。毎朝おんなじ電車に乗ってる菊池君に気付いたとして、話しかけるかしら?

 私だったら、話しかける話しかけないの前に、その存在自体にも気づかないだろうけど、もし気づいてたら話しかける?

 うーん……そうとう興味があったら話しかけるかな……。でも、ぜんぜん知らない人に話しかけるのは勇気がいるなぁ。話しかけるなんてやっぱ無理かも。

 菊池君は、勇気があるなぁ。それだけ、私に興味があるってこと? それとも、ただ単に人懐っこくて誰とでもすぐに仲良くしちゃうだけなのかな。




『それって譲に気があるから見てたんじゃないの』




 沙世ちゃんの言葉が、頭をよぎる。

 まっさか、ねぇ。そんなわけないよ。自意識過剰もはなはだしいでしょ。

 私は、身長162cm、胸までの黒髪ストレートヘアで、見た目は明るい方ではない。顔は女友達からはかわいいって言われるけど、ありきたりな普通の顔で、特別かわいいわけではないと思う。今までモテたこともないし。そんな私に、興味を持つのだろうか?

 そんなことが頭の中をぐるぐる回ってぜんぜん集中できなくて、図書館での勉強も早々に切り上げて駅に向かって歩き出した。




「譲子さん!」


 突然、腕を掴まれて振り返ってみると、そこには菊池君がいた。


「わっ、びっくり……」


 いろいろ考えていて、気が付いたらいつのまにか国府台駅のホームまで来ていた。


「譲子さん、ずっと呼んでたのに気づかないで行っちゃうから、気になって」


 はぁー、はぁー、息をつきながら言う。

 駅前のコンビニで友達としゃべっていた菊池君の前を、私はぼーっと通り過ぎて行って、呼んでも気付かない私の後を走って追ってきたらしい。


「ごめん、ちょっと考え事してたら、駅まで着いちゃった」


「あはは、なにそれ。悩み事?」


 また、小首をかしげて覗きこんでくる菊池君。癖なのかな?




「おーい、カンナ。急に走ってって、どーした?」


 菊池君の友達数人が、階段を上ってホームにやってきた。


「んー、ちょっと知ってる子がいて追いかけちゃった」


 友達と話し始めた菊池君を見て、私はその場を離れようとした。

 ぐいっ。

 また、腕を掴まれて菊池君の方へ引っ張られる。


「どこ行くの? もう電車来るし、一緒に帰ろう?」


 そう言われたら、一緒に帰るしかないよね……



 ✜✜



 電車の中。


「菊池君は部活帰り?」


 私と菊池君は、菊池君の友達から少し離れて2人で立っていた。


「うん、何部だと思う?」


 じーっと菊池君を観察する私。学生鞄の他に、ピーナッツ型の大きな鞄を肩から提げている。


「テニス部?」


「あったり~! なんで分かったの? って、わかるか」


 自分の鞄に気づいて笑う菊池君。


「カバン、テニスラケットのでしょ?」


「うん。譲子さんは?」


「私は水泳部」


「えっ、水泳? まだプール冷たくない?」


 ふふっ。

 本気で驚いてる菊池君がおかしくって。


「今はまだ学校のプールは水温が低いから、入ってないよ」


「あれ? じゃ、今日は部活帰りで遅いんじゃなくて?」


 不思議そうに聞いてくる。


「放課後、図書館に行って勉強してたの。もう二週間後に中間試験始まるしね」


「うちも二週間後から試験だよ……。あー、勉強しないとやばいなー。あっ、もしかして昨日も図書館の帰りだった?」


「うん。たくさん本のある空間好きだし、勉強も進むから。っと言っても、半分は本読んじゃうんだけどね」


 そう言って、私は苦笑する。


「俺、試験一週間前までは部活で、帰りはいつもこの時間なんだ。明日も一緒に帰れるかな?」


「……えっ?」




『譲のこと、好きだから、一緒に登校しようって言ったんじゃないの』




譲子が悶々と悩む回でした。


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